機械仕掛けの天使
光球を現出。瞬きの間に放たれる光の一閃に貫けないものはなく、死神だろうと殺せないはずはない。
だがそれは俺の世界の話であって、こちらの世界の法則ではない。
「"節制の作曲、調べに従い、敵を呑め"」
「あの詠唱は!」
「"闇の音符 16分"!」
飛来してくるのは黒い弾丸。俺の閃光を小さな闇は容易く飲み込み、16発の弾丸が俺を寸分狂わず、狙って来る。
ゲーム上でよく使われる基礎魔法の1つで、威力は1発につき、鉄パイプで殴られたくらいの威力な為、あまり舐めてはいけない。
「くっ、メルトバリアー!」
「ふふふ………名前がださすぎませんか?」
俺が前面に生み出した光の盾に相手からのツッコミとが聞こえはするが、反論はしない。
「剣は中々の練度。ですが、体捌きが疎かです」
反論する前にペルセスが踏み込んでいたからだ。真下から振り上げた光剣を前にして、ペルセスは髪先を切らせて避けると、掌底を俺の肉体に撃ち込む。
「が、………はぁ!?」
同時に体内の臓器全てがひっくり返ったような衝撃が俺の肉体をレインの足元まで吹き飛ばしやがった。
何だ、こりゃあ………!?
ゲーム上ではこんな技なんざ使ってなかったぞ!
「おや、おしまいですか?」
「気にすんな! かすり傷だ!」
「よそ見は禁物ですよ」
「なんの!」
打ち出された掌底を俺は叩きつけるように右手で払い、左拳をペルセスの横っ面に放つが、ペルセスはそれを避けもしない。
いつの間にやらペルセスの肉体からは黒い光が全身を覆っていた。どうもそれが防御の役割を果たしたらしい。
「なっ!? 効いてねえの!?」
「"望歌"を持たない貴方達の攻撃なんて通りません。しかし、随分と珍しい"魂"をお持ちなのですね? 人と人ならざるものが入り混じっていながらも完成したその魂。まるで名工の刀のよう………」
「ごちゃごちゃ、うるせえよっ!」
次弾の俺の前蹴りがペルセスの鳩尾を的確にとらえた。格闘に関しては礼央よりは遥かに劣るが、防御なしで鳩尾だ。ただじゃ済まねえ。
「無駄ですよ。"作詞"状態の私に何もない貴方達が攻撃を加えることは不可能。それに魂が貴方の行動を教えてくれますから。"魂絶"」
「ぐはっぁ!?」
しかし、ペルセスは痛みに顔を歪めるでもなく、前蹴りの足を脇で固めて動きを縛ると俺の腹部に掌底を撃ち込み、こちらへ吹き飛ばす。
「そういや………ペルセスは、『魂絶』ってのが………つかえ、そ………れ、もうちょい………早く、思い出してくれ、俺………」
「ふむ、自分の魂絶を受けてまだ立っていられるんですね? 随分と丈夫な体だ。一体、何の種族やら?」
こんな摩訶不思議な現象が起きているのは幾分か推測がつく。
ここがゲームの基になった世界ならば、奴らが使ってるのも恐らくは同一の法則だからだ。
「──"望歌"だ。テメェが使ってやがんのはそう呼ばれる能力だ!」
「──もう気付きましたか」
奴の体に惑わせている夜の如き黒い光も身体強化魔法、つまり『作詞』状態なら筋が通る。
放って来た魔法みたいなのも『作曲』と呼ばれるものだろう。
望唄はそれによって完成する固有能力。属性がもたらす性質に則った力を操る事ができる力だ。
「思い出したぞ、テメェの属性………あぁ、この世界だと『曲調』だっけか? 希望、信仰、慈愛、勇気、節制、知恵、正義の"美徳の七大曲調"から出来てやがる。そこまでは合ってんな?」
「さあ、どうですかね?」
「ハッ、テメェには聞いてねえよ。聞いてんのはテメェの体だ!」
テレメリズム、常時発動中のこれは相手の感情の波を的確に分析し、嘘などを見抜く力。
それが指し示す答えはYESだ。
