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魔力を返してもらいました




 18年ぶりの王都は騒がしく、フィーリンは人酔いしかけている。






「やっぱり帰るべきよ。聖女に簡単に会えるはずもないし」


「大丈夫です。手紙を送ったらぜひ会いたいと、招待状を貰いました」




 ヴィンセントがバッと開いた書状には、聖女アタシアのサインが押してある。


 それを受け取ると、実際に会って話したいと書いてあった。




「なんて送ったら、聖女に会いたいなんて言われるの?」



「こちらの誠意を伝えただけですよ」



 語尾に音符がついているような声色に、フィーリンは頭を抱えた。




(まさか、自分が息子だなんて書いてないわよね)
















 書状を見せるだけで、聖女の応接間へ簡単に案内された。





「お久しぶりね、魔女さん。そして、初めまして、ヴィンセント」



 アタシアは上品にこちらへ笑いかけ、高価そうなソファへと座るよう促した。


 調度品の全てが少女趣味のようで、胸焼けがする。






「お茶の準備が終わったら、みんな退がってちょうだい」


 お菓子やティーセットが次々とテーブルに並んだ後、使用人たちは命令通りに1人残らず姿を消した。






「お手紙は読ませてもらったわ。まさか魔女さんに押し付けた私の子が、とっても稀有な存在である聖人なんて、思ってもみなかった」



 手を合わせてニコニコしている表情からは、本心が読めない。


 冷たさが2人の背中を撫でていくようだ。






「認めるんですね」



「ええ。あなたは私と、顔も覚えてないどっかの男との子よ」






「顔も覚えてないなんて...相当遊んでるの?聖女ともあろうお人が」



 フィーリンは蔑んだ目を向けてやる。


 そんなことはお構いなしに、アタシアは頬を膨らませ、腕を組んだ。



「だってここ、何でもかんでも掟や規則だって言って、自由なんてないんだもの。欲しい物はなんでも与えてもらえるし、チヤホヤされて過ごせると思ったのに...。夜にこっそり抜け出すのも結構大変なのよ」


 ぷりぷりと怒っている彼女に、ヴィンセントは絶句している。




(無理もないわ...こんなのが実母なんて)







「...実の子を前に、よくもそんなこと言えるわね」



 フィーリンが小さく息を吐くと同時に、ヴィンセントが我に返った。




「捨てられた時点でこんな人、母親だなんて思ってません。母様に子供を押し付けたんです。見返りに、魔力を返してください」



 アタシアは、パチパチと瞬きする。


 少し悩むふりをして、にっこりと口角を上げた。




「確かにそうね。借りは返すのが道理だわ」


 そう言って、掌上へ、紫に輝く玉を出現させる。


 それが、フィーリンの胸の中へ吸い込まれていった。





 想像していたよりも容易に目的を果たし、ヴィンセントは眉根を寄せた。


 アタシアは表情を一切変えない。




「これで貸し借りなしね。それで、ひとつ提案があるのだけど」


「あんたの要望なんて、却下よ」



「そんなこと言わないで。ヴィンセントも、独り立ちして良い年齢でしょう?」



 相変わらず、フィーリンの言葉は聞く気がないらしい。






「ヴィンセント、私の後を継いでくれないかしら」



 ガタンッとテーブルが揺れ、ティーカップから紅茶がこぼれていく。


 ヴィンセントが顔を真っ赤にして、アタシアを見下ろしていた。




「冗談じゃない。どうせ隠居して自由になりたいとか、そんな我儘から言ってるだろ」



 アタシアはどんぐり目を大きく開いた後、ころころと笑い出す。





「やだ、わかっちゃった?でも、あなたは私の子でしょう?子供は親の言うことを聞かなくちゃ」



「今更母親面するのね」


「実際、実の母親は私よ?母親面してるのは魔女さんの方だわ」



 鼻で笑う彼女に、ヴィンセントは奥歯を鳴らす。


「捨てて、押し付けておいて、何言って」


「まあまあ、いいじゃない。1日考えてみてちょうだい。泊まれるように、お部屋を用意しておいたから」



 ヴィンセントの声に被せるように、アタシアが手を叩く。


 使用人たちが入室し、2人を追い出すように連れて行った。



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