夜魔の王女④
うぅ、悔しいしおかしい。私の言う事は聞かないのに、レガトの命令にはホイホイ従うなんてさ。あの子達が手伝ったから、レガト達の戦いも早く片付いた。
おかげで親馬鹿パパが、レガトの存在に興味持っちゃったじゃないの。
レーナからは、公女との来訪のタイミングを合わせろって言われてるのに。
とりあえずレガトも目立って騒がれたくないだろうから、書類は預かっておこう。
クォラがしつこい。おやじだから?
ミラに任せて大人しくしてればいいのに。
あっイタっ!拳骨を落とされた隙に、レガトの書類を引ったくられた。
あぁもぅ私は知らない。
そうだ、上手く行かなかったらクォラのせいにしよう。なんかクォラがレガトの資料に目を通しながら、青くなったりプルプルしたりしてる。
この感じ、絶対八つ当たりされる流れだよね。お茶でも入れ直そうと、ソロっと逃げるために席を立つ。
あれ? 動けない?ミラのデカいお尻が私のスカートの端を思い切り踏んでるじゃないのよ。説明に夢中になって、ミラってばまったく気が付いていない。
クォラが理不尽に怒りを私に向けるけど、ミラから情報を得ていて気にかけなかったの副ギルドマスターの方なんだからね。
きっと辺境伯にも報告しなかった事を怒られるし、エルヴァにはしたり顔で嫌味言われるだろうけど、私を道連れにしないでほしいね。
レガトに仲間が出来たので次は公女を迎え入れる体勢づくりだ。なんか変なのがやって来たけど、レガトが冒険者と知って教えを乞いに来たみたいね。
流石だわレガト。もうラグーンで有名人になってるのね。
早馬で公女がやって来ると聞いて、辺境伯も慌てていた。公爵からは出来る限り好きにさせて、早々に送り返してほしいと書かれていたみたい。
面倒臭いけれど、公爵の指示通りにはさせられないのよ。クォラから報告が上がっているだろうから、私は領主邸へやって来た。
領兵の耳元にアルプとケルプがフッと息を吹きかけた。ゾワッとした瞬間にはもう門を抜けて、私は領主邸の中に入っている。
メイド服なので領兵もそれほど気にかけず通してくれるけれど、たまに融通効かない頑固ちゃんがいるのよね。
私が執務室へ行くと、辺境伯に驚かれた。
「面会の予定はなかったはずだが」
私を見て自分の邸の人間じゃないとわかるなんて、どれだけメイド好きなのこの男は。
「ちょっと待て、変な誤解をするな。あと、何を言おうと不審者はそっちだぞ」
もう顔を知っているはずなのに、無駄に用心深いおっさんだわ。片手に短剣構えるとか、どういう嗜好なのよ。
そう言えば私、レーナに呼び出されていきなり消えたままになっていたんだったわ。
領主邸はあの後、騒ぎになったらしいけど全部レーナ――――じゃなくて報告を怠ったクォラが悪いのよクォラが。
私は一応この前消えた経緯を説明しておく。悪いのは私ではないとわかればいいだけだもの。クォラの胃と髪の心配なんてしないわよ。
私の態度に、辺境伯は深く溜息をついた。なんでも馬鹿息子がバカをやらかして頭の痛いところに、公女の報せが届いたそうだ。
レーナから預かった言伝を聞くと、どうして公女が急に動いたのか辺境伯も納得したようだ。
出来る領主はクォラと違い、レガトの事も気にかけて調べていたようだ。
情報源はエルヴァだろうけど、ね。
公女の受け入れについてはレガトのパーティーごと孤児院の空き家を提案した。
レガトが拠点をほしがるだろうし、元ギルドの拠点だったので防衛しやすい。
公女の世話係も孤児院の子供という、どこの手垢もついていない働き手が揃ってるものね。
拠点の案については辺境伯も了承し、入用なものがあれば用意すると確約してくれた。
後日シャリアーナ達が合流して孤児院隣の空き家に拠点を移す事になった。
私は殺風景な拠点内が公女の宿舎として相応しくないからと、領主邸の中から家具を調達する。
買うと高いし時間もかかるものね。
約束した手前、辺境伯は複雑そうな顔で執務室のソファーが運ばれてゆくのを眺めていた。




