チューニング-3
それでは、生徒『みんな』の紹介をしようと思います。
黒姫春香ちゃん。
きれいな黒髪と、大きなリボンが特徴的。僕の5人の生徒の中で一番年上で、みんなのまとめ役。
楽器はリコーダーを教えているけど、今は鍵盤ハーモニカを教えて欲しいとのことで、今はそっちを教えてます。
こっちの学校は、小学校高学年でも鍵盤ハーモニカでもやってるのかな?
顔立ちは、ちょっと大人っぽくて、可愛いというよりきれいといった感じ。だからもてるんだろうなぁ……お説教がなければ。
「優活さん?……なにか?」
イエ、ナンデモナイデスヨ……?
つ、次は星々緋華里ちゃん。教えているものはリコーダー。
栗毛のショートカットで少しウェーブ、そして優しげで、おとなしそうなイメージを出してるけど、実はとてもお転婆さん。
そんな表情と、活発さから、男女問わず、友達がたくさんいるみたい。あと、よく男の子に交じって遊ぶことが多いそうです。
赤井士煌君。緋華里ちゃんと同じくリコーダーを教えてます。
赤茶色の短髪で、とても活発な男の子。やんちゃという言葉はこの子のためにあると思う。
活発な少年らしく、いろんな部活の助っ人をしているそうです。
そして、緋華里ちゃんと手を組んでボクをからかったりします……。
有珠花さくらちゃん。教えてる楽器は鍵盤ハーモニカ。
明るい茶色の髪に可愛らしい顔立ち、口数は少ないけれどその分いろんな表情を見せる素直な子。
甘いものに目がなくて、今現在カップケーキを食べてる数が一番多かったりします♪
「…………(至福の表情でほおばっている)」
あんなに嬉しそうな顔されると作ってきた甲斐が――
「痛っ!?」
突然、髪を引っ張られた。何事かと思い、振り向くと、
「は、春香ちゃん??」
「………………(ぷいっ)」
そのままそっぽを向く春香ちゃん。な、なんだったんだろう……。
……えーと、では最後に、露草蘇芳君。教えてる楽器はさくらちゃんと同じく鍵盤ハーモニカ。
少し青みがかった黒の短髪に子供らしい幼い容姿。そして小心者さん。
この子は……うん、昔のボクを見ているようで放っておけません。
さくらちゃんととってもなかよしさんです。
これで全員。以上五名、これがボクの生徒になります。
~♪~
カップケーキをほおばっていると、隣から強い視線が……。
穴があくほどの視線っていう表現があるけど、たぶんこういうことなんだと思う……。
「あ、あの……春香ちゃん?」
とりあえず、熱線レベルになりつつある視線の主とコミュニケーションをとることにした。
「……」
「は、春香……ちゃん?」
「…………」
「……え、えと……」
「………………」
「…………」
だ、だめだ。全く視線を外そうとしないうえに、しゃべろうともしない……。
どうしたものか、と考えていると、春香ちゃんが僕の顔に手を伸ばしてきた。
「……優活さん、ついてます……」
「え?あ……あぅっ!?」
どうやらボクの頬についていたカップケーキの食べ残しを取ってくれたらしい。
ありがとう、と言おうとして気がついた。
小学生の女の子にほっぺたの食べ残し――所謂お弁当を取ってもらう(もうすぐ)高校生の姿……。
~~~~~~~~~~~っ!!!??
一瞬で顔全体に血が回ったのが分かる!耳まで真っ赤なんて言葉があるけど、これはそんなやわなもんじゃない!
絶対首の後ろまで……いや、きっと全身真っ赤だ!
こ、こんなみんながいる所で……って、みんな!?今度はいっきに全身に一気に寒気が走る。
だ、誰にも見られてないよね?周りを見渡すと、みんな好き放題に動き回っており、こちらの様子に気がついてないようだった。
安心してほっ、と胸をなでおろす――が、
(ど、どうしよう……。や、やっぱり「ありがとう」って、言ったほうがいいよね?)
沈黙が漂う。
隣は黙ったまま取った物をじっと眺めたままで、動きを見せる様子はなかった。
そんなにまじまじ見られると恥ずかしい……。冷めた体が今度はどんどん熱くなってゆく。
熱くなったり冷たくなったり……体も大変だなぁ……と、のんきに思ってしまったが、そんな場合ではなかった。
(えーと、……あった!)
