戦闘開始
襲撃は急だった。アルンの街を出て二日目、ガルロが警戒の旗を上げた。
隊商の中で一番行商慣れしているガルロは行く先のチェックを絶えず行っている。
ラクトも宿屋で荷物番につく者に、不審な者がいたら違ってもいいから報告させていた。アルンの宿で怪しいと思われるものは何人かいた。
冒険者なんて、ならずものと大差ないという人もいるくらいなので街を行き交う人はみんな怪しく見える。
その中でも隊商の情報を聞き出そうとする者は、ライバル商会か、情報が欲しい者になるのが道理だ。
「ライバル商会が盗賊団を利用する事も考えられますからね」
都市国家群のように規模の小さい独立勢力が乱立する地域などは特に無法地帯に近くなる。
行く先々で規則が異なる事もある。
幸いキールスからトールドの砦町あたりは帝国に近い規則が多い。取引相手に合わせる内に浸透した形だ。
そして帝国の規則によるなら盗賊団との関わりは厳罰に処される。悪巧みが発覚すれば首をはねられても文句が言えない。
今回はライバル商会よりも、盗賊団の方が大物狙いに動いた可能性が高くい。
キールスではベルク商会以外、様子見をしていたように、商人も生命が大事なので危険があるとわかっているなら敢えて飛び込む真似はしない。
需要が高まるまで動かないという商魂逞しいものもいるが、そのためにはリスクと費用がかかるので賭けになる。
大半はトールドの砦町のような規模の大きいギルドが動いて、討伐報告が出るまでじっと機会を待つ。
俺が個人の行商ならば、同じ事を考えるだろうな。もっとも財布の中身と相談になるだろうけど。
ベルク商会の隊商は総勢十二名と、人数は多くないと思われたのかもしれない。馭者も戦闘員と数えても、盗賊団の方が数倍以上いるからだ。
小規模ながらこれは戦争のようなものといえる。守り手になるこちらが行商の心得で守りやすい場所、逃げやすい場所を調べておくように、攻め手の盗賊団は攻めやすい場所に網を張る。
弓を使うクォラが舌打ちをする。前方に小高い丘があり、数人の人影が見えたからだ。
少なくとも三人は優位な位置からの遠距離射撃要員がいることになる。
「ガルロ、迂回ルートはあるか?」
荷馬を傷つけられぬように、簡易の木板で急所を覆うガルロにラクトが尋ねた。
「いったん西へ向かえばトールドの砦町の巡回兵舎がありますが、難しいかと」
ガルロが歯切れの悪い答え方をする。盗賊団がどこを根城としているのか、彼はすでに察しているのだろう。
商人にとっては最悪な状況になりつつある。
この辺りで一番大きな街の兵隊がやられたとなると、冒険者も生命惜しさに討伐に及び腰になりやすい。
トールドの砦町は帝国方面からの物流は安全なので困らないが、トールドの砦町の先の街は死活問題につながる。
すでに行商の扱う細々とした品が入荷出来ず、高騰し始めている。できるだけ早い内に手をうって欲しいと、商人達や街の住人から願い出ている。
「どうします?退きます?」
盗賊は三十名、こちらは馭者の二人を除いて十名、ラクトはやれそうだと判断する。
「最悪荷物はいい。討伐を優先するぞ」
ラクトは総力戦は予定していなかったが盗賊団がいる中、隊商を出した際にベルク氏、ラングと前もって決めていた。
「ガウツさん、囲まれたら馭者の二人をサンドラと守ってあげて下さい。クォラは出来る限り弓隊を」
ラクトは防衛の陣形を組む場所を指示し、個別に動きを伝える。野営同様に荷馬車で壁をつくり人数差のハンデを少しでも減らす。
小高い丘を避け、迂回するルートを選ぶと盗賊達の氣勢があがった。あちらとしては罠に嵌めたつもりだろうが、それはこちらも同じだ。
追い込む先を見ている丘の盗賊達に向かって、盾を持つガルロとDランクパーティーのウロドという若者が走り出す。
思惑が外れて、丘の盗賊が慌てて姿を晒し弓を構える。その動きを想定していたクォラが荷馬車の上に立ち矢を射掛けた。




