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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死刑執行人少女

死刑執行人淑女 《外国人ギャング20人、女性議員ひとりに蹴り殺される》

作者: E.C.ユーキ

 闇夜(やみよ)(はい)工場(こうじょう)に、女性(じょせい)議員(ぎいん)がひとり()()った。

 城園(じょうえん)綾子(あやこ)。32(さい)弁護士(べんごし)現職(げんしょく)東京(とうきょう)都議会(とぎかい)議員(ぎいん)でもある、たおやかな美人(びじん)綾子(あやこ)(ひと)寝静(ねしず)まった深夜(しんや)、フォーマルスーツ姿(すがた)のまま、東京都(とうきょうと)郊外(こうがい)山奥(やまおく)(はい)工場(こうじょう)にひとりで(おとず)れていた。足早(あしばや)地下(ちか)へと階段(かいだん)()りると、薄暗(うすぐら)照明(しょうめい)のホールに()る。綾子(あやこ)(ふる)える()をキュっと(にぎ)()め、ホールの(なか)ほどまで(あし)(すす)めた。

 綾子(あやこ)出迎(でむか)えたのは、嬉々(きき)とした(おとこ)(こえ)だった。

()っていたぞ。城園(じょうえん)綾子(あやこ)議員(ぎいん)

 階段(かいだん)(うえ)(たか)みで、まるで玉座(ぎょくざ)のように(こし)かけるこの(おとこ)こそ、外国人(がいこくじん)ギャング組織(そしき)《ベルセルク》のボスである。その両脇(りょうわき)には屈強(くっきょう)(くろ)スーツの(おとこ)(ひか)えている。

 綾子(あやこ)階段(かいだん)(した)から、ボスを見上(みあ)げて懇願(こんがん)した。

「お(ねが)い! あの()解放(かいほう)して……!」

 小一(こいち)時間(じかん)(まえ)綾子(あやこ)のスマートフォンに一本(いっぽん)動画(どうが)(おく)られてきた。――()()らずの少年(しょうねん)が、(おとこ)にサバイバルナイフを()きつけられている映像(えいぞう)だった。一時間(じかん)()つごとに、四肢(しし)一本(いっぽん)ずつ()していき、その動画(どうが)(おく)るという。それが(いや)なら、この(こと)(だれ)にも()げず、東京(とうきょう)郊外(こうがい)山奥(やまおく)(はい)工場(こうじょう)にひとりで()い、という綾子(あやこ)への要求(ようきゅう)だった。ただちに綾子(あやこ)公用車(こうようしゃ)(くろ)セダンを()()()し、都内(とない)から(はな)れた山奥(やまおく)(はい)工場(こうじょう)まで、ひとり()ばしてきた。要求(ようきゅう)動画(どうが)受信(じゅしん)してから今現在(いまげんざい)まで、まだ40(ぷん)ほどしか()っていない。

 ボスが黒服(くろふく)(おとこ)合図(あいず)をすると、少年(しょうねん)乱暴(らんぼう)()れてこられた。7(さい)(ほど)だろうか。目立(めだ)った外傷(がいしょう)()いが、(かお)()きつり、身体(からだ)小刻(こきざ)みに(ふる)えている。

子供(こども)解放(かいほう)しても()いが、条件(じょうけん)がある』

 ボスと少年(しょうねん)綾子(あやこ)との(あいだ)空間(くうかん)がライトアップされた。



 ――(やみ)(なか)から、金網(かなあみ)戦場(せんじょう)と、10(にん)大男(おおおとこ)(あらわ)れた。



 総合(そうごう)格闘技(かくとうぎ)ケージ。(たか)さ2(メートル)()える金網(かなあみ)フェンスで(かこ)われた8等辺(とうへん)武舞台(ぶぶたい)。そして金網(かなあみ)外側(そとがわ)からは――筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)大男(おおおとこ)たちが、薄汚(うすぎたな)()みを綾子(あやこ)()けていた。白人(はくじん)黒人(こくじん)中東(ちゅうとう)(けい)南米(なんべい)(けい)、アジア(けい)多人種(たじんしゅ)だが、全員(ぜんいん)(もと)MMAファイターであり、(みな)(メートル)(ちか)背丈(せたけ)()っていた。

