大切な人
不気味な狼は全て灰になった。
わたしが炎で焼いたせいもあるけれど、魔物というより魔法生物だった可能性が高い。
ベルク商会の隊商を守っていた冒険者パーティーと馭者は全滅、『鋼鉄の誓い』もニルトが亡くなり、ベッタも頭に爪の攻撃を受けて、治療が遅かったら死ぬ所だった。
魔法生物に詳しいものはいなかった。そうした呪いの生物が白昼堂々、領兵隊の駐留する領内にあらわれた衝撃は大きい。
ベルク商会の会長が乗っている所を襲ったので、商会に恨みがあるものの仕業に見える。そう見せかけただけなのか、実際のところ、狙いは定かではない。
わたしはニルトの亡骸を、お父さんの眠る山小屋近くの大木へ運んでもらった。
大事なものをいっぱいくれた人だった。わたしの力をまったく怖れずに、グイグイ迫る愛しい人だった。
わたしに足りないものを補ってくれた人だった。
レガトを連れて一緒に来てくれたサンドラさんが、わたしの頭を抱えてくれた。
いまは少しだけレガトの母から、ニルトの妻として泣かせてもらった。
宿屋へ戻ると、療養中のベッタに付き添うナークを休ませたとヒルテさんが教えてくれた。
わたしはレガトを寝かせる。今はもうすっかり泣きやんで大人しくしてくれた。
色々あって疲れたわたしもレガトの横に眠る。
気がつくと青い顔をしたアリルがわたし達を見つめていた。
「アリル? こんな夜中にどうしたの?」
魔法の灯の下なので美しい顔が妙に映える。
ニルトの事でしきりに謝っていた。
でもアリルだって、ニルトの大切な妹で悲しい気持ちは同じはずだ。
守って守られる。冒険者として仲間として当たり前の行動をニルトは取っただけだ。
それでもアリルは自分が許せないのだろう。
妹だから余計に··。
「少し外に出ましょうか」
わたしは夜番をしてくれていたヒルテさんに声をかけ、アリルと外へ出た。




