大脱出
序章終了。いかがでしょうか。
GWが終わり次第消しますので悪しからず。
急発進した事で車の中で右の壁に叩きつけられたかと思えば、車体が宙に浮き、後頭部を強かに天井に打ち付ける。そのまま左の壁に鼻が衝突し、口に鉄の味が広がる。
『マスター! 聞こえる!? 生きてる!?』
「早速………死にそうだぁ」
そんな中、切迫詰まったエスポワールの通信機器越しの音声が入る。
同時に俺の波長に敵の姿を捉えた。
『悪いんだけど、外の奴ら迎撃して!! レオはもう外に出てガトリング使ってるけど、数が多いの! アンタなら、見えなくても出来るでしょ!』
「無茶苦茶だな、テメェ……エスポワール!! 運転ミスったらぶっ飛ばすからな!!」
『ちょっくら羽虫の退治をしてくださいませ、ご主人様!』
「敬語が入り混じりすぎて逆に失礼になってんじゃねえか!?」
波長を感知、対象の構造と位置を確認。時速200は超える速度で移動しているが、問題ねえ。
今の俺には外の世界を見なくても感じ取れる。
羽虫は二対四翼の黒い人型だった。全体的に小さめで、両腕に別々の武装を取り付けている。翼だけでなく背面や腰、足からも青白い光を噴き出していて、それで飛んでいるようだ。
原理はエスポワールの天使の輪と一緒と見ていいだろう。頭部には十字型に溝があり、その奥でモノアイが忙しなく上下左右に動来ながら、機関銃を車体に向けて撃ち続けている。
「ブンブン、うるせぇなぁ。全員撃ち落としてやらぁ!」
辺りをブンブン飛び回る機械兵の周りに現れるのは七つの光球。それら全てが一筋の光となり、回避の暇を与えず、見事に頭部へヒットした。刹那、その頭部が大爆発する。
(奏、奏、聞こえているかな? 今、貴方の脳に直接語りかけています)
「──こいつ、直接脳内にっ! 何て言わないからな?」
(言ってるよね、奏?)
現在レオの声を波で感じ取り、俺の声を波に変換し、レオに伝えるというトークタイムで話しながら、連携を取る。
「ロケランでも作って打ち返せ!」
(材料がないんだよ! それにあんまり手札切りたくないし!)
「チッ、使えねえ」
(何だと、コラ!)
レオの能力『神衣』は手に握れる材料があれば、あらゆる兵器に変える事が出来る破格の力だが、この状況下じゃあ難しいか。
『アンタら! 前方に盾機兵がいるわ! 何とか蹴散らして!』
「待ってろ! 今やる!」
山道の前方から近づいてくる、重厚感あふれるフォルムの両腕には頑強そうな白く光る盾と鉄の柱並に太い脚部でどっしり横一列に構えた騎兵達。
すかさず光球によるレーザーが奴らを真下から貫くが、核を貫いたと言うのに、奴らの光の盾が揺らがない。
「何としてでも通さないつもりか! ガラクタがスクラップにしてやらぁ!」
雨のように光を降り注がせ、機体を壊そうとするがそれより早く、車体が光の壁に激突してしまう。
となると残る手段はあと一つ、
「ああくっそ………レイン! 準備出来てるか!?」
(当たり前じゃないか。ボクを呼ぶのが遅いぞ、奏君)
車体の前方に降り立ったのは全身から深青のエネルギーを放出するレイン。既に体を覆う魔力は全身で脈動し、今か今かと待ち構えている。
「っ! レイン! 後ろだ!」
だがそこに背後から、一筋のレーザーが飛来。真後ろからの攻撃だった為にレインは避ける暇なく、その攻撃を受けてしまった。
胸元全てが消滅し、血の一滴も蒸発した彼女を見て、僅かながらに動きを止める機械兵達。
獲物を仕留められて、大喜びしているようだが、
『全く、不意打ちと卑怯じゃないか。久しぶりに死んでしまったよ』
車から落ちかけたところを魔弾を利用して、撃ち抜いてきた機械兵を叩き潰し、反動で車の上に戻る。
唇から溢した親指で血を拭うと、そのまま紅を塗るように唇へとつけた。
そして、体に傷など一つもなくなっていた。
『サージェス! さっさとやりなさい!』
(焦らせないでおくれよ、全く)
レインの力は全身から謎の蒼いエネルギーを放出する事、そのエネルギーを肉体を媒介にして、発する力。
そして、更に取っておきがこの力──不死身の再生力。あらゆる傷は彼女の瞬きの間に治ってしまう。
まるで人魚の肉を食べて、不死になった人間のように。
彼女の2つ名は『泡沫の福音』。泡のようになかった事にする歌姫だ。そして、彼女の拳は最大の攻撃であり、その肉体は最強の防御である。
故に
「残るのは──破壊の跡だけだ」
(魔弾時雨!)
