ヒルテの趣味
「ねぇ、ヒルテ。なんで母さん達と一緒に行かなかったの?」
そもそもヒルテはサンドラおばさんに雇われていたはずだ。わざわざ僻地のラズク村に来なくても、働き手を探す街はいくつもあったし、仕事も選べたよね。ラズク村はむしろ働けるような環境じゃないし、まともな仕事はなくて、宿屋もはっきり言って暇だった。
将来の布石で宿屋をやっていたような所で、無駄に経費だって払いたくないのが商人だ。働きたい人が、仕事を長続きさせるのに向いてない土地だったので疑問だった。
「雇ったのは単純に、戦力確保ですよ」
冒険者だったサンドラおばさんが、ヒルテの本性や実力を見抜いていたのはわかった。
母さんのために途中から世話係になっていたけど、もう給金も出ないので自由にしていいはず。
わざわざ冒険者なんてやらなくても、公都ならベルク商会以外にも高い給金で雇いたい人はいっばいいたと思う。
「だいたい冒険者になるにしても、母さんとアリルさんといる方が稼ぎになっただろう?」
生まれてからずっといて、名前も敬称抜きの間柄。だからそろそろ自分の身を大事にしていいと思うのだ。
僕の子守をしている場合じゃないと言いたい。
「正直に申し上げた方が良いのですか?」
「うん。あと、その妙な敬語はやめて」
「坊っちゃんとメイド、でいけるかと思って。夜魔は朝から働くの苦手、それが一番の理由ですよ」
種族的な特性なんだろうけど、この人の場合は夜も寝てるので、ただ怠けたいだけな気もする。
まあ僕について来るのも、本人の意思で自由にしてる事になるのかな?
戦闘能力もあり、事務能力も高いのにもったいなく思う。
メイド服を着てウキウキ顔のヒルテを見て、ラグーンに着いたらとにかく別行動を取るようにしようと僕は思った。