「そん中でも黒い光を現出させんのは"節制"の曲調だけだ。特徴としては闇の力と魔力や身体能力を無駄に費やさせる"消費"の力だ」
ペルセスは答えず、胸のポケットから煙草を取り出すと唇に挟み、火をつけて、紫煙を吐く。
「沈黙は肯定と見做すぜ?」
「──それで? まだあるのですよね?」
「ああ、テメェの魂絶とやらの武術。あれの正体も、何と無くはな。確かなのは望歌じゃねえってことだ」
曲調によって、戦い方が変わる。節制ならば、消費の作詞を叩き込み、相手の消費分を糧にする『絶唱』が使えたはずだ。
「あの男の種族は死神。要は種族による力かなんかだろうよ。字体から推測すりゃあ、魂にだけダメージを与える武術だろ? 違うか?」
俺の言葉にペルセスはゆっくり紫煙を吸い込み、吐き出す。甘い匂いが、俺たちの空間を飲み込んだ所で一言、
「だとしたら、何か? 貴方達が勝てるようになるのですか?」
「ハッ、んなわけねえだろ? だが」
それに対し、俺も挑発する様に
「──お前さっき、俺のメルトダウン魔法で相殺したよな?」
そこで漸く、ペルセスの表情に侮蔑の感情が浮かんだ。配られたカードの手札がブタだった時のように。
「どういう原理か知らねえが、俺の能力によって作られた光線、光剣には避ける意味があるらしい。それに加えて、テメェの望歌に似た力を俺は知ってる」
「──くっ!?」
同時に背後から観測不能の光弾がペルセスの鼻っ柱に叩きつけられ、彼が一歩後退する。
仰け反った彼の鼻からは赤い液体が垂れていた。
「ありがとよ、ペルセス。やっぱ、鈴雨の技もテメェらの世界の技に似ているみてぇだな。となれば、取る手段は──」
ペルセスは短くなった煙草を捨て、鼻から流れる液体を拭うと、
「──これだから金がかからないのに本気でやりたくなかったんですよ」
完全に下に見る蔑んだ目で、濃厚な殺意を明確に形にした。
先程まではお遊びだとばかりに闇の衣は脈々しく、蠢きだし、左腕を腰高に、右の掌を向けるようにして初めてペルセスが構えをとる。
俺の能力が警鐘を鳴らしている。先程に比べれば、やる気なさげ、怠そうにも見えるが、寧ろさっきより、不穏さは増していた。
「君はいずれ全てを失うでしょう」
つまり、それは──
「君はかつての私にそっくりだ」
──ペルセスの体を食い破るように顕現した闇がついにその萼を剥き出しにしたという事だ。
「降り注げ! シャイニーレイン!」
突き出した左手から無数の光芒がペルセス目掛けて降り注ぐ。それを叩き落とすように振るったペルセスの右手が俺の光を打ち消す。
そのまま光を屈折させ、見えない筈の二重の光弾を紙一重の差で交わすと、此方へ向けて走り出す。
気持ちは篭らず、呆れたような称賛をあげながら、
「今までのやりとりから貴方の実力が高いことは認めます。けれど見せすぎましたね。望歌なしな上、完全な中遠距離型なことはいやでもわかります」
「ハッ、懲りずに接近かぁ? 舐めんな、ゴラァ!」
息を吸い上げ、寸前で止め、腹から絞り出すように精製した弾丸をペルセスにむけて解き放つ。
「食いやがれ! トーンバレットォォ!」
それは音の大砲。空気を震わし、空間を震撼させるほどの衝撃波がペルセスの肉体を吹き飛ばそうとするが、彼は真っ正面から受け止める。
同時にペルセスの足元に4つの光球が生み出され、
「俺の能力は応用が効くんだわ。わりぃな」
俺の右手に従って、下からペルセスの肉体を貫いた。全弾命中、本来ならばここで終了だが、
「ついでだ食らってけ。震同!!」
床を踏み砕き、周りの人達が立っていられないほどの震脚から生み出された破壊力が腰を捻り、肩を回し、肘を伸ばし、手首を打ち出した最大の勁としてペルセスへ突き刺さる。