『この(おとこ)たちと1(たい)1で(たたか)い、10(にん)全員(ぜんいん)勝利(しょうり)した(とき)には、子供(こども)解放(かいほう)してやろう』

「そんな……!」

 綾子(あやこ)がうろたえていると、少年(しょうねん)(つか)んだ黒服(くろふく)(おとこ)は、(ふところ)からナイフを()()した。綾子(あやこ)には(はじ)めから選択肢(せんたくし)()かったのだ。

()って! ……わかったわ。その条件(じょうけん)()むわ」



 ――MMAケージ(ない)に、物柔(ものやわ)らかな女性(じょせい)議員(ぎいん)入場(にゅうじょう)する。



 身長(しんちょう)164(センチ)女体(にょたい)左胸(ひだりむね)には議員(ぎいん)弁護士(べんごし)(ふた)つのバッチ。

 (かみ)はウェーブした(かた)(たけ)のアッシュブラウン。

 凛々(りり)しくも(おび)えを(かく)せない(かお)には、(ぎん)(ぶち)眼鏡(めがね)

 薄紅(うすべに)のルージュには、グロスがてらてらと(かがや)く。

 ブルーグレーのジャケットに()()た、乳房(ちぶさ)のライン。

 (くろ)のペンシルスカートはタイトで、お(しり)のラインが()()ている。

 ベージュのストッキングの(あし)は、ふくらはぎがむちむちと。

 (くろ)のミドルヒールは、金貨(きんか)(だい)のエンブレムが爪先(つまさき)(かがや)く。



 綾子(あやこ)のしおらしい入場(にゅうじょう)に、現地(げんち)もライブ放送(ほうそう)(だい)盛況(せいきょう)だ。

 MMAファイターの(おとこ)たちは悪辣(あくらつ)歓声(かんせい)()げ、ダークウェブ(じょう)のライブ放送(ほうそう)下卑(げび)たコメントであふれ(かえ)る。ダークスーツの黒服(くろふく)(おとこ)たちが、あちこちからカメラを綾子(あやこ)()けて、ねっとりと、()(まわ)すように身体(からだ)()(つづ)ける。ボス、MMAファイター、黒服(くろふく)――20(にん)(おとこ)たちが(かこ)(なか)(おんな)綾子(あやこ)ひとりのみだった。

 (つづ)いて、巨漢(きょかん)のMMAファイターが入場(にゅうじょう)する。

 身長(しんちょう)(メートル)(ちょう)白人(はくじん)で、(はだか)上体(じょうたい)筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)、グローブをはめた(こぶし)超速(ちょうそく)素振(すぶ)りを()せる。ヘビー(きゅう)のボクサーでも一撃(いちげき)(しず)(するど)さだ。()もなく試合(しあい)(はじ)まるというのに、ケージ(ない)には綾子(あやこ)大男(おおおとこ)二人(ふたり)しかいない。――これはショウであり、レフリーなどいないのだ。



 《MMAファイター》(たい)|《女性(じょせい)議員(ぎいん)》。

 2(メートル)大男(おおおとこ)見下(みお)ろす、164(センチ)淑女(しゅくじょ)

 ――試合(しあい)開始(かいし)のゴングが()(ひび)いた。



 やはり綾子(あやこ)は、後退(あとずさ)るばかりだった。

 (おとこ)一歩(いっぽ)()()(たび)に、綾子(あやこ)はびくんと一歩後(いっぽうし)ろに()がる。(おとこ)超速(ちょうそく)のパンチを(から)ぶらせて挑発(ちょうはつ)しても、綾子(あやこ)はきゅっと()じた両手(りょうて)(むね)(まえ)()わせるばかりで、(なに)もできない。

 たちまち綾子(あやこ)金網(かなあみ)のフェンスに背中(せなか)()つ。()()がる会場(かいじょう)(おとこ)薄汚(うすぎたな)()みを()かべながら、両手(りょうて)綾子(あやこ)()()せにかかる。綾子(あやこ)()大粒(おおつぶ)(なみだ)()かべた(かお)(よこ)(そむ)け、「いやっ!」と悲鳴(ひめい)()げた。

