趣味は人それぞれ
「見なかったことにしよう」
何もしないこと、それが一番平和的な解決方法だ。解放すれば戦うことになるし、母さんがいるにしても仲間達の身が心配だ。時間制限が来ればどのみちお別れだったからね。
「置いていくの?」
シャリアーナが魔物らしき人物を見ながら、不安そうに尋ねる。人の姿のせいで、魔物なんだという認識が難しいらしい。
「違うわよ。それならさっきからやってるじゃない」
念のため解放してみては、サハギン化したみたいな魔物になって襲われた。
僕はもう、この囚われの人々はそういう罠だと認識している。固有名を名乗ったので、水魚の花嫁が魔物かは、ハッキリ決めかねているのはある。
|ただ今の帝国が成立する以前にあった国の王子が花嫁姿で何百年もダンジョンに囚われて生きているのだ。種族的な話しは別にしても、余計な揉め事を自分達から拾うようなものだよね。
「善悪の問題じゃない。せっかく中央貴族とか狂信者とか排除したんだ。自分達からまた厄介事を拾うと、冒険に出れなくなるぞ」
今の今まで何百年も大丈夫だったのだから、きっと触らなければダンジョン内なら永遠に生きてられる。
僕らが余計な手を出して、永遠に生きられるはずの彼女? の時間を奪うくらいなら助けないという苦渋の選択肢こそ助けることになるのだ。
「な、なるほどね。助けないが助けるになるのか」
比較的信じやすいスーリヤとライナなどは感心していた。しかしリモニカやシャリアーナ達はジッと疑わしい目をして僕を見る。
「放置するなら、奥の扉の先のお宝を頂いて戻るわよ」
アリルさんは興味がないようで、一番の目的を果たそうとする。
「ちょっと待って下さい。解放されても襲わないので助けて下さい。少しならダンジョンの崩壊も持たせられますから」
懇願するヴェパルヴェール。
「いや囚われていてそんなのわからないでしょ? ていうか何が起こるかわかるなら、自作自演を疑うだけだよ。それにその口ぶりだと、罠にかけたいから助けさせたいみたいになるよね?」
おかしな考え方をする知り合いを何人か見てきたせいか、僕にも免疫がついたようだ。
「ほんとにいいの、レガト?」
リモニカが一応聞いてきた。僕の口ぶりから駄目なメイドあたりを想像したようだ。
「放置しておけば、またせっせとお宝を溜め込んでくれるから、その頃また来て決めればいいよ」
「あ、あなたは頭がおかしいのですか?いたいけな娘をダンジョンに放置して、また来て奪おうなんて」
どうやら予想通り、自分で縛り付けた鎖は外せたらしい。そしてまだ生きているから、すぐにはダンジョンは崩れない。
メニーニとソーマがお宝をしっかり回収して戻って来た。ひとまずもらうものは貰ったので、後はこいつの退治だけだった。