だからこそ、確信する。
「テメェ──不死身か?」
「そういう貴方の能力も大凡検討がつきましたよ」
目の前の相手が今の自分達では勝てない相手だと。
「光の操作に音、振動で後は…察するに感情の波? もしくは心臓の鼓動でしょうか? いっけんちぐはぐに見えますが、ここが何の国だか忘れていませんか?」
「似非科学の国だろ? 言ってみろよ、聞いてやる」
「恐らく貴方の能力の正体は、波。いわば波長や波の性質を操るものだと考えていいでしょう。随分と応用が効き、便利な力です」
「……ハッ、ご明察通り、俺の能力名は『波動調律』。音、光、電磁波、物質の波動、精神の波動などあらゆる波について、その波長、位相、振幅、方向を操る力だ」
俺の能力がバレるのは別に構わねえ。いずれにしろ、バレるのは時間の問題な上に弱点もわかりやすいから対処がしやすい。
優先すべきは時間の引き延ばし。隙を撃つための速攻だ。
「にしては、随分と限定的な能力の使い方ですね。あれですか? 使いこなしていない……若しくは別の何かに力を注いでいるのですか?」
『──奏ちゃん』
「──テメェにはこれで充分だろう?」
一瞬、過った映像に心が張り裂けそうなほどに暴れまわり、目から涙が溢れそうになる。
その為に能力を強めて、自分の感情を一定に抑えつつ、冷静さを取り戻す。
「魂が揺らぎましたからそれが答えですね。貴方も随分と難儀な生き方をしているようです」
魂の揺らぎって事は相手も俺たちの動きが分かるってこった。死神という種族が魂を操るならば不死身なのもそれによるものか。
「──さて、では殺しますね。安心してください。痛くはしませんよ? 眠るように死ぬだけですから」
「生憎まだまだ起きなきゃならないんでな」
2発………たった2発だ。
その2発の魂絶でもう体が動かねえ。
光線も光弾というタメがいる、殺傷力で言えばあれが一番だが、読まれやすい。
かと言って、俺が近接戦がダメダメな事はもうバレている。
負け………いや、ここが正念場だ。
「調律者 調律奏」
「っ! 不条理の賭け狂い ペルセス・ヴェランドール」
彼我の距離は10メートルもない。横薙ぎに俺が揮った左手から、幾重にも折り重なった光芒の網の目が盾となり、光の蜘蛛の巣がペルセスの進路を阻まんとする。
ペルセスが前に魔弾を飛ばすと同時に、光の糸で編まれた蜘蛛の巣が節制の曲調の消費により、制御を失い爆発する。
対戦車地雷を軽々と凌駕する威力が崩れかけたアスファルトの欠片を跳ね飛ばし、ペルセスを吹き飛ばす。
だがペルセスは右手を突き出し、炸裂を最小限に留め、瓦礫による雨のような乱打を完全に見切ってかわす。
通路は絞った。狙うはここだ。
「波長把握──収束連携」
右手の人差し指を突きつけ、銃にする。
浮かべる光弾を圧縮、着弾先と指先を赤外線で繋げる。
「閃光」
圧縮された一閃の光筋が掌底を構えたペルセスの掌を貫き、頭蓋を貫通する。
そのまま前のめりに勢いよく倒れるペルセス。
「いくら死神だろうと脳味噌撃ち抜かれたら、動きは止まる──」
「手段は悪くありません。ですが、狙いが分かれば対処は出来ます」
筈………と呟いた言葉に返答するように、ペルセスを貫いた頭の部分に黒い穴があり、迂回するように伸びていた。
これはヤバい、伸ばされた手が俺に触れれば死ぬと予感する。
間近に迫る濃密な死の気配を前にして防御するが、それは突き刺さり、更に片方の掌底が添えられた。
「魂絶・双骨」
先程とは倍以上の威力に口から血塊を吐き出す。
せき込み、喉からこみ上げる命の源を思うさまに流しながら、装置に激突し、機械が停止した。
