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その3

  

「これ、受け取りたいんですけど」

「承知しました。少々お待ちください」

 湊人は手早くコンビニ受け取りの客と対応する。

「ありがとうございましたあ」

 いつものように次から次へと客をさばいていく。あれから二週間、湊人は忙しくコンビニでの仕事をこなしていた。働き始めて二ヶ月になり、湊人はほとんどの業務を自信を持ってこなせている。コンビニ受け取りも雑多な業務のうちのほんの一つに過ぎなくなった。そう言えば奇妙な感覚を覚えたことがあったが、あれ一度きりだった。今思えばただの気のせいだった、と湊人は思った。

「お待ちのお客様、どうぞ」

 顔を上げて列に並んだ客を見た湊人は、一瞬固まった。列の三番目にいる男性、二十代後半、小柄、小太り、髪はボサボサで耳の下くらいの長さ…。以前見た客と受ける感じが似通っていた。

 湊人の目の前の客が湊人の視線を追い、何事かと後ろを振り向いた。湊人ははっとし、慌てて目の前の客の商品を勘定した。

「はい! ありがとうございます。合計千二百十円になります」

 客は何事もなかったように去って行った。

 列の三人目の小太り客が目の前に来た。

「これ、受け取りたいんだけど」

 湊人は引き換えの票を受け取り、客をさっと眺めた。前の不審感を抱いた客とは別人だった。

「はい、少々お待ちください…」

 湊人は事務室兼休憩室に入り、棚にあるアイテムを手に取り、番号を照合する。以前の不審な客の時と同じ、大手オンラインショップの商品だった。おそらく正規品、単行本くらいの大きさの軽めの箱だった。

 品物を抱えてカウンターに戻ろうとした時、ちょうど菜月がミネラルウォーターのボトルを持って休憩室にやってきた。やれやれちょっと休めるわ、と至福の表情をしている。

「ごめん、吉野さん!」

 菜月は露骨に嫌そうな顔をした。

「何か?」

「休憩時間にごめん。あのさ、今来てるお客なんだけど。ちょっと見てみない? この前俺が言った、変な客とその…、何となく感じが似ててさ」

「は?」

 戸惑う菜月を促し、湊人はカウンターに戻る。

「お待たせしました。品物はこれでよろしかったですね? どうぞ」

 湊人は菜月が男を横目で観察しているのを確認しながら荷物を引き渡した。男はそそくさと店を出て行った。


「どう思う? 以前の男もあんな風貌だったんだ」

「ふうん、同じような感じの客かあ。兄弟じゃないの」菜月は興味がなさそうに言う。「単に真鍋君が嫌っているタイプなんじゃない? つまり君の偏見の産物ってこと」

「…もしかして俺をディスってるとかじゃないよね」

「別に。ふう〜。真鍋君は本当に色々こだわるんだね」

「いや、この前といい今回といい、あまりに感じが似てたから俺の直感が何かを知らせているんだよ」

「知〜らない! じゃあ、実際にその人に聞いてみれば?」

 菜月は休憩室に引っ込み、湊人はまた仕事に戻る。

 湊人は少し落ち込んだ。こんなことが気になるなんて、俺はおかしいのか。それとも単に仕事の流れに慣れていないせいなのか。そのうち何も気にならなくなるのかな、そうだといいが、と湊人は首をブルっと振った。


「よう、湊人。元気でやっているか」

数日後、叔父の由雄がたくさんの菓子パンやサンドイッチなどをレジに持ってきた。「外回りが終わって事務所に戻るところだ。ここのカレーパンは皆に人気があってねえ」

「ありがとうございます」

「少しは弱小コンビニの売上に貢献してやるよ」

「叔父さん、あのさ」

 湊人は最近の自分が気になっていることを叔父に伝えた。叔父の由雄は顔をしかめた。

「この前の件の続きだな…。君の勘が当たりか、それとも犯罪を作り出そうとしているのか」

「何でだい! 真面目に聞いてよ。同じような見かけのお客が同じようにコンビニに来る。同じように品物をコンビニ受け取る。かなりの確率で怪しくなって来たと思わない?」

「まだでっち上げの段階だ。変なことをしたら今時、名誉毀損で訴えられるレベルだな」由雄は困惑の顔つきのまま、少し考えて言った。「じゃあ、受け取りか何かでその男の住所を見て、前の男の住所と比べてみたら」

「それが、記録が残らないんだ。客は店のポータルで操作して、ここへ持ってくるのは品物の明細だけ。商品ラベルには受け取り場所はコンビニに指定され、俺ら店員には客の住所はわからない」

「お客のプライバシーがちゃんと守れるようになっているのか。…いいねえ。それじゃ怪しい薬とかを送れるわけだ」

「いや、それは難しいらしい。真っ当なオンラインショップの商品だけなんだ、ここで受け取れるのは」

「やれやれ。じゃあ、もう君の好奇心を満足させる方法はないよ」

 湊人はうなずいた。もう仕事に戻ろうとした時、由雄は思いついたように目を光らせた。

「あのな。へっぽこ探偵殿が気が済まないのなら…。じゃあ、こうするか」

「どうするんだい?」

 由雄はオホンと喉を鳴らした。

「次の機会に、もしその手の怪しげな男が来たら店を出て、後をつけるんだよ。簡単なことだ。このコンビニで荷物を受け取るくらいだから近くに住んでいるはずだ。車で来たわけじゃないだろ?」

「…歩いて来たみたいだった。どちらの客も車じゃなかった。後をつけるって…。いいのかな」

「君が気の済むようにね! 別に後をコッソリつけるだけなら犯罪でも何でもない」

「でも、仕事中だったら抜けられないし」

「他の店員に断って抜けたらいい。ふん、お芝居をしなよ! カウンターの横に何か自分の物を置いておくんだ。鍵とか携帯とか、手帳とか。その男が店を出たところで騒ぐんだ。『あ、お客さん、忘れ物です』と言って、お客の物を届けるフリをして、同僚に断って追いかけるんだ」



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