はじめての依頼
俺が初めて訪れ滞在している小さな都市キールスは、ムーリア大陸の北東部に位置する都市国家連合と呼ばれる地域だ。連合と呼ぶのは近隣諸国が便宜上つけたもので、女神様のいうように都市群内では絶えず縄張り争いが起きている。
このキールスという都市も、ダンジョンや狩り場を巡り、いくつかの街と主導権争いがある。抗争と言っても冒険者同士が生死をかけてやり合うわけではない。
実力のある冒険者達を集め抱え込み、狩り場となるフィールドやダンジョンで実力を示す。強いものを討伐すし、珍しい品を手に入れる。未踏の地へ至り新たな種やダンジョンを見つけるなど、名誉的な争いが中心だ。
ただ結果が積み重なれば人が集まり栄えてゆくし、失敗し続ければ落ちぶれてゆく。起死回生を計り最終手段として、武力行使に出る所もある。
もっとも大半の冒険者が離れていった後のため、玉砕したのちに解散という流れになるのだが。
大国と違い都市国家群では、都市の設立は自由に行うことが出来る。ただし水源の独占や、ダンジョンの専有など、目に余る行いをすればギルドの盟主達が一致団結して叩きに来る。
強力なギルドに吸収された結果独占されるのは許すものの、冒険者ギルドの矜持から外れた行いは許さないという事なのだろう。
俺にはまだ違いがよく分からないが、これはこの世界に根付く冒険心や探索心などの心意気に関係しているのかもしれない。
キールスの街は落ちぶれ気味のギルドだ。『ギルドハウスを見れば実力がわかる』 と言われているように、他の街に比べて貧相なギルドだからだ。
他の街のギルドハウスの外観などはまったく知らない俺には、格言とか定説の意味が分からない。宿屋はわりとしっかりしているのに、どうしてギルドハウスはボロいんだと思うが。
宿屋のお喋りな少年や女将さんの話しを聞く限り、ギルドマスター的にはもっと早くギルドを発展させて、ギルドハウスを移転するつもりだったようだ。
他の街と交流を持つ商業ギルドの協力もあり、ギルド設立までは順調だったという。落ちぶれたのはダンジョン探索失敗で主力パーティーを失ってかららしい。
主力パーティーというのはギルドの顔、看板だ。ギルドマスターやギルドの幹部がそうしたカリスマ的存在だったように、所属ギルドの中心メンバーは人を集める華やかさがあるものだ。
主力を失った事でギルドの計画は狂い、助力してくれていた商業ギルドも離れていった。キールスに残っている冒険者や住人は、もとからギルドに関わりの深い人達や、恩義を感じている人達ばかりだ。
俺に絡んだ古参冒険者達もそうした類の人達で、他所者がからかいにやって来たと思っての行動だとわかった。
テンプレ展開にも理由があるものだな、と俺は感心した。
宿屋でゆっくり休み、俺は朝早くギルドへ向かう。女神様の鎧は重いので仕事に必要な時に着ようと置いてきた。
ギルドハウスには昨日より人がいるようだ。落ちぶれたといってもこの付近には、稼ぐのによいダンジョンが二つもある。競合者の少ないギルドを好んでやってくる者達も中にはいるようだった。
依頼は階級により分かれているが、半分近くが素材集めや珍品の回収といった所か。女神様から教わった事前知識は日常的な事までなので、文字がまず読めてホッとした。
まだわからない単語はあるが、この世界の文字は魔法言語といわれ、文字の意味がわかれば単語はなんとなく察せる。
深く意味を知るには単語として覚える必要はあるが、こちらの世界に下積みのない俺には助かった。
俺は依頼の中から読みやすいものを探し、自分だけで受ける事が出来るか調べる。素材集めの中でも、討伐対象の必要性があるものは避けた。
力はもらっても戦いは素人、それに一人では回収の仕方も運搬も難しいと思われたからだ。鋼級の依頼はその大半が討伐依頼を含む。あくまでパーティー推奨の為、一人なら無理だ。
依頼とにらめっこした結果、採取系依頼の護衛を受ける事にした。