「これで終わりです。何か手があるならば早急に使う事をお勧めしますが………?」
「今の俺にはもう手はねえよ………くそっ」
機械が壊れ、弾ける火花のように点滅した視界の中で、死が歩いてくる。
何も為せなかった、人に不幸しか与えられなかった俺にはある意味相応しいかも──
『──あっきれた』
ただ、今際に聞こえた、その声は俺を赦してくれないらしい。
*
意識が微睡から浮上する。寝惚けたような脳を叩き起こすように首を振って、周りを見渡せば、
「──屋敷?」
目の前には何故か屋敷があった。先程まで、自分は動力源ルームでペルセスと戦っていたはずだ。
それがこんな鉄柵で囲まれた、学校が入るくらいの敷地の屋敷にいたはずがない。
木々に囲まれた庭は既にその範疇を超えた森だ。屋敷の玄関は重苦しく、入る者を威圧しているようで。すぐ側には呼び鈴があり、止まっていてもしょうがないので鳴らしてみる。
ピンポン、とか軽やかな音が聞こえるわけもなく、重苦しい静寂が場を支配する事、数秒。
錆びついた音を立てて、門が開かれた。
「中に入ったら、帰れねえとかじゃねえよな………」
波動調律で、あたりに不審な存在がいないかを確認しながら足を進め、自分の背丈を優に超える入り口の前に立つ。
生半可な者、立ち入り禁止とでも言うべき扉をゆっくりと押して開き、中に体を滑り込ませる。
「ここはロビーか?」
映画に出てきそうな3階まで吹き抜けのロビー。ワンルームの部屋ならすっぽり収まりそうな玄関には有名な彫刻品やら絵画やらが、存在を忘れるなとばかりに置かれている。
「これは………何?」
ロビーの隅に小さく置かれた机。その上に乗っているのは何かしらの紙。内容はどうも異世界の文字で描かれているようで読めない。
「これ、羽ペンと下にある空欄………名前書かなきゃダメな奴か?」
一番下には誰かの名前と、空欄。契約者と管理人であるのだろうか?
ただ、これにどうしようもなく惹かれている自分がいる。恐らくはこれがここから脱出する為の鍵なのだろう。
「意識の狭間に迷い込んだこの屋敷から出られないとかは勘弁してくれよ………」
どっちみち帰り道もないのだ、出られないならばと覚悟を決めて、その紙に自分の名前を書く。
奏の文字を書き切り、すかさず辺りに注意を払うが、変化はなし。
扉が閉まってないか確認するが、普通に開くし、外にも出れた。何かないかと外を探索するが変化はなし。
「ハズレかよ………」
無駄に勇気を出してしまったと外から怪しい屋敷に戻ってくれば、
『──おかえりなさいませ、マスター』
メイドが、いた。
憮然とした態度の雪のように儚げな白い髪をボブにしたメイドがスカートの裾を掴み、頭を下げていた。
同時に腰にぶら下げていた軍用懐中電灯を反射的に付ける。
そこから伸びた光を波動調律により、収束させ、光の剣に変えて、メイドに付き付けた。
「テメェ………何だ? いや、まずはここから出せ! 何が目的かは知らねえがさっさとしねえと──」
『承りました、マスター。すぐのお出かけをご希望ですか? それでしたら、扉を開けていただければあの場所に戻れます』
あっさりと、彼女は答えた。
呆気に取られたこちらを青い目が見つめている。
「何だよ、お前は何がしたいんだ………?」
綺麗なメイドだった。目鼻立ちも整っていて、肌の色は、黄金とも形容できそうな淡い褐色で、窓から溢れる月の光に艶めいている。
十中八九、この空間の支配者だとは思うのだが、にしては感じられる気配が薄い。敵意がなさすぎる。
メイドは不思議そうに首を傾げると、手にしていた物、先程の紙をこちらに見せてきた。
