新パーティーリーダー
ドワーフのクロードが正式に加わり『海竜の牙』はクランを結成した。クランの盟主とメインパーティーのリーダーはラングのままだ。サブパーティーのリーダーには彼の弟のラクトに決まった。
二人とも似ているので違和感はないが、レミール、サンドラ姉妹は公表したのに、と思う。
ラクトをリーダーに置きたいとラングから相談された時、御家事情みたいなものがあるのかと察していたが半分当たりだったようだ。
「もともと俺達は帝国出身なんだよ」
相談の席にはラング、エルヴァ、ラクトがいる。今ここにいないクランの参加メンバーの中で内情を知っているのはベルク氏とクォラの二人だ。
「言い出し辛かったのはラングとラクト、二人が腹違いの兄弟だったからさ」
二人に変わりエルヴァが兄弟関係の説明をする。帝国のとある貴族の子で、兄ラングは愛人の子で貴族として承認されていない私生児だった。
「ちなみにあたしは、ラングと異父兄妹」
ややこしい関係だが見てきた限り、兄弟仲は悪くない。ラクトをサブパーティーのリーダーに置くのも、いずれラクトは領主になり、兵を指揮する立場になる事を踏まえているのだろう。
俺に相談と言うのは、クランメンバーの序列を考えての事なんだと察せられた。
『海竜の牙』のパーティーリーダーだったラングがクランの盟主、メインパーティーと扱うのは何もおかしくない。ただ序列的にサブパーティーのリーダーはエルヴァか、冒険者の階級的には鋼級の俺に任せるのが妥当だろう。
エルヴァは副リーダーだった事もあり男女バランスを考えて立てるのも納得出来る。俺も新参とは言えど、ラングと同じ鋼級冒険者。
二つのパーティーの片方を任されてもそんなに不満は出ないはず。もっともやりたいわけではないがな。
ラクトをリーダーに置くなら、もう少し人を集め三パーティー目くらいなら理解される気がする。
意見が欲しいと言うので、俺は思ったままを伝える。俺の考えは三人とも考えていたようで、う〜ん、とばかり唸る。
自分より年配だったり実力が上だったり、領主になればそれが当たり前な環境が予想される。
今からそれに慣れて、不満や疑問の声や視線に対処させようという所か。
どうもこの相談はラクトが発案したらしい。事情をあえて話す事で、理解を求めている。何より俺に辞められても困るし、意欲を失わせたくないのだろう。
「それくらいの事で、臍を曲げないよ」
まわりくどいし、政治的な駆け引きをしたくて冒険者になったわけじゃない。俺はこの世界に来て冒険者生活を楽しんでいる。
リーダーなんて柄じゃないのもよくわかった。戻って教えてやれるなら大学受験に失敗し絶望した、あの頃の俺に伝えたいくらいだ。
一つ失敗したくらいで全部が否定されるわけじゃないんだよ、と。
搾取されるだけのつまらない人生と悲観せず、出来る中で生きる目標を見つければ這い上がる機会が訪れたと、楽観的でもなく今はわかる。
どんな形であれ今、俺はここにいる事でそれを証明しているから。
「ほら、かえって気をつかわせたじゃない」
エルヴァが俺にウインクする。心配し過ぎなラングと、見かけによらず考え過ぎるラクト。なるほど兄弟だな、って見てて思ったよ。
話し合いの結果ラクトはサブパーティーのリーダーに、俺はその補佐として副リーダーにつくと決まる。クランでその旨を、盟主のラングが発表した。
ラクトの性格や日頃の人当たりの良さを知る仲間達から、不満の声が上がる事はなかった。
俺がリーダー役を辞退したと、先に伝えたのが良かったのかもしれない。
クロード、サンドラあたりは割りと俺を推してくるから尚更だ。
『海竜の牙』パーティーリーダーは変わらずラング、メンバーはエルヴァ、キャロン、クロードで組まれる。
ラクトをリーダーとするパーティーは『海竜の爪』を名乗る事に決まる。
メンバーは俺、クォラ、サンドラだ。
メインパーティーは主力となる。
バランスを考えて魔法の使い手を分けるよりも火力特化に一パーティーに固めた方が良いと皆が賛成した。
クォラをラクトにつけたのは年の近い親友、将来の腹心にするつもりだろう。ベルク氏、レミールの夫婦は戦闘職ではないので外れている。
盾使いのガルロは基本はラングのパーティーに所属するが、二人の護衛を任されそうだ。俺達はサンドラやガルロがしていた行商の護衛が基本になる。
ダンジョン攻略の際には『海竜の牙』のサポート役に回る。メンバーが増えたので、まずはそこから手を付けたいというラングの考えは支持された。
パーティー内の問題点は、仲のあまり良くないラクトとサンドラを組ませた事くらいだ。
今後を考えての事だそうだが、俺がいるので喧嘩を抑えられると言われている気がした。
みんなが仲良くやれるのならそれが一番だろう。まあ、気が合う合わないは人が集まれば出てくるものなので、領主とか関係なく上に立つもの皆が通る道ってやつだ。
二人を冒険者として送り出したという貴族は、かなり地に足をつけた思考の持ち主に感じる。
ラングを見ていると、俺にはそういう素質がないのもわかる。だからラクトの補佐は、俺にとっても学び直せる良い機会なのだ。