振るわれるのは拳。ただし目に捉えることすら不可能な速度に達した水の弾丸。
あまりの加速に液体が指向性を持って相手を砕く。
鋼だろうと関係ない、あの人魚姫の前じゃあ、ただの傀儡だ。
(よしっ! 片付いた!)
『ナイスよ、レイン! もうじき国家の壁よ! 最終ライン、蹴散らして!!』
感じたのは多数の兵士達。またもや出てきた盾騎兵に、更に空機兵、最初に出てきた機械兵などが多数集結している。
それだけではなく、壁の真上に取り付けられているのは奇妙な形の砲塔。だが何となくだが、あれはまさか………レールガン?
『聞きなさい、アンタら! 壁を抜ける扉にハックするわ! 10秒だけしか開けられないから、全力で奴らを足止めして!』
「無茶苦茶言うな、テメェ! クッソ、聞こえたなテメェら! 気張ってくぞ!」
((おう!))
どうやら周囲をサークル状に囲む頑強な壁の唯一の出入り口に突っ込む気なんだろうが、普通に考えりゃあ、そこに兵を置くわな。
「だからって引けるかよ!」
真正面から迫る敵は、レインが打ち砕き、レオと俺で周りの20を超える空騎兵を撃ち抜いていく。
だが、出るわ出るわ、ゴキブリのように。
投入された戦力は、既に三百を超えている。なのに、疲弊すら見せず、それどころかここに来て更に敵数が増大する始末。
とはいえ、切り抜けられねえ事はねえ!
迫る敵の核を光線が撃ち抜き、盾兵を紅拳が打ち砕き、機関銃により、空機兵は墜落していく。
敵からしてみればたった数人に良いようにやられるという悪夢。理不尽の権化を見せられた結果、
(あれ、何!?)
投入した。本来、下界での騒動に駆り出されることなどあり得ない、上界の機兵を。
レオの視界に映った見たことのない機影。一見すると重機兵だが、武装がまるで違う。両腕に持っているのはタワーシールドで、両肩に戦車砲と見紛う砲塔を担いでいる。
同時に、
(あれは!?)
レインの方も気が付いた。一見すると空機兵だが、背中には大型のタンクらしきものを背負い、武装は長大で巨大なライフルが一つ。両腕で腰だめに抱えているそれには、なんとも見覚えのありすぎるスパークが迸っている。
俺は速攻で、重機兵を貫くに足りる三発同時着弾の精密射撃――の倍、六発の光による精密射撃を行った。
だが、やはりというべきか。前時代的なタワーシールドはSF世界よろしく、盾の前に力場のようなものを発生させて、全ての弾丸を防いでしまった。
と、同時に盾の重機兵が門から突進を開始。地響きを立てながら鈍重という言葉からはかけ離れた速度で迫ってくる。しかも、そのまま両肩の戦車砲をぶっ放してきた。
加えて、新手の空機兵からも閃光の如き一撃が放たれる。案の定、それは電磁加速式の射撃――レールガン。
反響音による間延びした世界で、俺は光球を並べ、即時射出した。それぞれ三発ずつ放たれた閃光が、二発の砲弾の下部に連続して着弾。軌道を僅かに上方へと逸らす。
レインも、必死の形相で極限の集中を行い、危うく腕ごと吹き飛ばされそうな衝撃に歯を食いしばりながら辛うじてレールガンを逸らすことに成功する。
腕が痺れ、衝撃に頭がくらりとする。強化をしていなければ、そして距離がなければ、とても出来なかっただろう今の受け流し。
その自覚があるだけに、第二射のスパークを放ち始めた空機兵を見てレインから冷や汗が吹き出る。
砲弾が衝撃を撒き散らしながら頭上すれすれを通り抜け、逸らされたレールガンがバリケードの端とその先の建物を一撃で崩壊させる。
その爆風と衝撃波を体に浴びながら、
「固え!」
(遠いっ!)
