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チューニング-2

S県紅坂市、山間に囲まれ、森林にも恵まれていて、どちらかというと田舎に近い場所。

駅前は都会のにぎやかさがあり、隣町に行けば海もある。そんな町に僕は卒業と同時に、じいちゃん――天川勲雄あまかわいさおの家に住むことになった。

理由は、今度通う高校は、前住んでいた場所から遠すぎるということと、僕の両親がほとんど家にいない状態――所謂、半一人暮らし状態が心配だということ、そして――。

おっと、見えてきた見えてきた……ああ、やっぱりみんないる……。


「あ、きた」「おそーーい!」「遅刻ーーー!」「……おそい、です……」

「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃった――」

さりげなく時計に目を向ける。


14:15


「……ち、ちょっと……オクレチャッタヨ」

「「大遅刻だよ!!」」


声をそろえて大合唱。確かに遅刻したボクが悪いのだけれども……、


『じ~~~~~~~』

「あうぅ……」


みんなの視線も大合唱。

はっきり言って怖いです!

こりゃ、ちょっとやそっとじゃ許してくれそうにもないかも……。


「ほらほら、もういいでしょ?優活さんも反省してるみたいだから、ね?」


そんなとき、黒髪の少女から助け船が渡された。その子は、ぱんぱんと手を叩きながらみんなを諭し、


「あ、ありがとう春香ちゃ――」

「それに、優活さんも。いったいこれで何回目だと思ってるんですか?あなた本当に高校生なんですか?だいたい……って、聞いてるんですか、優活さん!」


ボクにお説教をするのだった……。


~♪~


「まったく、もう!あなた本当に高校生なんですか?だいたい――」


ああまずい、ループし始めた……。

こうなった黒髪の少女――春香ちゃんは自分の気が済むまで、延々とお説教をし続ける。

……もうしばらくは続きそうだ。ごめんよ、みんな……。

もうあきらめようと思った時、一人の女の子が春香ちゃんの裾を小さく引っ張った。


「……おねえちゃん。」


精一杯の勇気を振り絞ったのだろう、小さなの女の子は震えていた。

実際、お説教中の春香ちゃんは怖い。至近距離で受けている僕が言うのだから間違いない。

なんと言うか……こう、有無を言わせない空気を発しながら、緩急をつけ、時々笑顔を交えながら(しかも目が笑っていない。コレ重要!)行うのだ。

その証拠に、離れて見ている他の三人も視線を僕たちに合わせないようにしている。

そうでなくともお説教中の人、しかもそれが自分より年上の相手に意見することは相当な勇気が必要だ。


「いいですか、優活さ――ん、どうしたのさくらちゃん?」

「……おにいちゃんのこと、もうゆるしてあげて。……それに」


小さな女の子が時計の方に顔を向ける。


14:32


時計は2時半を少し過ぎていた。


「……もうすぐ、おやつの時間……」

「あ、あららら??……え、え~と……こ、今回はこれくらいにしておきます。」


た、助かった……。春香ちゃんからのお説教地獄から解放された僕は、功労者である小さな女の子――さくらちゃんのもとへと向かった。


「あ、ありがとう~、さくらちゃん……」


しゃがみこんで顔をのぞくと、時折小刻みに震えているのがわかる。

まだ恐怖が抜けきってないようだ。


「ごめんね、さくらちゃん……。怖い思いさせて……。」

「平気……です。おにいちゃんには……いつもお世話になってますから……」

「さくらちゃん……、ありがと!」


頭に手を添え、ゆっくりと撫でてゆく。くすぐったそうな顔をしたけど、嬉しそうに目を細めて小さく笑った。


「くふふ……それに、おにいちゃんのお菓子、おいしいですから……。それより、いいんですか?」

「え?……あ!そうだ、授業授業!!」


自転車からバックを持ち出し、中から使い慣れた楽器――鍵盤ハーモニカを取り出した。

息を軽く吸い、歌口をくわえてやさしく、息を吐き出す――。


“ふあぁああ~~~~~~~~~~~~~~む。”


あたりにやさしく、高い音が広がった。

それを合図にみんなが僕の前に集る。


「みんな、遅れてごめんね。それじゃ……常盤優活ときわゆういの音楽教室、始めるよ!」



~♪~



“音楽教室”と銘は打っているけど、その実態は、河原にみんなで集まって好き勝手に吹くだけの集まりだったりする。

しかも教えている楽器がリコーダーと鍵盤ハーモニカだけ……。

“生徒”の春休みが始まってからほぼ毎日集まるけど、学校の都合上で、できるのは休日や、長い休みくらい。

とはいえ、学校が始まったら休日はみんな部活があるだろうし、他の友達との約束があるかもしれないから、

こうやって集まれるのは長期休暇くらいなものだと思う。

だからどちらかと言うと……塾?に近いかも。……うん、塾かもしれない。生徒数も少ないし。だけどそうなったら音楽塾か……なんか変な感じがする……。

ふと、妙なことを考えながら、“生徒”の方に目を向けると、ちょっとそわそわした雰囲気を出していた。

心ここに非ずと言った状態で、ときどき、ちらちらと時計を見たりして――って、時計!?

慌てて時計に目をやると、


15:30


おやつの時間を少々過ぎていたようデス……。


「あ、あははは……」

『じ~~~~~~~~~~~~~~~…………』


視線の大合唱再び。


「ご、ごめんね……お、おやつにするから待って!」


振り向いて自転車の方に駆け出すと同時に、背中では大歓声が上がった。


持ってきたおやつの包みを取ると、一斉にみんなが群がり、中のカップケーキをさらってゆく。

急いで出てきたので、味見をしていなかったが「おいしい」と元気な声が聞こえるため、味は問題がないようだった。

自分も一つ口に含む。自転車に揺られていたから形が悪くなると思ったけど、一つも崩れてなかったところを見ると、ただの杞憂だったみたい。


――うん、おいしい。

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