2 能力を貰いました!
「いってて……あれ?」
俺は気づけば神殿のような場所にいた。
壁や柱、床に至るまで全て真っ白だ。
何故こんな場所にいるのか。
思い出そうとするが、どうも前後関係がハッキリしてこない。
そう、確か俺は自分の部屋にいて、そして……
「……そうだ、爆弾が……爆発したんだ」
目に焼き付いている。
眼の前が一瞬でオレンジ色に染まるあの光景を。
不思議と痛みや苦しみは感じなかった。
ただ爆発したんだと認識しただけだった。
「でもこうして生きてるってことは……って……」
俺は自分の体の調子を確認しようとした。
痛みなどはやはりない。
やはりないが、俺はなぜか裸になっていた。
「え、裸?」
「――ふむ、服まで再現するにはいささか面倒だったからの」
すると急にどこからか声を掛けられる。
発生源に目を向けると、そこには立派な白い貫頭衣に身を包んだ年寄りの男がいた。
「あなたは……?」
「ふむ、儂はお主らで言うところの神といったところかの。まぁこの宇宙を統べる者の一人と捉えて貰って差し支えない」
そのお年寄りはしわがれていながらも流暢な話しぶりでそう答えた。
いきなり神と名乗られては、通常であれば頭のネジの有無を疑ってしまうところだが、今この状況に際しては話は別だ。
疑うか否かの選択肢はないに等しいと思ってしまった。
「神……俺はもしかして死んだんでしょうか」
「察しがいいのはいいことじゃの。そうじゃ、最後の光景を覚えておるかの」
「……はい、確かに僕は死んでもおかしくない目に合いました。でもこうなっては信じる他ありません。死後の世界はこんな風になってたんですね」
俺はどこか開き直りのような感情になっていた。
確かにあまりに現実味がなく、普通なら叫びだしてもおかしくない状況だとは思うが、今更取り乱して仕方がないと、心のどこかで思ってしまうのだ。
それになんとなく視界がおぼろげというか霞んで見える気もする。
周囲の風景や目の前の神の姿がぼんやりと発光しているかのような……何とも言えない、夢見心地とでも言った方がいいのだろうか。
それでも思考はスッキリしていて、会話の内容はすんなりと頭に入ってきた。
「まぁここは儂が勝手に作った空間に過ぎぬがな。ま、死んだものしかこれぬというところでは間違いではないとは思うが」
「俺はこれからどうなるんですか?」
落ち着いたが故に湧いてきた、気になる質問をぶつけてみる。
「まぁそれをこれから掻い摘んで話そうかと思うておるんじゃがな。一度しか言わぬからよく聞いとれよ。まずお主は神々の間で開かれている遊戯に参加してもらうことが決まった」
「遊戯……ですか?」
「まぁいきなりのことで色々と思うこともあるじゃろうが、後で考える時間なら腐るほどある。その時でも整理すればよい。んで、その遊戯というのが、それぞれの神々が選抜した挑戦者を異世界に派遣して競わせるといった部類のものでの。その挑戦者が目的に近づけば近づくほど好成績と扱われ、神の間で順位が決まる。まぁと言ってもホントにつまらん戯れじゃからの、それで神自体の格が上がるなどといったことは一切ないわけじゃが」
「……つまり、それに僕が選ばれた、と?」
「うむ、一人決めろということで適当に選んだ。正直全くもって乗り気ではないんじゃが、付き合いも大事じゃからの。わざわざ出る杭になる必要もないじゃろうて。ま、本来死んだままになるはずの人間から選ぶということで、お主的にはラッキーだったかもしれんがの」
何やらよく分からないことに知らない内に巻き込まれてしまったらしい。
話はいまいち見えてこないが、不思議とそういうこともあるかと思うだけだった。
「それで僕は何をすればいいんです?」
「何もする必要はないの」
「……はい?」
「言ったじゃろう。儂は別にこの催しに興味はないし、勝とうなんてことも思うとらん。参加だけしといて、後は適当に流れに任せて終わりが訪れればそれでよい。だからお主も適当にやっておったらいい、サボろうが何をしようが、それも勝負のうちじゃからの。まぁじゃからこそ勝とうとしとる奴は性格面も十分考慮して駒を選別しとるとは思うが」
神はそう説明してくるが、それでは流石に煮え切るものも煮え切らない。
異世界に転生して、はいどうぞ、で何をすればいいというのだろう。
「で、まぁこのまま転生させてもいいわけじゃが、それじゃと流石にのう。儂もそこまで冷徹なわけではあらんて、ルール説明ぐらいはしといてやろう」
神がそう言うと、次の瞬間に目の前に人の頭くらいの大きさの木箱が現れた。
よく見ると、おみくじのような造形をしている。
「まぁルールを一言で言えば、『その世界のボスをできるだけ追い詰めた者の勝ち』といったところかの。今回の世界では魔王と呼ばれる存在がボスに設定されておる。で、挑戦者は与えられた能力を使って、その目標に向かっていくわけじゃ。そして能力というのはこれを引く」
そうして神はカランコロンとそのおみくじのような箱を揺する。
すると下に開いた穴から一枚の紙切れが出てきた。
「これで出た能力が挑戦者の能力というわけじゃ。能力は参加者分、今回でいくと八百十三個分だったかの、その中から選んだものになる。一度出た能力はもう出んから、自然と遅く引く者は余り物ということになる。儂は最後から二番目じゃから、二分の一のくじをしたということになるかの」
神は出てきた神を拾い上げた。
「因みにくじを引くのは儂でもお主でもどちらでもよいから適当に儂が引いた。ふむ、『他者と意識を交換する能力』か。ハズレじゃな、まぁこんなもんじゃ」
神は引いた紙を俺に渡してきた。
そこにある文字の一部に確かにそのように書いてあった。
「ハズレなんですか?」
「まぁ基本的に能力はどれも公平な性能だというふうは言われとる。じゃが現実は違うの。死んでしまえばそこで終わりなんじゃ。異世界は総じて過酷な場合が多い。地球やらの人間なんてそよ風にちょっと吹かれておしまいよ。じゃから基本的に戦闘能力に関与しておらんと話にすらならん。そこから考えるにこの力はあまりに搦手すぎる。交換の条件も厳しい部類じゃし、まぁ相当うまく使えば……まぁ無理じゃな。勝ち上がる想像がつかんわ」
よくわからないが、この能力で俺は異世界を生きなければならないらしい。
「その世界で死んでしまったらどうなるんですか?」
「死ねばそのまま死ぬだけじゃな。もう意識が蘇ることはない。じゃが勝者となった場合、これは報酬で元の世界の死んだ時間に生き返れるというものがある。まぁ目標にはなるかもしれんがの。基本無理じゃからないようなものじゃな」
「なるほど……」
「と、いうわけじゃ説明は以上。大まかな概要は掴めたじゃろ。これからお主を転生させるからの。もう会うことはないじゃろうが、せいぜい達者でのう」
その言葉と同時に俺の意識は急に薄れていった。
よく分からないままに、俺は謎の遊戯に参加することになってしまった。