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新しい日々-3~Welcome the New Days~

「うわー、こんなに事細かに……」


自己紹介の後、ボクは呆然と資料を見ていた。


「これじゃ、ボクの自己紹介いらなかったんじゃぁ……」

「ふっ、そんなことはない。第一自己紹介というものは、自分の口で言うことに意義があるのだからな。この資料を渡されて、「はい、飛ばします」ではいささかナンセンスだろう?」


葵先輩が前髪を軽く払いながら答えた。普通こんなことやったら、気障っぽいって言われるだろうけど……なんかかっこいいと思ったのはナイショに――


「ふふっ、褒め言葉としてもらっておくよ」


……そんなにボクは顔に出るんですかね?


「それとキミ、我の後に『先輩』は不要だ。そこまで堅苦しく構える必要はない」


そんなしゃべり方をする先ぱ……葵さんには突っ込みを入れた方がいいんでしょうか?


「我のことは気軽に『隊長』と呼んでくれたまえ」


あれ、思いっきり堅苦しくなったぞ?

そんなボクの困惑した表情が面白いのか、葵さんは、


「『隊長』、だ」


……隊長はくつくつと笑いだす。


「それに、いい経験もできただろう」

「?」

「この部活――吹奏楽団は見ての通り男子がいない。すなわち!選り取り見取りのウハウ――どこに行こうというのかね」


回れ右をした優活の肩を葵が掴む。掴まれた彼は不満そうにほっぺたを膨らませていた。


「む~~!」

「まあまあ、落ち着け。悪い気はしなかっただろう?女の子からちやほやされるのも」

「さっきの自己紹介みたいにですか?ああいうのはちょっと……」


ちらりと目線を団員達に向ける。こちらの視線に気がついた様子もなく、まだ大騒ぎしている。


「男!男の子だよ!」「しかもとびきり可愛い子!!」「のぞちゃん先生はかれこれ20年近くは男の子が入団してないって言ってたけど」「新学期が始まる前から新団員GETできるなんてね~」「男来た男、これで勝つる!」「寿命伸びる伸びるぞ~、寿命伸びるぞ~♪」「ありがたや、ありがたや~」


きゃいきゃいと大きくなる黄色い声に、優活は頭を抱えて項垂れた。


「正直、あのテンションに付いて来れるか不安です……」


そんなボクの姿を見て、葵先…隊長は、豪快に笑うのだった。


「優活君」


目の前いっぱいに雪乃の顔が映る。優活は思わず「ひっ」と小さな悲鳴をあげて驚いた。


「まぁ!!酷いです…。私をまるでお化けみたいに…」

「んぅ!?ち、違っ」

「優活君が落ち込んでるみたいでしたから、心配してきたのに…くすん」

「ひぁっ!?ご、ごめんなさい雪乃さん!いきなりだったからちょっとびっくりしちゃって――」

「それでお化けと勘違いした……と。葵さ~ん、新入団員にいきなりお化け扱いされました~」

「え…」

「ふむ、入ってそうそう団長を泣かせるとはな……将来が楽しみだ、と言ってやりたいところだが、女性を侮辱した罪は…償ってもらわないとな(キリッ)」

「ええ!?」

「長い黒髪だからって言う理由で、貞子扱いされました~(嘘泣)」

「ぼ、ボクそんなこと言ってな――」

「おお、おお。かわいそうに、そんなあの子には罰を与えねばな(ニヤニヤ)」

「ちょ、話を聞いて――」

「それでは団長、どんな処罰がいいかね?(ニヤニヤ)」

「傷つけられたので癒しが必要です。なので……団員全員で【全身もにもにの刑】を執行したいと思います♪」


その瞬間、ボクの背中にいくつもの視線が突き刺さった。

ゆっくりと後ろを振り向くと、眼をぎらぎらと輝かせた十六の瞳がボクを見据えていた。

瞬間、優活は悟る。――ああ、これが得物を見つけた肉食獣ハンターの瞳なのだと。

頭の中で警鐘がガンガン鳴り響く。本能がボクの体に「逃げろ」と電気信号を送り出す。

はっ、と気がつき、体の反応が遅れて、体を扉《逃走路》に向けようとした瞬間――


(っ!?う、動かない!!??)


足を動かそうにも全くと言っていいほど動かない。まるで、何かに足を掴まれて……え?


「に、逃げようったって…そ、そうは、いかないのよ~……」

「だ、団員全員に、その体…じっくり味わってもらいなさい……」


そんな!?『聖剣』には倒した敵を浄化させる力があるはずなのに!!?『アンデット』化するだなんてありえない!!

と、そんな馬鹿なことを思っている場合ではなかった。


「あ、あ、あ、あああの体をををぉぉ!?」「す、滑っすべぇぇぇ!!?」「ふひひひ……♪」「ほじくる!私はあのへそをほじくるっ!!」「さっきよりも楽しませてくれるのだろうな?」「む、むしゃぶるっ!私は余すことなくむしゃぶりつくしゅっっっっっ!!!!」


にじりにじりとまるでゾンビのように近づいてくるハンター達《団員》。全員が興奮しきっているのでとても怖い!

