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その8


 ある日の午後、湊人がパン棚の在庫をチェックしているとカウンターで怒鳴り声が聞こえた。

「なんだと! お前、バカにすんなやあ」

 今カウンターにいるのは新入りのバイトだ。恐らく慣れない操作で少し時間がかかっているのだろう。わずかな時間を我慢できずに怒りを爆発させる客もいるものだ。やれやれ、助けに行ってやらなきゃ。湊人が腰を上げて近づいた時、聞き慣れた声がした。

「よう兄ちゃん、俺は平気、平気。時間かかっていいから」

 叔父の由雄だった。怒りで握りこぶしを作っている初老の男性の後ろに並んでいる。老人は振り向いて由雄を睨みつけたが、そのまま固まっている。

 慌てて近づいた店長がカウンターのバイトにテキパキと指示している。真剣な顔でディスプレーを眺めていたバイトはパッと明るい顔になった。

「お客様、お待たせしました!」

 憮然とした表情のまま客が出て行き、湊人に気がついた由雄は笑った。

「世はなべて事もなし、だよ」

「なべ? 何?」

「はは、まあいい…。ところで、事もなしと言えば先々月くらいの事だけど、覚えてる? ほら、中古のペンシルハウスの件。あれ、決着したよ」

「覚えていますよ。決着したとは」

「住宅ローンを貸し付けた銀行が嗅ぎつけたらしい。自宅のはずが賃貸物件として使われていた件だよ。なんと、あの二人以外にもう二人、四人も住まわせてたんだな。原田君から聞いた。その手の情報はすぐに回ってくるらしい」

「ええっ、四人も!」

「そうそう、二階と三階にかなりの魔改造を施してあり、自宅兼賃貸物件だが大部分が低所得層向け賃貸物件だと判定されたらしい。悪質な契約違反だから、家の持ち主はローンの残債全額の即刻支払いを求められるらしい」

「…」

 由雄は苦笑した。

「その最終結果を知るために、もう一度あの家の前を通って見るかい?」

「いや、もういいです!」

 湊人は慌てて手を振り、由雄にクルリと背を向けて商品棚に向かった。湊人の背中に向けて由雄の笑い声が響いた。



終わり




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