 すると突然(とつぜん)(おとこ)(うご)きが()まった。



 ――綾子(あやこ)(あし)が、(おとこ)股間(こかん)()()げていたのだ。



 それも、まともに()たっていた。

 完全(かんぜん)油断(ゆだん)していた。KO()のショウタイムのために、股間(こかん)(よう)のプロテクターは当然(とうぜん)()けていなかった。大男(おおおとこ)()まれたての子鹿(こじか)のように(あし)をぷるぷるとさせながら、なんとか根性(こんじょう)()っている。綾子(あやこ)唖然(あぜん)とその様子(ようす)(なが)めていたが、一転(いってん)表情(ひょうじょう)()()めた。

 綾子(あやこ)は、(おとこ)(あたま)をヘッドロックにかかった。

 (もだ)えるあまりに()がった(おとこ)(あたま)片脇(かたわき)(かか)()み、顎下(あごした)手首(てくび)圧迫(あっぱく)するように(りょう)(うで)()()げる。――ハイエルボーギロチンの(かたち)だ。(おとこ)(くび)完全(かんぜん)()まった。綾子(あやこ)上着(うわぎ)()しの豊満(ほうまん)乳房(ちぶさ)(ほお)()()てられながら、(おとこ)(かお)()()にして抵抗(ていこう)する。しかし、こうなってしまってはもう(おそ)かった。

 会場(かいじょう)嘲笑(ちょうしょう)(おお)()()がりだ。(ひか)えているMMAファイターたちが、ケージ(ない)(おとこ)雄姿(ゆうし)(わら)()ばし、多様(たよう)言語(げんご)のヤジが()()う。『ママに「ごめんなさい」をするんだな!』『ついでにおっぱいも()ませてもらいな!』。ますます(おとこ)(かお)(あか)くなっていく。そして――

 ――(にぶ)(おと)がひとつ、不気味(ぶきみ)(ひび)いた。

 (くび)(ほね)()れたのだ。(おとこ)(ちから)なくマットに(たお)(くず)れ、()見開(みひら)き、身体(からだ)痙攣(けいれん)させている。痙攣(けいれん)次第(しだい)(ちい)さくなっていき、やがて、完全(かんぜん)()まった。その始終(しじゅう)綾子(あやこ)は、()見開(みひら)き、(くち)(りょう)()(おお)いながら見下(みお)ろしていた。

 さらなる()()がりを()せるMMAファイターたちの嘲笑(ちょうしょう)歓声(かんせい)、それとは裏腹(うらはら)にボスは(まゆ)をしかめていた。

(つぎ)だ! (つぎ)のヤツは(はや)()がれ!』



 金網(かなあみ)(なか)2人(ふたり)()大男(おおおとこ)(はい)った。

 浅黒(あさぐろ)日焼(ひや)けしたアジア(けい)大男(おおおとこ)が、高々(たかだか)頭上(ずじょう)まで(あし)(かか)げてみせる。ムエタイ出身(しゅっしん)のファイターだ。ケージ(ない)死体(したい)(ころ)がったまま、(だい)試合(しあい)のゴングが()った。

 ムエタイの(おとこ)は、巨体(きょたい)らしからぬ軽快(けいかい)なステップで()(まわ)る。ハイキックを綾子(あやこ)(かお)()(まえ)(はな)ち、挑発(ちょうはつ)する。綾子(あやこ)はやはり()がるばかりで、()(あし)()せない。(ふたた)金網(かなあみ)フェンスまで()()められる綾子(あやこ)(おとこ)(ねん)()れて金的(きんてき)警戒(けいかい)しながら、(まえ)のめりになり、ちろちろと(した)()して挑発(ちょうはつ)する。その(とき)だった。

