航海の終わりに
「『大海の灯火』から聞いた島はここだね」
僕達は彼らからの依頼で、小さな港町のある島に来ていた。依頼の内容はそこに住む二つの家族に、彼らからの手紙を渡すだけの簡単な仕事だった。
「手紙の内容って、ぼく達が倒した事が書かれてるんでしょ? 大丈夫なのかな」
ハープが心配そうに言う。書いたのはリーダーのアドンだ。発案は母さんで、中身は確認してないと言う。
「内容より云々よりも自分たちを殺した相手なわけだから、届けてくれるかどうかもわからないと思うんだよね。それなのに家族の居場所まで教えるかどうか、普通は教えないと思う」
黙っていれば僕達や、彼らの主達に見つからずに済むかもしれない。でも調査が入れば、主達に見つかりどんな目に合うかわからない。
「やり合った敵か、容赦ない主か。
どちらを信じるのかって話しだな」
放っておくことも出来たのだけど、母さんとしては嫌がらせがてらあちらの黒幕に対して先手を打っておこうとの事だった。
手紙を届ける役目は僕とハープとシャリアーナ、それに母さんだ。シャリアーナは、事の顛末を見届けないと気が済まないだろうから連れて来た。
家族の一つはアドンの妻と三人の子供だ。金級冒険者であるし、本国のもっといい暮らしをしているのかと思った。
「ここに書かれている事は本当なのですか?」
アドンの妻は恐る恐る尋ねて来た。見知らぬ冒険者達に不安の表情を浮かべている。
「何が書かれているのか、僕らは中の文章を見てないので知りません」
相手が彼らの身内かどうかも、わからないんだからね。
「この手紙が貴方たちによって無事に届いたのなら信用して、指示を仰げと」
手紙には任務中に戦う羽目になったけれど、本国の人間や海賊より信頼出来る相手と書かれていたようだ。
「夫は亡くなったのですね」
僕達は頷く。どうもアドンは以前から、任務に失敗すれば本国から処罰される可能性を示唆していたらしい。
僕達と戦い殺されたとしても、冒険者同士、海賊の世界では日常起こり得る事と割り切っていた。
「恨まれるのをわかっていながら、わざわざ知らせに来る必要はなかったはずです」
その緊張感こそ冒険者の醍醐味、なんて言ったらさすがに怒るよね。まあ、依頼を受けたし、敵対していても約束は約束だ。
「そちらの雇い主と、僕達は今後戦う事になります。それなら先に嫌がらせの一つや二つしておこうって話しですよ」
そう言って僕はもう一通の手紙と、封書の束と、彼らの冒険者プレートを渡した。
「蟲使いの方の家族宛の手紙に『大海の灯火』の冒険者プレートと遺言書です。家族のいるのは二人で後のメンバーは独り身なので、財産は二人の家族へとの事です」
「でも、それは」
「沿海州国のギルドで『大海の灯火』のパーティー登録の抹消と、各故人の財産名義の変更をして本国から離れた地へ移動する事をおすすめします。
財産を全部引き出してしまうと道中危険でしょうから」
財産をどう分配するかは、二つの家族で決めればいい。ただ早々に移動して手続きを行い、行方をくらませやすくしておく方が見のためだと伝えた。
「本国からの調査が入ると、関係者の生命が危険な事を彼らは一番心配してました」
それはアドンの妻もわかっていたようだ。渡すものも渡したし、僕達は引き上げる事にする。
うまく逃げおおせられるといいけど、少なくとも逃走資金に時間の猶予は出来たと思う。
「でも、いいの? 依頼料として家族以外のメンバーの分は、私達が貰ってくれて構わないって言ってたのに」
敵対して戦った以上、財産だって奪われる事はある。家族がいないもののギルド預かりの財産などはギルドが吸収するか、戦死者のプレートを持って来たものへ渡すかの違いしかない。
遺書まで書かせたので貰っても文句も出ないものだけれど、彼らが生き延びた時に、本当の敵に向けた刃を研ぐのに使う資金になればいいと思っている。
「でも、それってぼくらに向かって来たらどうするのさ?」
「それならその時は戦うさ。そうだろう、シャリアーナ?」
「そうね。お陰さまで私も吹っ切れたわ」
「なら、良かった。それで母さん、どう見たの?」
「誓約によほど自信があったようね。家族には監視者はついていなかったわ」
怪しいのがいれば捕えて利用するつもりだったのだけど、『大海の灯火』は一度任務を失敗したくらいでは信用を失っていなかったらしい。
僕らの行動や攻略の速さが異常だったせいもあって、遠い本国との連絡や派遣が追いついていないのもあったのかもしれない。
「嫌がらせも済んだし、装備も更新したいし、売る物売って一旦ラグーンまで戻ろうか」
長く感じた船旅は内海だけで終わったけれど、充分に戦果も得られた。
あとは人材が入れば文句なしだけど、それは追々探すとしよう。