ティッシュを出そうとして、ポケットに手を入れた時、春香ちゃんが動いた。
「あ、春香ちゃん、これつか――」
ぱくり。
そんな音が似合いそうな仕草だった。今……指についてたモノを……口の……中に……。
その後、顔をうつむけて、ぼそぼそとつぶやいた。
「……」
「……」
「……優活さん」
「え、はっ、ひゃい!」
「…………年齢、偽ってませんよね?」
「え……へ?」
顔を赤くして、睨みつけるような視線だったから、てっきりまたボクにお説教をするのかと思ってたけど、様子がおかしい。
年齢を聞かれるような質問は、これまで何度もされているので(この2週間ほぼ毎日。しかもほとんどがお説教のため……)
この手の質問は、強めの口調で行われる。……でも、今回は弱めの口調。だけど――
「……本当に、……高校生なんですよね……?」じりじり。
「えぅ、……あ……はい……」ずりずり。
――追い詰めるように近づいてくるので、何とも言えない恐怖感がそこにはあった。
「うそ……ついてませんよね?」じりじり。
「ら、来月に入学式が――」ずりずり。
「中学のですか?」じりじり。
「高校のです!」ずりずり。
「嘘言わないで下さい!」
「うそじゃないもん!!」
そんなやり取りをしているうちに、もう端まで追い詰められてしまった。
「じゃあ……」
春香ちゃんが体を震わせ、
「なんでそんなに子供なんですかっ!!!!」
指を突き付け、思いっきり声をあげて言い放つ!
「――っ!……き、聞き捨てならないよ春香ちゃん……ボクのどこが子供っぽい」
「全部です!それに子供っぽいんじゃなくて、子供なんです!!時間にルーズだし、すぐ涙目になるし、口の周りは汚すし、肝心な所でドジだし、すぐむきになるし、言葉づかいもところどころ子供だし」
「じ、時間にルーズって……きょ、今日は足止めを」
「へぇ~~今日で何回目ですかねぇ……そのあ・し・ど・め・と・い・う・の・は!」
「じゅ、じゅっかい…………です」
「ほぉぉぉ~~、じゅっかい。十回も足止めを…………………………遅刻の理由を勲雄さんの所為にしない!!」
「ひゃい!」
「優活さん!そんなんじゃ始業式はどうするんですか!?」
「そ、それは大丈夫。僕はこれでも朝は早」
「でも足止めを喰らっちゃうんですよね!!?」
「あぅぅ……」
「!ほら、また涙目になった。……はぁ、これじゃあ本当に手のかかる子供ね……。」
「て、手のかかるって……」
「そうです!……いえ、この際だからもう私我慢しない。言わせてもらうわ、優活ちゃん!」
「そしてちゃんづけ!?」
ボクのことを逃がさないように肩をしっかりつかみ、まっすぐ見つめ、真面目な顔で言い放った。
「あなた本当は、……私たちの学校に転校してきた…………………………女の子でしょう?」
爆弾発言により思考停止。突然の衝撃に、ボクの頭の中が空っぽになって――
(あぁ、だから‘ちゃん’づけしたのか)
(子供って、なんじゃイ!子供って!)
(年上の人に対する言葉がなってないゼヨ!)
(セイバーイ!ハラキーリ!)
数々の混沌が渦を巻いてゆく。
「優活ちゃん……あのね、私、怒ったり笑ったり馬鹿にしたりしないから……ね?お姉ちゃんに本当のこと……言って?」
――ぷっちん♪
(数々の無礼、もう我慢できん!斬る!)
整理がついた。うん、怒ろう♪肩をつかんでいる春香ちゃんの手をつかみ返し、思い切り睨む。
「っ!?」
一瞬、怯んだように後ろに下がる。ふっふ~ん、顔を赤くしちゃって。今さら年上の怖さを知ったっておそいも……遅いんだよ?
