初恋
〔蒼〕
「お疲れ様」
「そういえば、蒼威さんもなんか疲れてるって感じじゃない?」
「まあ、ちょっとトラブルがあって走ったからね」
マネージャーたるもの、アーティストに心配をかけてはならない。それが僕の信条だった。
「そういえば、途中で『しまった!』って顔してたけど、どうしたの?」
九流は少し考える仕草をする。
「私の恋バナを聞いてくれる?」
「一応聞いておく」
葵と電話したときも、同じような言葉を言った気がする。
「私の初恋がね、ここのあたりだったんだ。」
「へえ、土地に恋したのかい?」
「いやいや、初恋したのが、ここの土地でってことだよ。」
そういえば、ここの会場は最近できたもので、昔はなかった。
「で、その初恋の人が蒼威さんと一緒の名前なんだよ」
僕の知り合いの中で、『あおい』は後3人いらっしゃる。
「もしかして、否定はしないけど同性愛者?」
「いや、違うけど。」
「漢字はどう書くかわかる?」
九流は、白い王の石と、生を空中に書いた。
その漢字のあおいさんは、1人しか知らなかった。
「中学生の頃からずっと好きなんだ。」
「健気だね」
最近、3人でまた集まって、碧生のことを思い出すことが増えた。その度に心臓が揺れ、額を汗が走る。
「ところで、一回スルーしたけど、話逸らしたよね。」
少し間をおいて、九流が人差し指を当て、鼻に当てた。
「秘密だからね。私、ちょっと特別な力があるの。」
「どんな?」
「着地したら、地震が起きる、ってやつ。」
葵との電話で、「自信はないな」と葵が言っていたのを思い出す。
「いや、地震はあるよ」
誰にも聞こえないよう、暗闇に溶けるように1人、静かに呟いた。地震といえばで、純人さんを思い出す。そういえば、無くした「おまもり」も落ちていたので無事回収することができた。おまけと言えば失礼だが、どんな反応をしただろうと青藺を思い浮かべた。




