護衛任務
『海竜の爪』としての最初の依頼はベルク商会の隊商の護衛に決まった。
ちなみにクラン名は『海竜の咆哮』になった。海竜と冠するのはラング達が海を見に行った時に、初めて海竜を見て感動したからだという。
都市国家群の東の大陸には多様な竜族が棲み着いており、海岸線に海竜があらわれたり、海を渡って翼竜達が襲いかかることもあったりするという話しだ。
俺も見てみたい気持ちはあるが竜族は大きく強力な魔物が多数で、接敵した時点で生命がけの戦いになりかねない。
護衛任務は何度か請け負ったものだが、ダンジョンやフィールドで依頼人を守るのと、行商人などの移動日数を要する護衛は根本的に違う。
俺はバイトの経験のせいか、あまり動かず依頼人の護衛する仕事はうまくこなせた。
「馭者はガルロが務めるし、気負い過ぎない方がいいわよ」
緊張する俺にレミールが声をかけてきた。鋼級なのにと言われそうだが、元の世界で野営などした事はないし、魔物退治は慣れたが盗賊山賊の類と戦う可能性があるとなると憂鬱になったのだ。
弱音を吐いても仕方ないので、恥を忍んでガルロに野営の方法や、盗賊団が出た時の対処法を教わる。
護衛といっても生命あっての物種で、賊徒に関しては敵いそうにない人数相手なら逃げの一手だそうだ。
ガルロと話しているとレミールが話しに混ざってきたのだが、彼女は俺に気をかけているというより妹の事が心配そうだった。
◇◆◇
キールスのギルドハウスに盗賊団討伐依頼が提示されたのを機に、街の物流が滞り始めていた。そんな中でも隊商は予定通り出発する。
盗賊団が絡むという事で、護衛人数は『海竜の爪』の他に五名のDランクパーティーが追加で雇われた。
ダンジョンで得た素材等が荷馬車三台分、護衛や馭者や荷馬のための馬車が一台の計四台だ。
個人の行商人が便乗してついてくる事もあるが、今回は流石にいなかった。
◆◇◆
「便乗して襲われても助ける義務はないですからね」
旅慣れたガルロは、守る対象をハッキリさせている。護衛のコツがあるとするなら、依頼人が第一優先、そのためにも自分の身を守る事が大事だ。
Dランクパーティーがどこまで信用出来るかはわからないが、何度か依頼をしていてガルロもサンドラも知っていた。
ラクトがリーダーとして号令をかけて、隊商が動き出す。
俺は念の為に女神様の鎧を着て来たので、護衛達用の馬車の馭者を任された。正直まだこの鎧を着こなせていなかったので助かる。
操縦はガルロにつきっきりで習っていた。やれば俺にも出来るものだと、自分で自分に感心したのは内緒だ。
馬車はガルロが先頭、ラクトとサンドラが左右を固め、残りの二台Dランクパーティーの内四名が守る形だ。
残りの一名は俺が動かす馬車の荷台の後ろに乗り込み休息がてら後方を見張っていた。
あとはガルロ以外の馭者二名いて、非戦闘員扱いだ。もし魔物なり盗賊団なりが現れたら、ガルロの指示に従う事になっている。
初日は何事もなく進む事が出来た。
狩り場が集中している地だけにあくまで無事に済んだというだけで、この辺りに多く出没するリザードンの群れやどこにでも沸くゴブリンとは洩れなく遭遇している。