「春香ちゃん……よくもそんな言いたい放題……ボクだって、我慢しないよ?黙っていればいい気になって……」
「ゆ、優活ちゃ――」
「ボクは!嘘なんか付いていない!ましてや、小学生でも女の子でもない!!」
気持ちがどんどん昂ぶってゆく。このまま押し切る勢いで決定打を言い放つ――が、
「ボクは……‘僕’はおと――」
「オトコノ‘コ’!……ですよねん♪」
それは、横からの妙なニュアンスのある援護射撃に‘遮られた’。
「……そ、そうだよ緋華里ちゃん!わかった、春香ちゃん?僕は立派な男の子――」
「オトコノ‘コ’。――漢字で当てると‘男の娘’。外見上は美少女にしか見えず声からも少年とは認識できない男の子を指す言葉。……まさに優活さんのためにある言葉ですね♪」
「へ……え?」
「あっははは、確かに……、優活さんぴったりだな!よく言った緋華里!!」
「ちょっ、士煌君?!」
「でしょ、でしょ?」
「ああ、小学生の俺達が見ても、幼い!……って、断言できるし」
「うっ!」
「女の子の私が見ても……、ものっすっっっごい可愛い顔してますし」
「あうっ」
「肌白いし」
「ぇう」
「女の子みたいな、可愛い声出してますし」
「うぅ……」
「髪もすごくきれいだし、お肌もすべすべ……いったい何食べたらそうなるんですか?」
「そ、それは普通にご飯食べてるだけで……」
「食べるといえば、体も細いですよね……ちゃんと食べてます?」
「た、たくさん食べてるも……よ」
「掃除に、洗濯、炊事に裁縫、怪我をしたら手当までしてくれる……俺の姉貴や母さんもびっくりですって」
「そ、それは、……一人暮らしが長かったから仕方なく」
「お嫁にしたい人ナンバーワンに選ばれそうですね♪」
「ぐふっ」
「毎日おいしいお菓子も作ってくれるしな。まさに女の理想像!……くぅぅ、こんな人と結婚したいぜ!」
「士煌君、僕は男だからね!」
「……」
「んぁ?緋華里、どうしたんだ?」
「え……?あ、ああそうですね、優活さんものすごくいいにおいしますもんね」
「ん、まぁそうだな」
もうやめて、もう聞きたくない……。僕をオーバーキルして何が楽しいんですか……。
「それに……」
「ああ」
「「背が小さい!!」」
いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ひ、人が一番気にしていることを……。
「で、でも……君たちよりは大きいもん!」
「そりゃ当り前でしょう……ん?でもおかしいですねぇ、何で私たちは優活さんの身長が小さいと感じたんでしょうねぇ……?」
「あ、確かに。そう言えば俺達、優活さんの身長、聞いたことないな……。」
な、なんか雲行きが怪しい……。
「ふむ、……ちょうどいい機会です、優活さん、身長何センチですか?」
「(や、やっぱりキタ!)ひ、1よ――50!」
「優活さん、今ごまかしませんでした?」
「そ、そんなことナイ……よ?」
「……まぁいいです。春香さん、ぽーっとしてないで、立って下さい。」
緋華里ちゃんに諭され、春香ちゃんが、ふらふらとした足つきで立ち上がる。
その顔はまだ赤く、焦点が定まっていないようだった。……ちょっとすごみすぎたかも……、少し反省。
「春香さん、しっかりして下さい。……春香さん、身長は?」
「……1…48………」
「148センチですか……。んー、じゃあこのまま背比べしますので、優活さんと背中合わせで」
「ふぇ!?」
――――っ!?
絶句。
春香ちゃんが間の抜けた声をあげるが、そんなことを気にしている場合じゃない。
だって今、緋華里ちゃんはなんて言った?背比べ!?
「んー?優活さん、どうしたんですか?」
緋華里ちゃんが嫌な笑みを浮かべ、こちらを見ている。
間違いない。あの笑みは、僕の方が小さいと確信している!
「優活さ~ん、良かったじゃないですか~。これで白黒はっきりつきますよ~♪」
どどどどどどどどどどどどどーしよ!!!
だってだって、春香ちゃん148センチもあるんだよ!?
背比べなんかしたら……晒しものになっちゃうよ!
「優活さ~ん、どーしたんですか~?ほらぁ、すぐすみますよ~、痛くないですよ~♪優活さんの方が身長2センチも勝っているんですからぁ~♪」
「だ、だったら、こんなことしなくても――」
「ん~、でも~、最初の疑問の、『何で私たちは優活さんの身長が小さいと感じたんでしょうねぇ』と言うのが解決してないんですよ~。だから、これさえすめば私たちは何も言いません。だから~、ぱぱっとやっちゃいましょ?背の大きい高校生の優活お兄さん?」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!
