6 幼子と呪術と悪霊と ~宿郷 鈴鹿・視点~
きっつ!なんなのよあの黒い毛みたいのは!
あたしは和馬の手を握りながら、渾身の力で踏ん張った。
「おい、二人とも、少しぴりつくだろうが我慢しろよ」
そう言ってあいつは不思議な動きをする。
流れる様に手にもつ符に息を吹きかけると
「疾く散れ悪霊 聖雷招来! 急急如律令!」
黒い靄を左手二本の指で指し示す。
すると突然辺りを目がくらむくらいパッと光輝き、青白い光が黒靄を直撃する。
その瞬間あたしの身体を電気が走り廻った。
「うぐっ!」
耐えきれない程ではないが、全身を痺れにも似た力が痛めつけてきた。
流石に和馬は耐えきれなかったのか力が抜けるが、同時に引っ張る力が消失し、あたしは勢いのまま和馬を引っこ抜いた。
あたしは和馬を抱きしめる様に抱えながら、黒靄を睨んだが、そこにいたはずの黒靄はさっぱりと消えていた。
「ぎりぎり間に合ったようだな」
「しょうたん、ぴかっってひあった!」
「びっくりしたかい?ごめんな」
「しゅごったごろごうってないない」
「自然の雷じゃないからな」
鈴音が興奮してあいつに話しかけているようだった。不思議だな鈴音はどうも霊感が強いらしい。
そのせいなのか人見知りの激しい子だったのに、あいつや白狐?には随分懐いている。いや、そんなことよりも!
「ちょっと!ピりつく程度じゃすまなかったんだけど??和馬なんて失神してるわよっ」
まったく、なにがぴりつくから我慢しろよ!ビリビリだったってぇの!
睨みつけるあたしを、鈴音から顔を上げ、じとりとした眼差しをむけてくる。ムカッ
「なあ、基本的に結果オーライだったからいいが、家を出る前に言ったよな?」
は?なんで逆切れしてんのよっ
「鈴音ちゃんを預かってくれって。お袋さんでもなく、香鈴ちゃんでもなく、お前を連れてきたのは、鈴音ちゃんを預けても、何かあった時無難に立ち回れると考えたからだ。」
あ、そういえばなんか言ってたっけ・・・
「で、でも弟があんな事になってたら助けに行くに決まってるでしょ!」
そうだ、あたしの判断は間違っていなかった。あのままだとすぐにでも和馬は滝壺に落とされていた。
「だ・か・ら、急いでいたし、お前に鈴音ちゃんを預けたら白狐に和馬に絡みついてた手を喰い破らせ、
そこを聖雷で祓うつもりだったんだ!そうすればお前が痺れることも、和馬が失神することもなかったんだよ!」
「・・・」
だったら、だったら作戦をおしえてくれればいい・・じゃな・・い。
そう思いつつもぐうの音も出なかった。
「はぁ、まあいい、さっきも言ったが結果オーライだ。 ふぅっ、来たれ鯉こく 急急如律令」
そういうと鈴音をあやしつつ、くるんだ上着から符を出して大きな錦鯉を呼び出した。
「鯉こく、すまんがここに住み着いてくれ。ここは本家からの方角もそうだがどうも陰気が淀みやすいようだ。ここを浄化しつつ守護を頼む」
そうあいつが錦鯉に言うと、錦鯉は水面高く飛び上がり、滝壺の方へ泳いで消えた。
いや、式神の技術とかなんかすごそうだけど、鯉に鯉こくって名前はどうなのよ?捌かれちゃってんじゃん!
「さて、手当の必要があるかもしれないし帰るか。白狐、そっちの三人を運んでやってくれ。」
「仰せのままに」
三人?って、そうか玲美がいたか。どうやらさっきの雷でビックリして硬直してるみたいね。
白狐が背を降ろしてくれたので、気絶している我が弟を横向きに乗せた。
「あたしが玲美を背中から抱きながら和馬を抑えるから、玲美も和馬を抑えてて」
先程の出来事も、今目の前にいる大きな白狐も、玲美には理解できないんだろうね。でもおとなしく頷いてあたしの指示に従ってくれた。
「そっちはどうするのよ?大事な妹もあんたが抱っこしてるんだけど?」
まままさかあたしの後ろに乗ったりしないよね?それはちょっと困るんだけど・・・
「ああ、こっちは 八咫!」
あいつの声に反応したのか、烏が舞い降りてくる。
「あーばしゃばしゃぁ」
「いや、いくらなんでも烏には乗れないでしょ」
とあたしが言った瞬間、烏は何倍にも大きく変化した。
「ふぁ、おっきね~」
鈴音はご機嫌だ。
「さて、帰るぞ」
そう言ってデカい烏と狐はふわりと浮かび上がり、慌てる玲奈に有無を言わさず我が家に向かって飛び出した。
師匠の古い知り合いの子が来るって聞いてたけど、まさか陰陽師だったとは・・・。
家にも術者は何人かいるけど、こんな派手な奴はいない。そう思うとなんかわくわくしてきた。
そんなあたしの頬をまだ少し冷たい春風が、勢いよくなでていく。




