盗賊団との総力戦
不意を突かれた盗賊の一人が腹に矢を受けて騒ぐ。地形的には不利だが、ラクトは風上になる位置に移動した。
風向きとクォラの腕前なら高低差のハンデが消える。
ガルロ達がせまるプレッシャーもあって四人いた弓隊の内、二人がクォラの矢で負傷し、残りは逃げた。
「よし、馬車をあそこへ!」
ラクトはガルロの乗っていた荷馬車に乗り込み移動させる。俺も馭者達もその後に続き、Dランクパーティーに手伝ってもらいながら馬車を小高い丘の上まで移動し再び陣をつくる。
敵の弓隊は囮役で隊商を追い込んだ後にはさみ撃ちにする役だったのだろう。アルンやトールドの砦町と違い、キールスから来た商会なら巡回兵の駐屯地が陥落した事はまだ知らないからだ。
ラクトは盗賊団の動きを逆手に取り厄介な遠距離要員を先に潰した。逃げた盗賊達が仲間を引き連れ来る前に負傷した盗賊を始末する。
ラクトは死んだ盗賊から武装を回収して、馭者の二人に渡す。
「当たらなくていいから正面の敵を牽制してくれ」
気休めでも手数を多く見せるためと、わかり馭者達もうなずく。
報告を受けた盗賊団が戻ってくる。それなりに知恵は働いたようだが、勝てると余裕を見せていたせいで怒り狂っている。
戦争体験なんて俺にはないが。盗賊団が引き際を間違えたのはわかる。人数はまだ倍以上の開きはあるが、すでに攻守条件が入れ替わっている。
丘に荷馬車で壁をつくった事で小さな砦になった守り手は守りやすくなっている。逆に盗賊団側は攻めっらくなった上に、飛び道具を失って攻撃力も落ちていた。
ガルロの情報収集力とラクトの臨機応変の対応力が発揮された結果だ。つくづく俺はリーダーにならなくて良かったと思う一幕だった。
盗賊達は正面に二十名、左右から五名に分けて駆け上がって来た。数で押せばまだ勝てると踏んでいる。
ラクトはクォラと馭者に正面を端から順に狙わせ、ガルロとサンドラとで先に辿り着いたものから個別に叩いてゆく。
俺はDランクパーティーのウロドを借りて左右の一方を相手にする。奇声をあげながら迫る盗賊達はやはり恐い。
ただ顔の怖さならゴブリンやオークなど、人型の喋る魔物の方がもっと上だ。
人を殺すのに抵抗はあるが、俺だってもう冒険者として魔物の生命をたくさん奪っている。
安っぽい正義感も倫理観も、平和で安全な中だから言ってられたのだと今ならわかる。
だから俺は斧を振るう。奪うだけの輩に容赦などいらない。殺すつもりで来た相手の事など考えて、大切な仲間の生命を守れなくて泣きたくないから。
俺の斧の一振りで盗賊の首がとぶ。隣にいたウロドがびっくりして思わず動きを止めていたが、構わず俺は次の盗賊の身体ごと斧で袈裟斬りにする。
盗賊達は革製の防具で、急所だけ鉄を貼ったものを着ていた。そんなものではオークの厚い毛皮と肉ごと叩き斬る、俺の斧を防ぐ事は出来ないんだよ。
戦闘こそ素人だが、力任せに斬るだけなら技量なんかいらないのだ。
クロードには「お前さんはドワーフの血が入ってるに違いない」 と呆れられたが、この力は女神様の贈り物。俺自身の力じゃないが、戦おうとする意志は俺のものだ。
俺の戦いぶりに盗賊達は怯んだ。先程まで奇声を上げ、欲望のままに叫んでいたのに。
俺は一人をウロドに任せ、怯んだ残りの盗賊達を叩き斬る。一撃で致命傷以上の状態になるため、ウロドの相手が逃げ出そうとした。
俺は逃さず再び首をとばす。こちらは片付いたのでウロドにはもう片方の仲間達に合流させて、俺は正面へ回る。
人数に差があり、ラクトとサンドラが押し込まれていた。俺は盗賊達の裏へと回り込み、次々と斧で攻撃する。
戦闘は盗賊団の二十名以上が死亡して終了した。逃げ出す盗賊の背を、クォラが何人か射抜いていたので、実際にはもっと討ち取っているかもしれない。
盗賊達の装備は使えるものは回収して、死骸はひとまとめにして燃やす。戦後処理の方が面倒で、燃やしきれない死骸は穴を掘って埋めた。
皆、息は荒いが盗賊団を壊滅させて喜んでいる。ひと息ついた後は移動を再開し、トールドの巡回兵駐屯地へ向かう。盗賊の残党狩りや捕虜がいないか念のための確認作業だ。
正規の交易ルートではないため道は荒れていたが馬車もなんとか動いてくれた。道中、Dランクパーティーの面々がずっと興奮しっぱなしだ。
彼らも『海竜の爪』が二軍パーティーだと知っている。自分達よりランクは上で強いかもしれないが、盗賊団相手は厳しいと感じていたのだとわかる。
たぶんラクトやガルロもそうだ。なんなら俺が一番そう思っていたから緊張していたわけで、本当に戦うことになって今更震えがきた。
討伐依頼は受けて来ていないが、討伐が確認されれば報酬は貰える。駐屯地を取り返したとなると追加で特別報酬も出るだろう。