とりあえず、ズボンの中に手を突っ込んできた海鈴さんには『聖剣』をお見舞いしておいた。

まったく、油断も隙も――あっ!

ひゅん!と素早く空を裂く。目の前のハンターたちに対して左腕(カリバーン。命名優活)を振り払い、威嚇する。


「近寄らないで下さい!近づいたら――」

「穏やかではないな、そんなものを振り回さないでくれ。」


葵先…隊長の羽交い締めにより両腕が使用不能になりました。


「優活君。君は威嚇するより先に陽菜をどうにかするべきであったな。そうすればこうならずに済んだものを」

「…………あ」


しまったぁぁぁぁぁぁ!!!先に右腕(ガラドボルグ。命名優活)で陽菜さんをどうにかするべきだったんだ……。

ボクの耳もとで葵…隊長が楽しそうに「ククク」と笑う。


「先ほどお前の体を検めさせてもらったが……綺麗だったぞ?穢れを知らないまるで無垢な子供のようだ。」


優活にしか聞こえないような声で葵が囁くと、「ぼっ」と火が付くように優活の顔が赤くなった。


「(なるほど、雪乃達が気に入るわけだ……)だが、それも今日までだ!総員、攻撃態勢に入れ!!!」


葵が手を振り上げると、団員達が「イエッサーーー!!」と声を合わせて優活に狙いを定める。

このまま葵が手を振りおろせば一斉に飛びかかる。そんな一触即発な雰囲気が漂う。

足を動かそうにもいつの間にか復活した海鈴がしっかりと押さえこんでいた。


(ふ、復活早すぎだよ!?ど、どどどどどーしよ!!??何かいい案、いい案は……はっ!こんなときこそ冷静に考えなきゃ!!)


文字通り、命を賭けるような気持ちで「きゅっ」と目をつむった。

まず状況の整理。

右足は陽菜さん、左足は海鈴さんが、二人が抑えてる。この時点で足をバタバタさせてもがくのは無理。

両腕は葵さん(もう葵さんでいいよね?)が抑えている。しかもけっこう力が強い。腕《聖剣》奪還も無理……。

どーしろと?


(こりゃ無理だーね)(諦めが肝心ですな)(これもまた……宿命さだめ


オーディエンス《脳内会議人》達は黙ってなさい!ええい、まだだ、まだ終わらんよ、諦めんよ!

他にまだ方法が……あった!そうだ、まだ……首が動く!!

作戦はこうだ。


まず葵さんに頭突きを繰り出す。

葵さんは怯んでボクの拘束を緩める。

その隙に足を掴んでいる二人に『聖剣』をお見舞いして……

華麗に脱出!!


完璧だ!!特に華麗に脱出するってところがポイントが高い!!

そうと決まれば善は急げ!作戦を実行するために目を開けると不思議な光景が広がっていた。


――あれ、みなさん?さっきいた場所よりも近くなってませんか?

――なんで飛びかかっているポーズなんですか?

――なんでゆっくりと近づいてくるのですか?

――なんであとから声(ぶっちゃけ、獣の咆哮に近い)が聞こえてくるんですか?

――そして何より……葵さん、何手ぇ下げてんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???


そんなことをしてる間にもじっくりと近づく飛びかかる獣達。その瞬間、優活は悟った。――ああ、これが走馬灯なんだ。

もう諦めよう。これ以上見たくない現実から、これから起こるであろう未来を拒絶するように、


(お休みなさい……)


ゆっくりと目を閉じた。


――ぱん、ぱん、ぱん!

乾いた音が三度鳴り響く。


(?)


目を閉じる前はもうすぐそばに迫っていたので、来るだろうと思われる事態が何時までたっても来なかった。

疑問を抱きながらもゆっくりと目を開けると、そこには――


「あ、おはよう♪」


そこには、一人の少女がいた。


「やっと起きたね♪じゃあ、行こ♪」


にこっ、と笑うと少女は優活の腕を掴むと風のように連れ去って行った。

後に残されたのは呆然とその様子を見つめる団員達だった。


次回予告のような何か


立ちふさがった海鈴達は3人だけではなかった。周りの人間たちも次々と海鈴に姿を変え、優活に迫る。

そんなとき、孤立無援の優活を助けたのは自分とそう変わらない(身長的な意味で)少女だった。

現れた少女は敵か?味方か?


次回ぐりーんぽいんと!「新たなたなる戦いの日々~四苦八苦の五十歩百歩~」

体の平和を守るため、戦え!優活!(ナレーター:葵隊長《CV:ルルーシュ》)


陽菜:何でこんな風になったの?

海鈴:まぁ、楽しければいいじゃない♪

雪乃:それでは、「新しい日々-4~Welcome the New Days~」お楽しみに♪

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