た、楽しんでる。僕を追い詰めて楽しんでる。な、なんて恐ろしい子なんだ、緋華里ちゃん!
ど、どうにかしてこの状況を打破しないと……。
はっ、こんな時は脳内会議!
(逃げる)
(逃げるしかねィ)
(逃げるしかないゼヨ)
(エスケープ、エスケープ!)
(問答無用!逃走択一!!)
よし、――逃げちゃえ☆
「おっと、どこに行く気ですか?」
「っ!士煌君!」
「まさか……いい歳した男が小学生に背向ける……、なんてかっこ悪いこと、しないっすよね?」
「いいことを教えてあげる。僕がこの世で最も嫌うことは…………………………身体測定だ!」
「そうですか、残念ですよ……、優活さん……っ!」
士煌君が僕をまっすぐ見据え、構える。一触即発の雰囲気。士煌君には運動部の助っ人として鍛えた身体能力がある。
対して僕の運動は軽いジョギング程度。だから運動性能での対決はこちらが不利。でも、僕には今まで生きてきた時間――経験と知識がある。一時も油断できない、でも、だからこそ考える。
じり。
じり。
考えろ、考えるんだ。
相手が1歩進めば、こちらが1歩下がる。
じり。
じり。
一進一退とはまさにこのことか。
この勝負、
じり。
じり。
おそらく先に仕掛けた方が……
じり。
じり……ぺたり。
ん?ぺた……り……っ!
「士煌ナイス!」
緋華里ちゃんの声に、いえーい、と高らかにVサインを掲げる士煌君。
はめられた……。
思った時にはすでに遅し。いつの間にか僕の体をしっかり押さえた士煌君により、脱出は不可能。
そのすきに緋華里ちゃんがメジャーを持って(どこに隠してたんだろう?)背中合わせになった、僕と春香ちゃんの身長を測り終えていた。
測り終えると、糸が切れたように春香ちゃんがへたり込む。春香ちゃんも、身体測定、嫌いだったんだな……。
新しい一面を発見した気分だった。
って、そんなこと思ってる場合じゃない!
「148.2に144.9……」
ば、ばれちゃった……ほ、本当は150も行ってない身長が……。顔から一気に血の気が引く。士煌君はそんな僕の肩にポンと手を置き、
「優活さん、俺よりも低いんですね……」
衝撃の事実発覚!?
「え、……士煌君、何センチ?」
「146」
小学4年生に敗北通知を言い渡された。なんでそんなに大きいのかなぁ、今の小学4年生……。
「そんなことより優活さん、何で嘘をついたんですかねぇ♪」
ものすごく嬉しそうな顔をして僕に近寄ってくる緋華里ちゃん(136センチ)。
「……う、嘘じゃないもん!この間家の柱にキズをつけた時は150位――」
「じゃあ今のこのデータは何ですか♪」
「そ、それは……に、人間は寝るときと起きるときの身長が違」
「今は起きてる時間ですよね♪」
「……」
「…………♪」
「だって悔しいんだもん!!」
「開き直った!?」
だ、だってだって、高校生男子が150にも満たないなんて笑い話のタネにもなんないもん。
それに、
「それに四」
「四捨五入すれば150センチだなんて言わないでくださいね?実際、四捨五入しても150になりませんから♪」
「……」
「…………♪」
「な、なるもん!」
「小数点を四捨五入した後に、一の位を四捨五入ですか?そんなことしたら優活さんの身長は十の位を四捨五入して2メートルですね♪」
「……」
「百の位も四捨五入して0にしますか?……♪」
「ほ、ほんの……出来心だったんですぅぅぅぅぅぅ……。」
ああ、情けない。僕は小学生に嘘をつき、あまつさえその子たちの前で泣きわめいてしまった。子供のように……。
そんな僕に士煌君と緋華里ちゃんはやさしく手を置き、
「優活さん」
「こんなみみっちい嘘をつくような人は」
「「子どもと言われても仕方がないっ!」」
……追い打ちをかけるのだった。
しおうと ひかりは「ショック」を となえた。
ゆういの せいしんに 4000の ダメージ。
文字通り、雷を撃たれたような衝撃が走った。
ボクはそのままふらふらと数歩歩いた後、がくりと膝から崩れ落ちる。
うう、そうだよそうだよ!どうせボクは、童顔で女顔でチビですよ!おかげで女子にはおちょくられて、男子からは変な目(何か興奮気味に)で見られましたよ!
