冒険者の娘 ⑤
レガトのふてぶてしさや、強さの認識がおかしい理由が判明した。わたし達が苦戦した金級冒険者を、瞬時に無力化する光景は助けられた事より衝撃を受けてしまった。
誰に? それはレガトのお母さんに。シャリアーナやスーリヤはアリルさんの強さや剣技に惚れ込んでいたみたい。でもわたしはレーナさんの動きに、魅入られてしまった。
無駄のない剣の斬り込み、流れるようにあわせた動きからの魔法による追撃。剣撃の余波で攻撃したように見えた。でもわたしには金級冒険者の防御魔法を、食い破るように魔法が突然発動したのも見えた。
わたしの見間違いでなければ剣を合わせた瞬間に、レーナさんは魔法防御破壊と風刃の同時発動していた事になる。
金級冒険者、それも剣技を得意とする相手と互角に剣を交えながらの魔法攻撃。強く、それに美しい人だと思った。
金級冒険者はレガトに致命的な傷を与えて、一度は生命を奪った。すぐに復帰したのもレーナさんの魔法の道具の力らしい。それくらい金級冒険者は強かったのに。
レガトを叱りながら抱きしめる姿にわたしは放心してしまう。レガトが羨ましいと思う。
それはお母さんがいて羨ましいというのではなくて、完成された英雄の姿を見本にしてこれた事に。
だから顔を真っ赤にして照れないで、心配するお母さんの気持ちを安心させてあげて。それはわたし達にはもう叶わない気持ちなのだから。
レガトの行動は、レーナさんに似ているのも良くわかった。
二人とも冒険者であるという事を、凄く楽しんでいて大事にしている。
わたし、それにハープとホープの両親が冒険者だった事を知ると、レーナさんが気にかけてくれるようになった。
アリルさんも私たちの両親と仕事をした事があったみたい。
レガトはあまり自分の事を話さないけれど、レーナさんは亡くなったレガトのお父さんの事やお爺さんの事を教えてくれた。二人がラグーンにやたらとこだわるのも、お爺さんの影響なんだね。
ロドスの学校へ行く事になったり、学校で会って少しだけ話した事のある皇子が新しい皇帝陛下になったりと、レガトと出会ってからは普通の冒険者でいられなくなった。
空を飛ぶ船で海を渡るのも、大陸を越えるのも、ラグーンの孤児では体験出来ない世界だった。
それにレガトはずっと嘘をついていた。いかにも魔力を制御出来ないから仲間達に魔法を発動してもらう、なんて回りくどい事していた。
そんな真似をしなくても、雑な制御でいいのなら魔法を使えたんだと思う。召喚の時はまったく問題なかったものね。
そう言うと困らせちゃうから黙っていたけどね。レーナさんも黙っていてあげてと言っていた。そうしないとみんなが成長出来ないし、レガトだけに頼ってしまう。みんな負け嫌いな性格だから全力で応えたがるからね。
元々貴族で素質はあったけど、ラクトスとかは、領主様すら驚くくらい成長したも。
ハープやホープだって、金級冒険者と戦っても今なら五分で戦えるくらいたくましくなったし、スーリヤなんかアリル様に直接個人指導受けるようになってから物凄く強くなったもの。
わたしも、魔法を覚えたことで弓を扱う事に長けたと思う。カルナっていう、同じ魔法と弓を使う仲間がいたのも大きいかな。
レガトやレーナさんの姿を追っていたから昔より洗練されたんだね。
私たちは偽物の神様を崇めて、異界から迷惑な人々を呼び出す狂信者の集団を倒した。
帝国の中央貴族は結局このテンプルク教団に踊らされて、東西の分裂と遺恨だけが残された。
西部諸侯の旗頭はロズベクト公爵だけど、シャリアーナが皇女となった以上は、彼女がいずれ担ぎ出されると言うのがレガトやレーナさんの見解だった。
内海との交易をまとめるロズベクト公爵家との結びつきも強く、北方への街道が開かれれば経済の中心は間違いなくラグーンへ移ると変態商人のリエラさんが張り切っていた。
経済力で東を圧倒して戦争にならないようにするとシャリアーナも奮闘しているけれど、どのように進んでもわたし達はシャリアーナの味方だからね。
レーナさんの煽り発言でレガトが急に女の子に対して意識しだしたけれど、ハープやホープと違ってレガトは本当に冒険者脳な所があるので、女の子達の方が気を遣ってやらないと上手くいかない気がした。
レーナさんが、ニヤニヤしながら私を呼ぶ。はぁ、私は深くため息をつくと、喧々囂々と騒ぐ輪の中に加わった。
お読みいただきありがとうございます。
本編は完結済みですが、おまけの番外編を追記しております。
冒険者の娘 リモニカ編の後は、脳筋男の憂鬱 リグ編をお楽しみください。