 ――(おとこ)側頭(そくとう)に、綾子(あやこ)のハイキックが直撃(ちょくげき)した。

 《綾子(あやこ)には護身術(ごしんじゅつ)心得(こころえ)がある》。そう(おとこ)たちが一様(いちよう)確信(かくしん)するほどに、それは(するど)(おも)一撃(いちげき)だった。綾子(あやこ)(あし)彼女(かのじょ)頭上(ずじょう)まで()()がり、(まえ)のめりに()がった(おとこ)(あたま)側面(そくめん)を、ズドンと()()ばしたのだ。タイトスカートでは()がり()ない(たか)さまで()がった、意識(いしき)(がい)一撃(いちげき)(くろ)膝丈(ひざたけ)ペンシルスカートは、(じつ)はヒップの(した)(ふか)()()みが(はい)ったデザインで、(おも)いのほかに可動域(かどういき)(ひろ)かったのだ。せいぜい股間(こかん)()()げるが精一杯(せいいっぱい)だと(おも)っていた(おとこ)は、たったの一発(いっぱつ)千鳥足(ちどりあし)になってしまった。

 さらに綾子(あやこ)追撃(ついげき)をかける。ムエタイの(おとこ)後頭部(こうとうぶ)(かか)()み、クリンチをかけた。タイトスカートから()()される、執拗(しつよう)(ひざ)()り。――ついには(おとこ)(ひざ)()く。すかさず綾子(あやこ)(おとこ)背後(はいご)(まわ)()み、(ひざ)()ちの(おとこ)顎下(あごした)(うで)(まわ)して、(りょう)(うで)()()げた。

 《チョークスリーパー》。(ひざ)連打(れんだ)()らった鼻血(はなぢ)(かお)が、ホール(ない)(おとこ)たちに(かか)げられる。このまま()()とされれば、失禁(しっきん)確実(かくじつ)だ。……冗談(じょうだん)じゃない。絶対(ぜったい)()りほどくのだ。ウェーブしたアッシュブラウンの(かみ)から(かお)(あま)(かお)りが、背中(せなか)()()けられた上着(うわぎ)()乳房(ちぶさ)のふくらみが、朦朧(もうろう)とした(おとこ)にぐんぐんと(ちから)(あた)える。そして――

 ――(ふたた)び、ひとつ、(にぶ)(おと)(ひび)いた。

 また一本(いっぽん)(くび)()れたのだ。綾子(あやこ)(うで)完全(かんぜん)(くび)()められたまま、無理(むり)姿勢(しせい)力任(ちからまか)せに(あば)れた結果(けっか)(みずか)(くび)(ほね)()ってしまったのだ。綾子(あやこ)(うで)()かれると、(おとこ)はマットに仰向(あおむ)けに(たお)れ、(あわ)()いて痙攣(けいれん)する。綾子(あやこ)(おとこ)完全(かんぜん)(うご)かなくなるまでを、(しず)かに、(かお)紅潮(こうちょう)させながら見下(みお)ろしていた。やがて(かお)()げると、舞台(ぶたい)(した)唖然(あぜん)(かた)まったままの大男(おおおとこ)たちを見据(みす)える。そして――

 綾子(あやこ)は、つややかに微笑(ほほえ)んだ。

「さあ、(つぎ)はどなたかしら?」

 静寂(せいじゃく)地下(ちか)ホール。もう嘲笑(ちょうしょう)歓声(かんせい)()こらない。……もはや、1(たい)1にこだわっている場合(ばあい)ではない。(のこ)りのMMAファイターたちは、()ぎしりをしながら、続々(ぞくぞく)とケージ(ない)(はい)っていった。




 ――女性(じょせい)議員(ぎいん)による、死刑執行(しけいしっこう)(はじ)まる。




 《女性(じょせい)議員(ぎいん)のハイキック乱舞(らんぶ)》。(くろ)のタイトスカートから頭上(ずじょう)にまで()()げられるミドルヒールが、次々(つぎつぎ)大男(おおおとこ)たちをなぎ(たお)していく。綾子(あやこ)(たい)多数(たすう)相手(あいて)でも()けを()らない。()くなり距離(きょり)()めるなどして、(かなら)ず1(たい)1の状況(じょうきょう)(つく)るのだ。そうしてマットに(たお)した(おとこ)に、綾子(あやこ)はヘッドシザースをかけにいく。