俺は敵の強固さに、レインは手の届かない遠距離に、思わず悪態を吐く。
「──鈴雨!!」
『──奏君!!』
そして、迫り来る脅威に対し、俺たちは奇しくも同時に決断した。お互いの得意と敵の性能を考慮して、今、必要とされている最善手の実行を。
「「彼奴は頼んだ! 其奴は任せろ!」」
お互いに怒声じみた声を上げながら、狙いを変える。俺は閃光を迸らせながら、レインは拳を構えながら。
必要なのは誰よりも速く遠距離を撃ち抜く一発。そして、何よりも鋭く打ち砕く一撃。
「ぉおおおっ!!」
『はぁああっ!!』
裂帛の気合いと同時に、白銀の閃光がレールガンの空機兵を刹那のうちにぶち抜き、真蒼の拳撃が盾の重機兵を真正面から撃破した。
しんとした空気が流れる。グレードの高い上界の機兵を出しても突破できない事実に、機兵達が攻めあぐねるように動きを止める。
と、その時、
『ハッキング完了! 私にかかればこんなもんよ!』
エスポワールの声が響くと同時に、重たげな鉄の扉が左右へと退き、道が開ける。
「良くやった、レイン! 流石俺の恋っ………パートナーだ!」
(そこは言い切りなよ、奏! ヘタレリア充野郎!)
「うるせえ、役立たず! テメェ、何の役にも立たなかったじゃねえか!」
『喧嘩は後にしなさいよ!駆け抜けるわよ!!』
アクセル全開で門の前にいた残骸を蹴散らし、道なりに駆け抜けて、遂に門から外の世界へと脱出する。
だが背後から重機兵と空機兵が未だにこちらへ攻撃を仕掛け、再び開いた門の向こう側に追っ手の影は未だ顕在。
しかし、
「………追って、来ない?」
機械兵達は何故か動きを止め、空を、いや宇宙を見上げている。
『ま、まさか! あれが帰って来てるの!?』
同時にエスポワールの切迫詰まった声が聞こえた。彼女の焦りに合わせたように車体が危なっかしく、道を進むが………
「──来る!」
その攻撃の予兆は唯一、俺だけに感じ取れた。
「──何だよ、アレ!」
一瞬の静寂の後、落ちて来たのは空からの涙。否、天空と大地を繋ぐ光の柱である。
範囲は優に島一つ消し飛ばすレベルだ。
無論、この車が逃げ切れるわけがない。
だから──俺は空に手を掲げた。
「があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
刹那、手首にかかるのはこれまで味わったことのない力の負荷。筋肉が悲鳴を上げ、肩の関節部分が嫌な音を立てて外れた気がする。
それでももう一つの腕で支えながら、消滅の閃光を前に拮抗する。
ここで倒れて、消えるのが俺だけならいい。
だが、
「これ以上、俺から奪わせてたまるかよぉぉぉぉ!」
大事な人達がいる。故に膝は折れない!
『耐えていなさい、マスター!! このまま突っ切る! ハイパースピード、オン! いっけえぇぇぇぇぇ!』
徐々に増していく光を前にして、エスポワールが何やら鬼札を切ったらしい。
それにより、この車体の内部と外部の時間の流れが徐々に可笑しくなり………
つか、ワープしてね? 時間の流れを超越してね?
何にもない所にいる俺大丈夫? ゲル状になって、エスポワールがタイムリープとか始めたりしない?
ヤバいよね? ねぇ? ちょ、まって、頼む、お願い──
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァぁぁ!!」
背景、お空にいる琴姉へ。貴方も俺もそちらに行くようですので、謝りたいことがありますから待っていてください。
意識が彼方へ消える寸前のこの言葉を持ってして敬具とさせて頂きます。
感想、ブクマよろしくです。