『マスターは先程、こちらの書類に名前を書きましたよね? こちらは屋敷と私が名前を書いた物に仕える一種の契約書になります』
「契約書………?」
『マスター、私は貴方を心よりお待ちしておりました』
話に進展が見えない。まずは状況を整理すべきだ。
「俺の質問に答えろ。ここは何だ? 俺はどうなってる?」
『ここは──私の心象世界。今際のマスターの意識だけを呼び寄せました。現在、マスターはペルセスにとどめを刺されそうになっています』
「やべえじゃねえか!? くっそ、早く俺を元の場所に返せ!」
『──今の貴方ではペルセスに勝てません』
焦る俺を尻目にメイドは、淡々と告げた。
まるで機械のような言葉に、俺は漸くそのメイドの姿を看破する。
「テメェ………あの試験管の中にいた! テメェも敵か!?」
『誤解です、マスター。私は貴方の味方です。貴方なら私の言葉に疑いがないか、分かるのでは?』
発した言葉に嘘はない………敵意や殺意もない。それを踏まえた上で俺は問いかける。
「じゃあどうする? 俺が生き返っても無駄だから。ここで永久に暮らせと?」
『──私を、連れて行ってくださいマスター』
メイドは初めて能面のような表情を緩めて、人間らしい可愛らしさに富んだ笑みを浮かべる。
『私ならば、ペルセスを打倒する事も、ここから逃げる事も、後は美味しい料理を作ってあげられます』
セールスポイントに些かおかしな所があったが、逃げ出すことに役立つ。その点においては高評価だった。
言葉に嘘はない。俺に迷いはない。
何を考えてるかは知らないが波動調律は誤魔化せない。
逃げ出すまでは利用するべきか。
「わかった。俺は何をすればいい?」
『私に名付けを、一種の契約です。マスターが心配している裏切りを防ぐためにもどうか』
彼女の期待を込めた目がこちらを射抜く。考えた事はバレていたらしい。
少しの間、考えて。ゲームの元になった世界ならばと自分のプレイヤーネームにした。
「──エスポワール。エスポワールはどうだ?」
彼女はその名前を聞いた瞬間に、激しく感情が暴れ出した。何か癪に触ったか?と思うが情念と感動と、喜色混じる波長がこちらまで流れ出し、落ち着いた時には彼女は泣くように笑っていた。
『──ありがとう、マスター。このエスポワール。貴方が幸せを掴めるように、命をかけて仕えさせていただきます』
「何で、そんなに好感触なんだよ………いいから、さっさと帰してくれ!」
『それでは手を』
エスポワールが差し出した手を握ると彼女の足元から屋敷が小さな光の粒になり、崩れ去っていく。
『言い忘れていましたが、契約書の内容に"契約時の内容は忘れる"と書いていますので、お忘れなきよう』
「それ、今言うんじゃ──」
ねえ!と言う前に俺の足元が崩れ、掴んだ手を離さずに落下して──
『安心しなさいよ、マスター。アンタは必ず、私が守るから』
*
刹那、雷鳴が轟くような音と天使が死神を吹き飛ばしたのは同時期だった。
『──あっきれた』
中央に燃え上がる天使が降臨する。
天使はすさまじい鬼気でもって室内を席巻し、ペルセスの蛮行すらもその動きを止めた。
『自分の命をかけて、アタシの解放を優先するギャンブラーは1人でいいのよ』
「なるほど、君もそちら側につくのですか」
天使が足を前に出し、死神が一歩引く。
向かう先はペルセス。彼は拳を握り直すと、その表情から初めて余裕を消して、正面の存在に相対する。
『それでは、改めてお客様に挨拶を』
天使は右腕を胸前に添えて礼をする。さながら大事なお客様を丁重にもてなすかのように。
『私の名はエスポワール。主たるマスターを守る機械仕掛けの天使よ』
自分の名を高らかに謳いあげた。
感想、ブクマよろしくです