 また一人(ひとり)、また一人(ひとり)と、綾子(あやこ)死刑(しけい)執行(しっこう)する。

 (くろ)のタイトスカートの(なか)、ベージュのストッキングのふとももに(くび)をかけられる。ひとたび断頭台(だんとうだい)にはめられたら、もう()()せない。むちむちとやわらかなふとももが大蛇(だいじゃ)のように(から)みついて、()めつけ、(けっ)して(はな)さない。いよいよ生殺与奪(せいさつよだつ)、すべてが綾子(あやこ)掌握(しょうあく)される。(くろ)のタイトスカート、てらてらとなめらかな光沢(こうたく)(はな)生地(きじ)が、(おとこ)(かお)をくすぐる。スカートの(ぬの)にはアロマが()かれていて、エレガントな(かお)りが(はな)をくすぐる。

 『お(ねが)いだ』『(ゆる)してくれ』『もう二()としない』……。(なみだ)(なが)しながら命乞(いのちご)いをしても、綾子(あやこ)(あし)(ゆる)まない。(おとこ)巨体(きょたい)からはだんだんと(ちから)()けていき、やがて痙攣(けいれん)(はじ)める。手足(てあし)(うご)かず、(くち)(うご)かず、いよいよ反応(はんのう)(しめ)さなくなってから――やっと綾子(あやこ)は、ギロチンを()とす。

 また一人(ひとり)、また一人(ひとり)……。ぷりぷりと乳房(ちぶさ)をおどらせながら()(たお)す。むちむちのふとももに(くび)(から)()られる。(だれ)綾子(あやこ)()められない。(だれ)綾子(あやこ)(かな)わない。(だれ)も、(だれ)も――……。



 MMAファイター。筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)大男(おおおとこ)10(にん)

 ――10(にん)全員(ぜんいん)綾子(あやこ)ひとりに(ころ)された。



 死体(したい)だらけのケージの中央(ちゅうおう)で、綾子(あやこ)(りん)とボスを見据(みす)える。

「さあ、10(にん)全員(ぜんいん)(たお)したわ。約束(やくそく)よ。あの()解放(かいほう)しなさい」

 ボスは(うな)()ぎしりするばかりだったが、ついに黒服(くろふく)のスーツ姿(すがた)(おとこ)たちに怒鳴(どな)()らした。

(なに)をしている!? 全員(ぜんいん)でかかれ! もう(ころ)しても(かま)わん!』

 黒服(くろふく)たちは動揺(どうよう)しながらも、各々(おのおの)がナイフや(てつ)パイプを()()り、ケージ(ない)()がる。今夜(こんや)は『(らく)仕事(しごと)』のはずだったため、拳銃(けんじゅう)()っている(もの)はいない。出入口(でいりぐち)警備(けいび)をしていた(もの)はもちろん、ボスの(わき)(ひか)える(もの)、カメラやパソコンを操作(そうさ)していた(もの)までも()()され、たちまちケージ(ない)には9(にん)黒服(くろふく)(あつ)まり、綾子(あやこ)包囲(ほうい)した。

 たったひとりの女性(じょせい)議員(ぎいん)相手(あいて)に、武器(ぶき)()け、9(にん)がかりで包囲(ほうい)する(おとこ)たち。綾子(あやこ)はひとつため(いき)をついた。

