深層域
深層域に入るとダンジョンの内部は更に広くなった。
横幅が広がり、天井も高くなったはずなのに、中層よりも明るく感じる。
ダンジョンの仕組みは踏破して来ていても今だによくわからない。
『黒魔の瞳』というダンジョンは、下の階層に進む程に大きく広くなっているのは間違いない。
分岐や罠が少ないので進むには楽だ。
ただ魔物が徐々に大きくなって数が増えて、魔力も強くなってゆくパワータイプのダンジョンと判明する。
人数を集めればいいわけではないが、力押しで進みやすいのが特徴だ。
魔法の罠や入り組んだ迷宮よりは集団で対処しやすいダンジョンといえる。
ただ深層は流石に数で押すより大きさだろうと身構えていたが、深層最初の接敵は巨大ウルバットの群れだった。
「耳をやられる! 布切れでいいから詰めろ!」
ウルバットの金切り声がダンジョンの広い部屋の中で反響しまくり、鼓膜をやられる危険がある。
数は百程だが大きさが俺の半分近くあり、爪や牙が毒々しい。
ラクトやラングの指示がウルバットの声と耳栓で聞こえないが自分の歯や指先を差して皆に知らせているので伝わったと思う。
俺は武器を手斧に変えて投げつける。
飛んでいる敵にオーガの斧だと倒すのに時間がかかり仲間の危険が増える。
的がデカくなった分当てやすいので手数を重視した。
「初っ端からこれか」
傷を負ったものをいそいで介抱しながら、手の空いたものでウルバットの死骸から素材と魔石を回収する。
毒に関しては浅層のウルバットも持っているので毒消しは多めに持って来ていたので大丈夫そうだ。
「全部がこいつだと割に合わないし、地味にもたないよ」
広さのある所では大型の魔物も怖いが、虫や鳥など、群れて飛ぶ敵の方が厄介だ。
何せ逃げるのが難しい。
部屋の広さを見ながら、俺達は手に負えない大型の魔物がいた時の逃げ込む先を覚えて歩いている。
広さを使った音の攻撃があれ程厄介なのかと思わされた。
深層は一つの階層を進む事に休息が必要になった。
ミノタウロスの上位種、タウロスデーモンやタウロスキングの混合編成、ロックゴーレムとクレイシャドーなど、冒険者のパーティーのように相性の良い組み合わせの魔物が次々にやってくる。
ラングは深層を三階まで進んだ所で攻略を断念した。
目標は踏破だったが、仲間達の疲労が激しく、回復薬や解毒薬などが底を尽きてからでは遅いとの判断だ。
パーティーリーダーのラクトもウロドも賛同した。
初遠征で深層まで来て成果は充分だった。
貴重な素材や魔晶石などもこれ以上持ちきれない。
次に繫げるために『海竜の咆哮』はダンジョンを脱出する。




