1 転生することになりました!
俺は自分の部屋で爆弾を作っていた。
「へ、へへ、もう少しだ……」
時刻は昼間。
カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中で、俺は作業に没頭している。
爆弾、とは言っても花火やら何やらのようなチャチなものではない。
俺が作っているのは建物を丸々崩壊させてしまうような、そんな破壊力を秘めている強力なものだ。
そしてその爆弾づくりはもう少しで終了、というところまできていた。
「目にもの見せてやる……」
俺が常々抱いている憎しみの思いが、つい口を付いて出てしまう。
俺は所謂引きこもりだった。
そこそこ勉強のできる高校へ入学したのはいいものの、入った最初のクラスにて早々いじめを受け、そのまま不登校に追いやられた。
後から思えば、その時点で相談しておけば良かったのではと思うこともあったが、結局諦めるしかなかった。
俺には相談できる人がいなかったのだ。
親は俺がまだ小さい頃に俺をおいてどこかに行ってしまった。
現在俺が住んでいる場所は母方の祖父母の家である。
そして俺が小さい頃から、今現在十五歳にに至るまで優しく育て上げてくれた。
だから、だからこそ許せないんだ。
俺をこんな、惨めな目に追いやった、クラスメイトのやつらが。
目を閉じればあいつらが俺をあざ笑う顔がいつも浮かんでくる。
やってやる。分からせてやる。
俺の頭脳を使って。
この爆弾で校舎ごと大爆発させて、木端微塵のチリクズにしてやる。
それが、俺に今できる、最大限の復讐。
「で、できた……」
そうこうしている内に、最後の爆弾が完成した。
爆弾に関しては、すでにいくつも同様のものを作り上げ、部屋の押し入れに隠している。
すでに遠くにある森の中で爆破実験も済ませており、効果も検証済みだ。
「ふふ、完璧だ。これで後は、実行の日を待つのみ」
今日は金曜日、となれば、明日明後日は校舎にいる生徒の数も少ないだろうから、巻き添えの効果も薄くなる。
狙うなら、平日。沢山の人間が集まっているときだ。
「月曜にしようかな。けけ、目にもの見せてやるぜ、俺の人生の、有終の美を飾って――」
「ゆうちゃーん! 開けるわよー!」
すると、そこにいきなり掛かる声があった。
俺は慌てて自分の背後に爆弾を隠した。
「ゆうちゃーん! あら、何かしてたの?」
バタンとドアを開けて、祖母が入ってきた。
「う、ううん、何でもないよ。それよりおばあちゃんこそどうしたの?」
俺は平静を取り繕ってなんとか受け答えする。
俺は祖父母の前ではすごくいい子を演じることにしていた。
不審に思われることのメリットなんて殆どないからだ。
自然にしておいた方が、何事も警戒されなくて済むし、色々とやりやすい。
「今日はゆうちゃんの誕生日でしょ? 誕生日ケーキ買ってきたの!」
そういう祖母の手には、皿に載った大きなホールケーキがあった。
見た目的にショートケーキだろうか。
メッセージの書ける板チョコや、火の付いたロウソクなんかも丁寧に刺さっている。
ああ、そういえば、今日が誕生日だったか。
人と関わらなすぎて、そんなこと完全に忘れていたな。
「あ、ありがとうおばあちゃん」
「誕生日のこと、まさか自分で忘れてた、ってことないでしょうね」
「そ、そうだね、実は半分くらい忘れちゃってたよ」
「そんなことだろうとは思ったわ、あんまりそういうことに興味ないものねあなた」
「で、でも! だからこそっていうか、嬉しいよケーキ。凄いびっくりした」
「あらまぁほんと? うれしいわぁ。おばあちゃんも奮発していいの買ってきてあげたからね」
祖母と無難なやり取りをこなす。
そんなに気分は乗り気ではなかったが、なぜか少し温かいような気がしなくもなかった。
「さ、とういうことで、誕生日おめでとう! じゃぁ歌うわよ! 今日のために張り切って練習してきたんだから。せーのっ! ハッピバースデイゆうちゃーん! ハッピバースデイゆうちゃーん! ハッピバースデイ、ディアゆーちゃん……ああああああああ!」
と、ここで急に祖母が叫び声を上げた。
何かと思い見てみると、祖母の足元に転がっていたレジ袋を踏んづけ滑り、体勢を思いっきり崩していた。
その勢いで、手に持たれていたケーキが放り出され、こちらの方に飛んでくる。
「おっとっ」
俺は悪くない反射神経でそれをひらりと避け、ケーキが降り注ぐのを無事回避した。
そして、何か不吉なものを感じ、床に落ちたケーキの方に目をやる。
ケーキに付いていたロウソクの炎が、爆弾に燃え移っていた。
「……え?」
僅かな時間の間に思考が巡る。
ちょっと待て、なぜこんなところに爆弾がある?
いやそうか。祖母が来た瞬間急いで後ろに隠したんだっけか。
あれ、じゃあこれってどうなるの?
普通に爆弾に引火しちゃってるけど?
火薬の部屋まで辿っている紐に、思いっきり火が付いちゃってるんだが。
ヤバい、早く消さないと。
いや、駄目だ。もう間に合わない、本体の中まで火が移ってしまっている。
だとしたら?
あれ、ちょっと待って、確かこの爆弾の威力って俺の腕が正しい限り、物凄い威力になっているはずで……
――そう、この家が吹っ飛んでしまうくらいには。
ぼおおおおおおおおおおおおおおおん!!