「あなたたち、本当(ほんとう)におちんちん()いてるの? いいわよ。まとめてかかっていらっしゃい」



 ――武器(ぶき)()ちの(おとこ)たちでも、綾子(あやこ)ひとりに(かな)わない。



 ナイフで()りかかれば、()()げた(あし)靴底(くつぞこ)(はら)って()(なが)され、反撃(はんげき)される。(てつ)パイプで(なぐ)りかかれば、()(まえ)(すき)、もしくは()った(あと)(すき)的確(てきかく)()かれる。綾子(あやこ)(つね)的確(てきかく)間合(まあ)いを維持(いじ)していて、(おとこ)たちの攻撃(こうげき)空振(からぶ)りさせている。その(すき)綾子(あやこ)一気(いっき)接近(せっきん)し、()りの(あらし)(たた)()む。(あたま)(どう)股間(こかん)への多様(たよう)()りの(まえ)に、(おとこ)はたちまち千鳥足(ちどりあし)にさせられる。そうして()がった(おとこ)(あたま)を、綾子(あやこ)両腕(りょううで)(かか)えて、ひねり、(くび)()()るのだ。(またた)()に3(にん)黒服(くろふく)綾子(あやこ)(ころ)され、(のこ)りの(おとこ)たちは(かた)まってしまった。

「さあ、(つぎ)貴方(あなた)たちの(ばん)よ」

 コツン、コツンとミドルヒールの足音(あしおと)(きざ)みながら、綾子(あやこ)(おとこ)たちに一歩(いっぽ)ずつ(ちか)づいていく。背筋(せすじ)()ばして()()ってくる綾子(あやこ)に、黒服(くろふく)(おとこ)たちは()(まど)う。武器(ぶき)()っているというのに()がるばかりで、たちまち金網(かなあみ)フェンスへと()()められてしまった。

「なぁに? (はや)くかかっていらっしゃい」

 すると(おとこ)たちは、仲間割(なかまわ)れを(はじ)めた。

 (たが)いに自分(じぶん)(まも)るために、相手(あいて)綾子(あやこ)(ほう)へと()いやろうとする。(かず)()をまったく()かせておらず、(おとこ)たちの連携(れんけい)完全(かんぜん)瓦解(がかい)していた。綾子(あやこ)はそんな(おとこ)たちに(あき)れるようにため(いき)をつくと、1(たい)1で各個(かっこ)撃破(げきは)。ナイフや(てつ)パイプを()った(おとこ)たちも(なん)なく処理(しょり)していく。最後(さいご)一人(ひとり)(くび)(あし)(はさ)み、ひねり()った。



 武器(ぶき)()ちの黒服(くろふく)たちも、9(にん)全員(ぜんいん)綾子(あやこ)(ころ)された。

 ――(のこ)るギャングは、ボスひとりのみである。



 いよいよボスは最後(さいご)()()た。(しず)かになった地下(ちか)ホールに、焦燥(しょうそう)したボスの(こえ)(ひび)く。

(うご)くな! こいつがどうなってもいいのか!?』

 ボスは少年(しょうねん)人質(ひとじち)にした。片腕(かたうで)(かか)えた少年(しょうねん)(あたま)()きつけているのは――オートマチックの拳銃(けんじゅう)だ。階段(かいだん)(した)、ケージ(ない)から見上(みあ)げる綾子(あやこ)見開(みひら)いた(ひとみ)には、(かお)強張(こわば)らせて(ふる)えている少年(しょうねん)(うつ)っていた。

「……わかったわ」

 しおらしく(りょう)()()げ、その()(ひざまず)綾子(あやこ)。その様子(ようす)にボスは(きたな)()みを()かべた。

 ボスは少年(しょうねん)手錠(てじょう)(わた)した。拳銃(けんじゅう)少年(しょうねん)()きつけたまま、二人(ふたり)綾子(あやこ)(もと)へと()りていく。(ひざまず)綾子(あやこ)()(まえ)まで()ると、ボスは少年(しょうねん)に、綾子(あやこ)(うし)()()(じょう)をかけるよう強要(きょうよう)した。手錠(てじょう)()にしたまま(うご)かない少年(しょうねん)に、綾子(あやこ)(やさ)しく微笑(ほほえ)んだ。

「いいのよ。(かれ)()(とお)りにして」

 綾子(あやこ)(ひざまず)いたまま、両手(りょうて)(こし)(うし)ろに(まわ)した。



 ――綾子(あやこ)に、手錠(てじょう)がかけられた。



 ボスは(ひざまず)綾子(あやこ)(あご)をつかんで、(かお)(のぞ)()む。

貴様(きさま)はただ(ころ)すだけでは()まさんぞ……!」

 綾子(あやこ)(ほお)銃口(じゅうこう)()きつける。もう片方(かたほう)()綾子(あやこ)(むね)へと()ばし、上着(うわぎ)(なか)()()れ、豊満(ほうまん)乳房(ちぶさ)(わし)づかみにする。

