2 続 プロローグ
「あの子は行ったか」
結局蒼太を正しく導くことができなかった。舞い散る桜を手に乗せ、自分の不甲斐なさを思う。
遠ざかっていくタクシーを眺めながら、浅いため息がでた。
「ええ、ただ一言、行ってくるとだけ言ってさっさと車に乗ってしまいましたよ。ははっ」
蒼太に似た目元を悲しげにつむり、作り笑いを浮かべてくる婿殿。
逆か、婿殿の目元が蒼太に遺伝したのだろう。
婿殿は名残惜しそうに見えなくなったタクシーが通って行った道を振り返る。
(蒼太が一番の被害者なのは間違いない。が、婿殿もまた・・・)
あの日の出来事の顛末を思い浮かべ、自分の不甲斐なさに怒りを感じる。
「ばば様ぁ、あに様が冷たいのです!お別れのキスをしようとしたら大変嫌がられて・・・」
「そうそう、兄ちゃんは恥ずかしがりすぎだよな、れん。可愛いい妹達からの別れのキッスなのに!」
まるで幼き頃の娘がそこにいるかのように、見目そっくりな美少女の双子が我の着物に縋り付いてくる。
やれやれ、完全にぶらこんというやつだのう。まあ蒼太はこの子らに対して罪悪感もあり、それはもう異常ともいえる愛情を注いでいたからのう。
「そうかえ、まあ蒼太も恥ずかしかったのじゃろう。許してお上げ」
そう言って二人の小さくて形の良い頭をゆっくり撫でてあげた。
しかし可愛い孫達は不満げに頬をふくらましてじとりと睨んでくる。
「ほーら、忍、恋、そんな寂しいならパパがだっこしてやるぞー」
おやおや、蒼太と同じように愛情を注いできたが全敗しておる婿殿が、満面の笑みを浮かべておるな。
屈んで両手を大きく広げて今か今かと待ち望んでおるわ。
仕様のないお方じゃのう、さあお行きとばかりに撫でるのやめると二人は眉間にしわをよせ、プイッと横を向いた。
「違うんだよなー父ちゃんじゃ兄ちゃんの代わりにならないってのっ」
「しのぶちゃんのいう通りなのです!とと様の出番ではないのですっ」
「ぷっ」
いやはやぶらこんもここに極まれりじゃ。確かに蒼太はまだ13とはいえ、我の血を引き絶世の美男、ん?ああいまはいけめんというのじゃったか。それじゃが、婿殿もそれなりに良い男なのじゃが、この二人にはまるで通じておらぬようじゃ。
「おーい、二人ともーパパは悲しいぞー・・・蒼太との差が激しくて冷たいぞー」
哀れな婿殿の方に手を置き、ポンポンと叩いてやった。
「ま、この子らを育てたのは蒼太のようなものじゃしな。諦めろ」
うるうるした目で愛娘を見つめるている婿殿の姿にため息が出た。我が娘が見たらどう思ったことか。そんな事をぼんやりと考えながら、忌々しそうに空を睨んだ。
「蒼太はあ奴からかけがいのない武器を学ぶであろう。そして我から受け継いだもののさらに先に行くはず。きっと蒼太の宿願は果たされるであろうよ・・・」
それは不確かで、確率は余り良くない賭けではある。それでも、蒼太を止めることは出来ぬし、その時が来れば、我も身命を賭して立ち向かってやるわ。




