新規加入
俺は『海竜の牙』に臨時で加わり依頼をこなす事になった。
八名が集まり、五名三名のニつのパーティーなら依頼報酬を二つに割っても報酬額にそれほど不満はわかない。
だが、俺一人が一パーティー扱いで依頼報酬半分総取りって言うのはちょっと気が引ける。
人数の頭割りなら苦情も出ないと思ってしまうが、個人だと階級にバラつきがある為にそれはそれで問題になった。
未熟な銅級と経験豊富な鋼級が、同じ報酬額というわけにはいかないからだ。俺は気にしないが『海竜の牙』側が気にした。
報酬の違いで足並みを乱すのも嫌なので、俺はパーティーに組み込む事を提案した。
面倒だけど冒険者として長くやるかもしれない以上、トラブルは避けたい。
『海竜の牙』にまとめて報酬が入ろうと、リーダー達の権限で俺への報酬を手厚くすれば同じ事になる。
違うのはパーティーとしての貢献度が全て『海竜の牙』に入る事だ。
この案にラングは賛成してくれた。
報酬に関して話し合いトラブル案件をクリアしたので、依頼については上手くこなす事が出来た。
宿に戻った俺は鎧を全部つけるのは止めて急所を中心に身につけた。
斧も振るうのは簡単なのに、背中にくくりつけて持ち運ぶには重く邪魔だった。慣れる事と鍛える必要がある。
最初の依頼の時にはとにかく無駄が多いのか疲れた。
戦闘に関してはまったく問題なかったと思う。
現代っ子の俺が斧を振るって魔物を倒すのは無理って思ったが、うまく適応出来たみたいだ。
手こずったのは解体して魔晶石を取り出す作業だけだった。
何度か彼らと仕事する機会も増え、俺もこの世界に馴染んできた。
何件か『海竜の牙』と仕事を一緒にする内に信用を得たのか正式にパーティーを組まないかと誘われた。
就職する事も出来ず、バイト暮らしだった俺はやましい事以外で仕事や遊びに誘われる事などなかった。
『海竜の牙』がこちらの事を観察していたように俺も彼らの人柄をみていたから誘われたのは素直に嬉しかった。
鋼級の肩書きと怪力、どちらもこの世界でやっていけるように女神様からいただいたもの。
結局自分の力ではないと思うと気持ちが沈むが、自力じゃ実際抜け出せなかったのだから今更だな。
俺は『海竜の牙』に加入した。
自分誰かの役に立てる事が自分の為になる事に生き甲斐を感じた。
『海竜の牙』には他にも新しくメンバーが加わった。
ベルク氏の奥さんで商会と『海竜の牙』の会計を行うレミール。
彼女の事は今更ながら俺もよく知っている。
キールスのギルドの受付嬢をしていたのだから当然か。
ベテランらしく人当たりがいいのでギルド側が中々移籍を認めてくれなかったそうだ。
『海竜の牙』の面々も新人の頃からお世話になっている頼もしい女性だ。
次に盾使いのガルロと、槍使いのサンドラだ。ガルロはベルク商会の行商用馬車の馭者をしていた。
いずれ商会の番頭になる逸材との事だとベルク氏が自慢気に語っていたな。
ベルク氏同様、商業ギルドに登録籍をおいている。ギルド立ち上げの前段階であるクラン結成に協力を申し出てくれたのだ。
槍使いのサンドラはレミールの妹で、ガルロと共に馬車の護送についていた。レミール、エルヴァと気質は似ていてラクトやクォラと揉める問題児らしい。
そしてもう一人鍛治士のクロードというドワーフが参加してきた。
街で武器屋を営んでいてベルク商会の店のライバル店なのだが、それが何故? とみんな思ったらしい。
理由は俺の着る鎧だ。女神様はアルミに似た金属だと言っていたが、俺の知るアルミニウムではなくアルミナタイトと呼ばれる希少価値の高い鉱石が使われていると教えてくれた。
専門家として素材をはじめ造り方が気になるらしい。
俺が『海竜の牙』に加わりいずれこの街を出てゆくと伝えると丁度いい機会だと店を畳んでパーティーへ加入したのだ。
レミールやガルロやサンドラは身内で信頼性もあったが、クロードに関してはパーティーメンバーも扱いに困っていたっけ。