失ったもの
「ねぇ、こうちゃん」
「...なんだ?」
「私、好きな人ができた」
「そうか、おめでとう」
事後に伝えることじゃないだろうと思いながら聞いた。
「同じクラスの子なの。告白されてね」
「まさか、お前が告白されるなんてな」
「むー...」
「怒んなって」
確かに、杏奈は他と比べるととても可愛い。
俺は、素直に祝福はできた。幸せになって欲しいと願った。...だけど、なんだろう。この喪失感は。付き合っている関係でもない。愛し合っている関係でもない。のにこのモヤモヤは、晴れることはないだろう。
恋愛とは、男女が愛し合うこと。体で繋がっただけの関係は、不純だ。ましてや、高校生がそんな関係なんて、もってのほかだ。
「おはよ、隼人」
「おはよう!!」
なんでこいつはこんなテンションが高いんだ。
「朝からすごいなお前」
「だってさ!週末!バイト先の先輩と出かけることになったんだよ!」
「まじかよ、すげぇな」
「いやー!モテ期、到来!って感じ!」
何となくイラつく顔に、思わず殴ってしまいそうだ。
「あれ、杏奈は?」
「ああ、あいつ彼氏出来たからそいつと行ってんじゃね?出てくの早かったし」
やはり、本当に出来たのか。少し、寂しい気がした。
「早く行こうぜ」
俺の少し暗い気持ちとは反対に、隼人はものすごく明るい。...とても、健全な恋愛をしているのだろう。
学校につくと、何故か杏奈を探してしまう。なんで、と言われたら、答えられない。自分でもわかっていない。性欲を満たせないだからだろうか?そんな気持ちで繋がった関係だってことを、再認識する。
「こうちゃんー、帰ろ~」
夕焼けに照らされた廊下で、声をかけられる。
「杏奈、彼氏は?一緒に帰んないの?いつも一緒に帰ってるじゃん」
いつもどおり接する。
「ん?まぁいいじゃん」
何とも歯切れの悪い。別に一緒に帰ることが嫌とは思わないけど、この現場を彼氏に見られて浮気と思われる方がやばい気がした。
「ねぇ、こうちゃん最近元気なくない?」
「ある方だろ、俺。というか隼人がうるさすぎるんだよ」
「まあ、今兄ちゃんウキウキだからねぇ」
「ほんと、恋愛してるって感じだよな」
「うん...」
こころなしか、杏奈は元気がないように見える。
「どうした?なんか暗いけど」
「...彼氏と、別れたんだ」
「え?」
まさか、1週間だぞ?そんなすぐ別れるなんて、普通に考えられない。
「まさか、お前の拘束が厳しいからとか?」
「違う...」
「それか、行為に対して積極的すぎたんじゃないか?あ、もしかし...」
「違うって言ってるでしょ!」
赤く染った空、沈みかけた太陽に照らされた俺らを、切り裂いたような声が響く。
「っ...」
「...ごめんっ」
杏奈は駆け出していってしまった。その姿は、杏奈は避けていた時の俺の姿と重なる。心臓をギュっと掴まれたような感覚。...まるで、天からの罰のようだ。清楚な体を汚した、俺に対しての。
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私は、何をしてるんだろう。あの時、なんで明るく振る舞えなかったんだろう。もちろん、康介は悪くない。体の関係を迫ったのは私。でも、彼氏ができた。相手から告白してきて、付き合うことになった。...でも、何故か心が落ち着かなかった。恋愛が原因、というわけではない。どこか、体が求めているような、そんな気がした。
彼氏から、別れようと話をされた。一瞬、固まった。まさか、1週間で別れるなんて、仰天だった。理由は、他の人ができたから。...正直、意味がわからなかった。最愛の人と付き合い、愛し合い、体を許すのが恋愛、というものではないのか?...だとしたら、康介との関係は、間違っているのか?前は、体だけの関係、性欲を満たすだけの関係。でも心のもやもやが晴れない。この感情は、なんなの?何を求めているの?何がしたいの?...そんな考えがごっちゃになってしまう。
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「なぁ、杏奈、どうだ?」
「ずっと部屋にひきこもってる。やっぱショックだったのかな」
「当たり前だろ。お前だってバイト先の先輩に振られたらキツイだろ?」
「まあ、それはそうだな」
「じゃ、明日学校でな」
「おう、おやすみ」
杏奈は、相変わらず元気がないらしい。学校でも、周りとは話をしてないらしい。...こういうときは、どうしたらいいんだろうな。
「ねぇ、最近康介くんかっこよくない?なんかさ、クールというか」
「ね、私ドキドキしてきたかも」
「お、じゃあいっちゃいなよ!」
廊下を歩いていると、そんな話し声が聞こえた。こんな会話、彼女がいない人からしたら、その人と関係を深めたいとなるだろう。俺も、彼女はいない。だからといって、仲良くなろうなんて、思えなかった。なにか、忘れているような気がして。




