未知の大陸
目指す国は、北方のエルヴィオン大陸を越えた先にあるパゲディアン大陸だ。テンプルク教団の本拠地テンベールがその地にあり、教団お抱えの『異界の勇者』もそこの国からやって来ていた。
「ずいぶん遠くへ行くん事になるだね」
船首に座る僕に、ハープとホープがやって来て話しかけてきた。今、浮遊戦艦は都市国家群の上空をゆったりと通過中だ。
下から見上げれば、大きな鳥かドラゴンに見えるかもしれない。もっとも大きな鳥もドラゴンも乗ってるんだけどね。
「船旅の時には結局外海には出れなかったから、僕らにとって初の別大陸上陸になるのかな」
エルヴィオン大陸は何事もなければ通り過ぎるだけになる、はず。障害もないので移動は速い。たまに魔物の群れが飛んでやってくるくらいだ。
船の甲板ではカルジアの従者が、恒例の序列争いを始めていた。新参の龍神だろうと、彼らには関係ないようだった。なんだか頭突きしあってるけど、大丈夫なんだろうか。そして、その中にリエラさんが混じってるんだけど?
「あの輪の中に放り込んでおけば、ああやって余計な雑念を発散するから従者にしたそうよ」
シャリアーナがやって来て、事情を説明してくれた。
「魔法の強化をしてるし、頭は元々おかしいから大丈夫よ」
頭というか性格や、趣向がおかしい。恥ずかし目を自分から求めに行くとか、僕には理解が出来ないんだよね。
「たしかにそうだね。レーナさんやレガトを見る目が、バキバキで怖いもんね」
僕よりも母さんを見るとおかしくなってる気がする。
「まあ悪気はないというか、欲望に忠実なのが商人の利点でもあるのだろうから。落ち着ける場所が出来て良かったと思うよ」
あの集団だけみたら従者や冒険者というよりも、チンピラに見えるよね。
母さんも一応勝手に死なないようにリエラさんに合わせて魔力を補助する鎧に改造し、武器の曲刀もホープのように斬撃が飛ぶ仕組みになっていた。
ユグドールの装備は、当人が強いので標準仕様だ。武器を自分で生成して母さんに見せびらかして喧嘩になってるけど、この龍神様は本当は何しに来たんだろうか疑問だ。
都市国家群から帝国北にあるケルテ王国を抜ける。このあたりはだいぶ寒くなり、隣国のノルデン王国との境にあるノーデス氷原は上空からでも真っ白に見えた。
船の甲板は母さんの魔法で暖気が保たれているけれど、見え始めた海岸には氷塊が浮かぶ氷の海が見えた。
昔、母さんが言ってた氷の海だ。
カルジアの従者達が馬鹿な事をやっているうちに、浮遊戦艦は海を渡りエルヴィオン大陸へ入った。