 これは、(はじ)めて少年(しょうねん)射線(しゃせん)から(はず)れた瞬間(しゅんかん)でもあった。



 ――瞬間(しゅんかん)綾子(あやこ)片脚(かたあし)()(はな)つ。



 (ひざまず)いた姿勢(しせい)から上体(じょうたい)(おお)きく()()らせ、(てん)へと片脚(かたあし)()()げる。()見張(みは)るほどの綾子(あやこ)柔軟(じゅうなん)身体(からだ)さばきの(まえ)に、ボスは発砲(はっぽう)する()もないまま、拳銃(けんじゅう)(くろ)のミドルヒールに()()ばされた。――さらにすかさず綾子(あやこ)身体(からだ)前転(ぜんてん)(うし)()拘束(こうそく)されているとは(おも)えない身体(からだ)さばきで、しりもちを()いたボスに両脚(りょうあし)()びかかる。()みもつれながらマット(じょう)(ころ)がる二人(ふたり)()まる(とき)には、綾子(あやこ)のふとももはボスの(あたま)をとらえ、ヘッドシザースの(かたち)()()がっていた。

 両腕(りょううで)(うし)()のまま、ボスの(くび)(あし)だけで()()げる綾子(あやこ)。その(なか)、ボスは(みずか)らのジャケットの(なか)へと()をしのばせ――二丁目(ちょうめ)拳銃(けんじゅう)()()した。しかしそれは、()()くこと()く、ボスの()からこぼれ()ちた。

 ――綾子(あやこ)(くび)()(ほう)(はや)かったのだ。



 外国人(がいこくじん)ギャング《ベルセルク》のボスが、絶命(ぜつめい)した。



 完全(かんぜん)静寂(せいじゃく)(おとず)れた地下(ちか)ホール、MMAケージ(ない)はギャングの(おとこ)たちの凄惨(せいさん)死体(したい)()(かさ)なる。綾子(あやこ)()めた(あし)をようやく(ほど)くと、強張(こわば)少年(しょうねん)(かお)()けて、(やさ)しく微笑(ほほえ)んだ。

「……ごめんなさいね。(こわ)がらせてしまったわね」

 少年(しょうねん)はしりもちを()いたまま、(ふる)え、失禁(しっきん)していた。そんな少年(しょうねん)綾子(あやこ)は、(もう)(わけ)なさそうに(たの)みごとをする。

「お(ねが)い。手錠(てじょう)(かぎ)(さが)してくれる?」

 まったくの他人(たにん)である自分(じぶん)(たす)けに()てくれた、(はじ)めて()大人(おとな)女性(じょせい)少年(しょうねん)彼女(かのじょ)(たの)みに()(しぼ)るように()()がり、(くび)があらぬ方向(ほうこう)()がったボスに(ちか)づいた。……もう(いき)はしていない。少年(しょうねん)(おそ)(おそ)死体(したい)のジャケットを物色(ぶっしょく)すると、それらしい(かぎ)()つけた。すぐさま綾子(あやこ)(うし)()手錠(てじょう)()すと、問題(もんだい)なく(はず)れた。

「ありがとう」

 綾子(あやこ)自由(じゆう)になった両手(りょうて)で、()(さき)少年(しょうねん)()きしめた。

「……(こわ)かったでしょう? でももう大丈夫(だいじょうぶ)よ」

 ()()った(ちい)さな身体(からだ)隙間(すきま)()(つつ)みながら、言葉(ことば)(つづ)ける。




(こわ)(ひと)たちはみんな、お(ねえ)さんがやっつけたわ」




 少年(しょうねん)()に、(はじ)めて(なみだ)()かんだ。一度(いちど)あふれたら()まらない。ナイフを()きつけられながらビデオを撮影(さつえい)したときにも、ボスに銃口(じゅうこう)()きつけられたときにも(なが)すことがなかった(なみだ)が、(いま)になって(せき)()ったようにあふれ()る。

