人生のパートナーを召喚する日にそれは私のだ返せと言われたが、そんな前例ないんですが!?
「あなた盗んだのね!返してよ私のパートナー!」
突然怒鳴られたらどうすればいいのだろう?
「へっ!?」
この世界の成り立ち。
人は一度、またはなにか理由があってパートナーを得られる世界。儀式を経て、己のパートナーとなるものを召喚するのだがなにを勘違いしているのか。
今日は召喚をする日。
「私のパートナーはそっちよっ」
村長の娘がピューリの召喚したすらりとした体格の生物が自分の本来のパートナーだ、泥棒だ、霞め取ったのだと言い初めて。いつものワガママだとうんざりした。
「返しなさいよ」
召喚の儀式ってそういうことできるもんじゃないでしょ。不正とか間違いとか無理なのだ。
「ええ」
村長の娘が召喚したのが、ヘドロのような見た目だったから相当気に入らなかったのだろう。村人の何人かがこちらに顔を向け、心底面倒そうな態度をし始めた。
「なに突っ立ってるんだ」
「はぁ、早く終わらせないとこっちに来そうだな」
「面倒なことになるからはやくパートナーを……すればいい」
「村長の娘に渡さないと明日からおれらに言い始めるかもしれないぞ?」
村人達が不穏なことばかり言い出す。この村長娘のことは最早名物扱い。本来、パートナーは簡単に覆せるものではないのだが村長が眼で威圧感を与えてきた。
心底面倒だと感じ、パートナーを交換するという異常な事態が起こる。ぽんと肩に召喚したパートナーが手をおいた。
こちらの追い込まれ具合にすぐ察した彼か彼女かは性別はわからないが、相手は手をクイッと向こうに手を向ける。
「え、でも」
これで交換しなかったら、明日から村中に罵倒される未来が簡単に浮かぶ。何度も向こう側を指して、スライムっぽい生物と行き交う時に手を振る。
パートナー候補は構わないとのお墨付きを貰い、交換することになったことだけが救いだ。それよりも、彼女はヘドロと意志疎通しているのだろうか。
一番初めにやらねば、パートナーとしての信頼がなくなってしまう。一年間の仮契約後。本契約に移る旨を説明されて、解散となった。
ヘドロは理不尽に交換されたというのに文句を言うことなく、ギィギィと声帯を震わせながら生活を共にしてくれた。
村長の娘は分かっているのだろうか、信頼関係を築かなきゃいけないのに初日にめちゃくちゃ暴落してしまったことを。
気付いてないんだろうなー。他人事なので他人のことは忘れるに限る。見かけによらずヘドロはめちゃくちゃ有能。薪割りも料理もしてくれて、一年経つ頃にはダメパートナーができつつあった。
主婦のように、使用人のように甘やかしてくれるからでろんでろんのまろんまろんになってしまった。もうお嫁にいけない。ヘドロを手放したくない。
胃袋もついでとばかりに掴まれ、もう本契約前提でいた。勿論、信頼が肝心なのでできるだけアフターケアーをした。お風呂にも入れたしマッサージも。ありがとうの感謝も忘れない。
傲慢にならないように怠慢を満喫。ヘドロと暮らして一年きっちり。本契約の儀式に広場の真ん中へ行く。そこには当然、村長の娘が居る。
彼女は交換したパートナーをどや顔で見せびらかしては、いかに有能なのかをひけらかした。どう見ても嫌がっているのに連れ回していたのには、多少元召喚主としては申し訳なさもある。
「では始めてくれ」
取り仕切る人が言うと村長の娘とピューリが、本契約の魔法陣を展開させる。ヘドロに親指を見せて頼んだぞ、と合図。本契約してくれの意。
──パァアアア
ヘドロが進化するみたいな光を全体に帯びて、シルエットが変わる。まるで人のような形に変化していく。本で読んだことがある。
本契約をすると、パートナーが相手に合わせた形に変化することがあると。
それが目の前で起こっていたので、村長娘のパートナーを見る余裕はなかった。やがて収まる光に、今度は周りを囲む村人達がざわめく。
「え?」
なんということでしょう。この世を憂いた表情を浮かべたヘドロが、顔立ちの良い男になっていたのです。
いやいやいやいやいやいや!
いやいやいやいやいやいや!?
「でええええ!?」
変な叫び声になってしまう。あのヘドロに愛着も湧いていたから変化には少し寂しさがある。が、ここまで劇的な変化も酷い。
「やっとまともに話せるなぁ」
そうして現れた男は唐突に言葉を得た。
そんな!
