義妹に呪われた
本日2本目。
んぅ…?ここは…?私の部屋?えっと…確か私は…そうだ。作業部屋で薬草の処理をしていた所に義妹のリリアナを伴ったディルック殿下が訪れて開口一番にお前とは婚約破棄だと伝えられ…そして殿下を騙したとして追放される…だったかしら。1日の猶予付きで。…即刻出ていけとは言わないあたりは殿下の恩情…なのかしら。そしてその後自分の部屋に足を踏み入れた瞬間に足元に魔法陣が展開されて…ああ、そうだわ。リリアナに呪いを掛けられてしまったのだったわ。けれど…それは夢…だったのかし…ら?…へ?も、もしかして…夢じゃ…ない…⁉わ、私の身体が…⁉
シャローナが起き上がって正面を向くとそこにはベッドからすぐの壁際に備え付けられたドレッサーがある。その鏡には本来移るべき者の姿は映っておらず、映っているのは…一匹の白猫…であった。
(もしや…今鏡に映っているのは私…?)
右手を上げてみる。すると鏡の猫も同じ動きをする。左手を上げてみる。やはりと言うべきか鏡の猫も同じ動きを同一のタイミングで行っている。すると必然的に鏡に映っている白猫こそが私…になるのよね。
辺りは暗く、周囲に人の魔力を感じられない。ならば現在時刻は深夜に差し掛かる頃といったところ。ふむ?猫になったからか魔力探知の精度が向上しているような…?要検証だが今はそんな場合では無い。とにかく家から出ていく準備をしなくては。それと平行して王妃様に謝罪の手紙を書いて…そうだわ。アルト達にお別れとあとの根回しをお願いする手紙も書かないといけないわ。でも…今の猫のぷにぷにの手で手紙、書けるかしら…?
「ニャ〜。」(これを王妃様に。なるべく急いで渡してね。お願い。)
「クルル〜♪」
やっぱり声は出せないか。魔法鳥には魔力による念話が出来るから問題はないけれど…
文字を書くのに苦労すること10分程…初めはペンを持つのに苦労したけれど、なんとかペンを掴めるようになったら驚くほどペンが手にフィットするの。おかげで人間のときと同等かそれ以上の速度で手紙を書けたわ。手も痛くならないし。…意外と猫の身体も悪くないかもしれない。
王妃様への手紙を書いてからは連続して友人や知り合いなどに向けて手紙を書き、ちゃんと魔法鳥達に届けてもらった。彼らからは怒られるかもしれないけれど…。後のことをお願いしたし、これで憂いは少し解消できたわ。…私が経営に携わっている孤児院の子達が心配ではあるけれど…それも私の昔馴染みのアベルに頼んだし悪いようにはならないはず。…ごめんね皆。
それにしてもリリアナは義両親も承諾したと言っていたけど…それは本当かしら?あの人達は確かにリリアナが生まれてからはあの子に愛情を注ぐようになってはいたけれど…私はまぁ、色々複雑なのは事実でも義理の両親は私を大事にはしてくれていた。…ああ、でも…実の娘に幸せになって欲しいと思うのも当然よね。そうなるとおかしくはない…のかしら。けど、この婚約は確か王家からの(正確には王妃様からの。まぁ、私と王妃様の関係は置いておいて。)申込みだったはずだけど…。どうするつもりなのか。真意も何も今となってはもう聞くことが出来ないだろう。
…後は持っていく荷物よね。ほとんど必要ないかも知れないけれど…もしも人間に戻れた場合に備えていくらかは荷物を持ちたいところだけど…この身体じゃほとんど何も持っていけないだろう。でも私のお母様の形見のブローチ。シルバームーンストーンがはめ込まれたこのブローチだけは持っていきたい。私とお母様とを繋ぐ唯一の物だから。恐らくだけど、これの存在をリリアナは知らないはず。私はリリアナが生まれてからは一度もあの子の前で身に付けていないから。時折こうして取り出しては眺めていたけどね。
どうやって持っていこうかしら?…中々に私はモフモフみたいだし…この体毛の中に入れておくことは出来ないかしら?昔そういう動物が居ると読んだ…記憶がある。とにかく試してみよう。秘密の隠し場所に隠してあるブローチを取り出して胸元の毛に入れてみる。
…流石に入らないか。しょうがな…ん?入った…⁉だけどそこに物がある感じがしないわ⁉なくなったら困るのだけど…⁉あら?毛の中を漁っていたら今度はブローチをが出てきた…?もしかして…?と思いもう一度私は毛の中にブローチを入れてみる。するとやはりそこに物がある感じがしない。毛の中を漁っても出てこない。だけどブローチを思い浮かべて漁ると出てきた。もしかしたら…!!そう思ったら検証せずには居られない。あまり時間は割けないのだけど、それでも私の想像通りなら荷物に関しては悩まずとも良いかもしれない。
そして検証してみた。結果分かったのは、私の胸元のもふもふした毛は異次元収納になっているということ。そしてもう一つ。私の膨大な魔力量に比例しているのかこの部屋の物を全部詰め込むくらいなら簡単に出来たの。そして取り出すにはその仕舞ったもののことを思い浮かべる必要がある。これなら人間になったときの備えも出来るし、なんとかなりそうね。良かったわ。
こんな魔法があるだなんて聞いたことがないけれど…深くは考えても仕方ないわね。こういう時は日本人の記憶があって良かったと思う。とりあえず人間に戻った場合に備えて服を数着、そして貯めておいたお金も持っていく。
…ここまでは良いのだけれど、大きな問題が一つ。私は市井での生活も慣れは必要だけど問題なく出来ると思う。元一人暮らしだし。けど、当然狩りなんて出来ないし下手したら野垂れ死ぬ可能性が高い。そうなると何処かに拾ってもらわないといけない。当然、王都ではない街で、という条件付きで。
だけど、庶民に拾ってもらうわけにはいかない。確かにこの国大体の国民は贅沢しなければ普通に暮らせるくらいには裕福ではあるけれど、ペットを飼うというのは贅沢に当たるはず。そうなった場合、家計を圧迫するようになるでしょうね。私としてはそのせいで拾ってくれた人達が不幸になるのは見たくないわ。だから庶民に拾ってもらうのはナシ。かといってどこかの貴族に拾われるには機会が無いし…あら?もしかして私、詰んでる…?
次回はいつになるのやら。あと数話投稿したら別視点が続く…かも。
作者のメイン作の【自重する気のない私の異世界生活】とは繋がりないよ。設定が似通うことはあるけども。