小学校の卒業文集で、「恋人にしたい女子」「お嫁さんにしたい女子」「弟、妹にしたい子(妹の方で)」全部1位!三冠王に輝きましたよ!!中学に入ってからも……あああぁぁぁぁ!も、もうやだ……。ここ来れば、知り合いがいないから安心してたのに……その結果がコレ。しょ、小学生にまでいじられるボクって…………もやだ。
「あ、まるくなった。」
「まるくなったぁ~。」
「「まあるくなった~、煮え立った~♪」」
しおうと ひかりの ターン。
「あんこくのぎしき」を となえた。
「贄たぎるうた」を となえた。
「「煮えたか、ど~だかたべてみよ~♪」」
「おおがまのダンス」を となえた。
「「むしゃむしゃむしゃ♪」」
「むさぼりくうストロさん」を たべ…いけにえに ささげた。
「ドラ子」を たべ…いけにえに ささげた。
がったいまほう「ダンシング・ストロさん」はつどう。
ゆういの せいしんに 18000の ついか ダメージ。
「う、…………うんがぁぁーーーーーーー!!!!」
「きゃーーー☆優活さんが怒った~♪」
「逃っげろ~~~☆彡」
も、もういいもん!もうおこったもん!!高校生の恐ろしさ……みせてやるぅぅぅーー!!!
ゆういの ターン。
「もうお菓子作ってこないんだから!!!!」
ゆういは きゅうきょくまほう「タイムストップ」を となえた。
しおうの ターンが とまった。
ひかりの ターンが とまった。
ゆういの ターン。
えいぞくまほう「こおりつくれいき」を となえた。
えいぞくまほう「ステイシス」を となえた。
「もう、みんなとも遊んであげないんだから!!!!!」
「ときをくうやぎ」を しょうかん。
「ときをくうやぎ」の のうりょくを きどう。
つぎの じぶんの ターンを スキップする。
きゅきょくがったいまほう「クロノス停止す」はつどう。
ずっと あいての ターン。(ただしあいてはなにもできない)
「ず、ずっっっっりーーーーーー!!!」
「優活さん卑怯です!」
ふん、どうだ。参ったか!なんとでも言え、悪いのはそっちだもん!!ボクは深ぁぁぁぁぁぁぁぁく、傷つきました!もう帰る、おうち帰る!!
小学生相手にそんな大人げないやり取りをしていると、服の裾を引っ張られた。蘇芳君とさくらちゃんだ。
「優活さん……もう来ないんですか……?」
「お菓子も……作ってこないんですか?」
二人が潤んだ瞳で、僕を見上げてきた。う、この目は弱いんだよなぁ……でも、
「も、もう高校生は怒りました!お菓子も作ってこないし、みんなとも遊んであげません!!」
そう簡単には許してはいけない。僕は相当怒っているんだって、アピールしないと……。
「そ、そんなの」
「いやです……」
二人の眼尻に涙がたまる。
う……だ、だめだめ!簡単に許したら、みんな『謝れば簡単に許してもらえる』って、思っちゃうから。
「しおうさんたちには……ちゃんと、‘めっ’って……いっておきますから」
「だから……おねがいします……」
今度はまとわりついて上目使い!
こんなことをされると、自分が悪人になった気分になる(しかも二人は何も悪いことをしていないのでなおさら……)。
だからといって、ここで折れてはいけない。
「僕たち、優活さんがおにいさんでも、おねえさんでも、おかまさんでも構わないです!」
もちろん、しばらくしたらちゃんと許すけど……………………………………んぅ!?
「だから……許して!…………おねにいちゃん!!」
クリティカル!
ゆういに 10の ダメージ。
くびを はねました。
おねにいちゃん……おねにいちゃん……おねにいちゃん……。
さくらちゃんと、蘇芳君の悪意なき言葉に、ボクは再び、膝を丸めるのだった……。