ギィギィとしか言わなかったあの可愛い鳴き声がもう聞けないなんて。
「あなた、ヘドロ?」
取り敢えず要確認。
「いや。名前はハイネミアだ。喋れなかったから言うこともできなかったが」
名前まで違うのか。ヘドロでも良いと思うのだが。
「そんなの嘘!」
いきなり女の金きり声が聞こえてきて、村人達がそちらへやっと注目。見えたのは、絶望の顔をしてなにも居ない召喚陣を見る娘っこ。どうやら、本契約を拒否されたよう。
本契約を拒否されるとペナルティで、10年召喚ができなくなる。信頼を無くした故の罰だ。因みにこの世界では、本契約を蹴られた者はかなり肩身の狭い思いをする。
「違う!違う!」
村長の娘は髪を振り乱し、ハイネミアを見た。
「元は私の召喚したパートナーなら!あなたは私のパートナーよね!?」
そんなことを言うものだから村人達が絶句。元って、当初は泥棒などと言って無理矢理交換したくせに。嘘を言いましたって、告白したわけだ。
「一年前、君は真逆の事を言ったよね」
「あれは勘違いなのっ。本当はあなただったのよね」
「いや?今も昔も。きみが暮らしたパートナー候補も、ぼくもお前のものなんかじゃない」
ハイネミアがはっきりと言いきるので。今回は間違いでした、交換交換とならない。
「君が無理矢理パートナーを変えた件は、ぼく達の間でかなり問題になってる。10年どころか君のパートナーになりたがるものなんて現れもしないだろうな」
これからもう召喚しても応えるものなどいないと、宣言される。正直な話。村長だって同罪だ、的なことをハイネミアは言う。
「ねえ、そこの女の父親。君もその事件の間接的な加害者だ。ペナルティで10年間のパートナーを得る権利を失うことが、決定した」
村長の唖然とした顔が浮かび、傍に居たパートナーがこくりと頷き。村長にキックしてからひゅるるん、と消えた。相当腹に据えかねていたようだ。
確かに交換しろって思うってことは、パートナーという存在を軽んじたということ。そりゃ、パートナーも思うことがないはずないな。
自分と関係ないところで、トレードが行われたのだ。しかし、無関係とは思えなかったのだろう。
「その他の人たちは、今現在審議中だ」
とても愉快な言葉に皆がざわつく。無意識に自分達とは、関係ないと高を括っていたのだろう。ピューリは皆も引っ掛かっていたことに驚いたが、ハイネミアが言うのなら彼らに非があるわけだ。
余計なことを言っては拗れてしまうからと、黙っていた。彼らには彼らの世界のルールがある。それに、人側が口を出してはいけないだろうと自分が勝手に思った。
しかし、周りからは早くハイネミアを諌めてくれという視線がまとわりついている。村長の娘が、ぐずぐずと目と鼻から液体を垂れ流している。
え?表現に悪意があるって?
そんなことはありませんってば。実際にある顔を表現したらそうなる。父親なんてへたりこんでいるし。
二人ともパートナー解散されたから、意気消沈している。村人達も一年前のあの日、ここを見ていた。
見ていただけではなく、村長の娘の機嫌を取る為にピューリに同調圧力をかけたのが、ハイネミアの中では裁きの範囲に入ったのだろうな。村人達はなぜ、いち召喚体がそんなことを口にする権利があるのだと問い掛けてきた。
「君らにはあるとでも?」
確かに最も権利がないと、全員突き上げるネタが尽きたのか話さなくなる。ピューリは自堕落的な生活をしたいのでこれ以上騒ぎを起こすのはあれだ。であれば、ハイネミアに早めに引き上げようと声をかける。
もう契約も終わったのだから帰っても良い筈。眉を下げたまま待つと、彼は仕方ないなと溜め息を吐く。帰るよ、と先導して家へ戻る。それに付いていく形で足を一歩。
「あ」
待って、と形容しそうな言葉が出てくる予定だった誰か。ハイネミアのひと睨みで、それを飲み込みざるを得ない。ピューリは帰ってぐーたら生活を甘んじたかったので、見なかったことにした。
だって、召喚される方の世界にどうしようと干渉できないのだからやれることなどないし、考えることすら無駄。そう切り捨てて足を軽く離れていく。
「いいの、あの人たち」
「うん」
頷く。
「だって、あの日止めなかったもん」
だから、ピューリだって口添えしなくても良いよねと微笑んだ。
その後、その主夫度に圧倒されてやはり逆プロポーズした召喚主がいたとか。
ずっと心の片隅で心残りを告げたらハイネミアが笑って、ピューリに君の召喚したパートナーは今回の褒章として人型になることが決まったよと教えてくれた。現在はパートナーを得て召喚主と幸せに暮らしているとのこと。
「うーん」
肩の力が抜けてぐでんとなる。元スライムは呆れた顔をして食後のデザートをテーブルに置いたという。
「ぐあー、溶けるわー、なんか色々ダメになるわー」
「ほらホットミルクだよ」
「ミルクの中に溶けてなくなるううう」
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