 ()きじゃくる少年(しょうねん)を、綾子(あやこ)はいつまでも、(やさ)しく()(つづ)けた。



 ギャングたちと女性(じょせい)議員(ぎいん)、20(たい)1の(たたか)いが決着(けっちゃく)した。

 たったひとりの女性(じょせい)議員(ぎいん)に、20(にん)全員(ぜんいん)()(ころ)された。



 半年(はんとし)()、とある都内(とない)のホテルのロイヤルホールでは、(はな)やかなパーティが(もよお)されていた。天地(てんち)広々(ひろびろ)とした会場(かいじょう)(なか)は、(わか)女性(じょせい)ばかりで、学生服(がくせいふく)姿(すがた)少女(しょうじょ)(おお)い。彼女(かのじょ)たちが()つめる舞台(ぶたい)中央(ちゅうおう)に、綾子(あやこ)姿(すがた)があった。

 ――国会議員(こっかいぎいん)城園(じょうえん)綾子(あやこ)だ。

 半年(はんとし)(まえ)事件(じけん)は、都議会(とぎかい)議員(ぎいん)だった綾子(あやこ)全国区(ぜんこくく)、いや世界(せかい)有名(ゆうめい)にした。『たったひとりで凶悪(きょうあく)外国人(がいこくじん)ギャングに()()かった女性(じょせい)』。世間(せけん)彼女(かのじょ)(おお)いに支持(しじ)したことで、綾子(あやこ)国会議員(こっかいぎいん)にまでキャリアアップしたのだ。今日(きょう)のパーティは、先日(せんじつ)国政選挙(こくせいせんきょ)参議院(さんぎいん)議員(ぎいん)当選(とうせん)した綾子(あやこ)(いわ)うためのものである。

 女性(じょせい)たちの歓声(かんせい)(れい)をして(こた)える綾子(あやこ)に、花束(はなたば)(かかり)登壇(とうだん)する。――綾子(あやこ)救出(きゅうしゅつ)された少年(しょうねん)だ。すっかり(かお)血色(けっしょく)もよくなっている。女性(じょせい)ばかりの空間(くうかん)のせいか、少年(しょうねん)(かお)()()にさせながら、綾子(あやこ)花束(はなたば)(わた)した。

「ありがとう。うれしいわ」

 外国人(がいこくじん)ギャング《ベルセルク》。東京(とうきょう)において最大(さいだい)勢力(せいりょく)だった悪辣(あくらつ)組織(そしき)は、ボスの死後(しご)、いくつものグループに分裂(ぶんれつ)した。以前(いぜん)までは市民(しみん)恐怖(きょうふ)(おとしい)れていた《ベルセルク》の名前(なまえ)だが、(いま)となっては『(おんな)ひとりに敗北(はいぼく)したギャング組織(そしき)』の代名詞(だいめいし)となってしまった。ゆえに分裂(ぶんれつ)したどのグループも《ベルセルク》を名乗(なの)らず、東京(とうきょう)のギャングの歴史(れきし)(まく)()ろした。分裂(ぶんれつ)したグループも、綾子(あやこ)提出(ていしゅつ)した(しん)条例(じょうれい)可決(かけつ)された結果(けっか)以前(いぜん)のように(あば)れることはできなくなった。(かせ)げなくなった東京(とうきょう)()るものはおらず、次第(しだい)(かず)()らしていき、ついには凶悪(きょうあく)ギャングは排斥(はいせき)された。



(わたし)は、不当(ふとう)(ちから)には(けっ)して(くっ)しません。子供(こども)たちの未来(みらい)のために、これからも(たたか)(つづ)けます」



 綾子(あやこ)のゆかしくも力強(ちからづよ)演説(えんぜつ)に、女性(じょせい)たちは共鳴(きょうめい)する。

 ロイヤルホールに(ひび)(わた)る、女性(じょせい)たちの(あつ)拍手(はくしゅ)歓声(かんせい)

 女性(じょせい)たちの(はな)やかな旋風(せんぷう)は、いつまでも()いていた。



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