死神の足音
扉を破り、部屋を飛び出した俺たちは
「次は左で、今度は右ィ!」
『奏君。今、ボク達は出口に向かっているんだよね?』
「反響音からすりゃあな! おいレオ! テメェどこいつくつもりだ、バカ! そっちからなんか重そうな足音が聞こえてんだバカ!」
現在進行形で道に迷っていた。
いや、仕方なくね? 本来なら場所移動は某運命偉人ゲーのがマスコットキャラが延々と右下で走るような画面での移動になるはずだし、ゲーム上でも建物すべての構造が明らかにされていたわけじゃないもんな!
そんなこんなで扉を破って走り抜けた先に広がっていたまるで機械の神でも通るのかと言わんばかりの天井と、冷徹さを感じさせる鉄の壁、電力のパイプラインが床や壁を青く走るという近未来的な光景を俺たちは置いていくような速度で走り抜けていた。
「けどさ、奏が1番このゲームやり込んでたじゃないかぁ! 道くらい何度も通ったでしょ!?」
「何しろ、こんな道なんざゲームでは描写されるわけねえだろ、バカレオ! こんな長ったるい道なんざロードしなきゃクソゲーだ、そんなもん!」
『仲がいいのは結構だが、こんな場所で騒ぐのはあまり感心しないな。ここは敵の根城だ、これだけ騒いでしまえば………』
『目標発見。迎撃します』
『ほら、バレた』
迫る敵、その正体は硬質な輝きを放つ灰色の金属と無骨な骨格のみで構成され、手には近未来的なライフルを持った──機械兵であった。
『道理で足音が重そうな訳だ。どんな原理なんだろうか』
「奏! アレの中身は!?」
「中身は伽藍堂だ! ぶち壊すぞ! 盾になれ! レオ!」
「蹴飛ばしながら言わないでくれるかな!?」
『捕縛、開始』
近未来的なデザインを裏切らず、機械兵のライフルから飛び出したのは青白いレーザー、三十条。
槍衾の如きそれを、俺と鈴雨は左右に飛び退く形で回避、レオは直撃する。
「無効!」
──俺たち3人は常人ではない。
俺が持ってる波動調律のように、礼央も鈴雨も各々が摩訶不思議な能力を持っているのだ。
だから逃げ出すという、作戦を選択できた。
礼央は武器を作成する力と武器による攻撃ならば全てを無効化できる。
なので此奴を更に蹴飛ばし、奴の武器無効化能力を使って壁にし、俺が差し伸べた手から幾つもの光球が宿る。
「食らいやがれ"メルトダウン"!」
『毎回思うのだけど、技名はいるのかい?』
「かっけーだろ!!」
『あぁ……うん、キミがいいならいいんじゃないかな』
「諦めないで、清水さん!」
鈴雨の声はともかく、星屑のような白銀色の光芒が牙も爪も持たぬ狩られるばかりの狐へと飛来し、機械兵の頭部が撃ち抜かれた。
『どうやら本当に中身は空っぽのようだ。なら、ボクも全力で殴っても良さそうだ。 援護しよう、風桐君』
「さっきから僕を囮に使いすぎだよ、このバカップル!」
『いや、そんなカップルだなんて…』
「おい鈴雨! そっち行ったぞ!」
『え?』
閃光の雨を抜けて、鈴雨へと手を伸ばす機械兵の掌が枯れ木を追ったような音を立ててひしゃげる。
そこには全身から青い魔力を迸らせる彼女の姿。
『右腕に重大なダメージ。治療を開始』
『おやおや、ボクを前にして随分と悠長じゃないか』
そして、青い魔力が形となり、生み出されるのは生命の母たる水。溢れ出すそれを彼女は握り締めれば、腕に光が充填され
『──魔弾、装填』
『計測。種族判明──』
『ぶっ壊れるんだ』
鉄製の床を踏み抜く勢いで練られた力が腕を伝って、拳から解き放たれた衝撃が目の前の伽藍堂の人形の内部から背後まで突き抜ける。
「ハッ、相変わらず、戦い方がかっけえし、色っぽいな、鈴雨!」
『上がったのは色っぽさだけじゃないよ、奏君。次弾、装填!』
「鈴雨ちゃんも技名つけてるんだね!?」
それは彼女だけが扱える謎の力。弾丸は水。砲筒は肉体。原理はいまいち不明だが、膨大な力の奔流を無理矢理肉体に押しとどめて任意で解放する。
これこそが、『魔弾』。鈴雨の華奢な体でも自分の倍ほどある者達を吹き飛ばす彼女に名付けられた代名詞。
無数の破砕音と共に、機械兵達の体は粉々に砕けていき、残骸となった機械を超えて走るが、後ろから
『目標発見。追跡開始』
「くっ、やっぱり数が多いね! ここは二手に分かれよう! 僕は右に行くから、2人は真後ろに!」
「よーし分かった、親友! 俺とテメェの2人がスケープゴートじゃい!」
「生贄は君だけで充分じゃないかな!?」
『コントやってる場合かい? 早く爆弾でも作って目眩ししてほしいのだけど』
「その手があったか! なら行け! スモークグレネード!」
レオの手に握られていた消しゴムが、僅かな光とともにスモークグレネードへと姿を変え、ピンを抜き、真後ろに投げ込む。
そして発生する、白煙の中に俺は4つの光球による閃光を解き放ち、鈴雨は連打による魔弾で幾つかの機械兵を破壊した後、離脱する。
「このままじゃキリがないよ、奏! 何かいい案ない!?」
「こういう修羅場経験ならテメェの方が豊富だろうが! 何か出せよ!」
「それは僕に聞いて、何か返答があると思うのが間違いだと思うよ」
レオの当たり前だろ、馬鹿、みたいな目線も割とイラッとくるが、今はこの状況を切り抜けるのが先決である。
『奏君、とりあえずキミの能力で地図を作りながら走ろう。最悪は壁をぶち抜いて突破だ!』
「それしかねえか………」
「……もしかして奏と仲のいい女の子って、奏の厨二っぽい影響受けてない?」
うるせぇ、バカ。んなことより、足を回せ。
*
『そこどけ、ガラクタがァァ!』
「はぁ………随分と乱暴だこと」
換気機能が充実しているとはいえ、長い間窓を開けていないからか、淀んでいるような空間で幾つものモニターが画像の転換を繰り返す。
その前に座るのは伸ばした菫色の髪を整える事すらせずに人間が1日に必要な栄養素を固めた固形物を食べる燻んだ蒼い目にクマを浮かべた妙齢の女性。
「はぁ………このままだと動力源に辿り着くわね」
疲れたように机の上に並べられた気付けドリンクの空き瓶を机から落とし、新たな瓶の蓋を親指で弾き飛ばす。
「ラヴィ・グティ。奴等は今何処にいる?」
「はぁ………見れば分かるでしょう?」
そこへ来たのはトラオア。ドアの開閉と同時に響いた声にキーボードを操作し、ある警備カメラの画面を拡大化させる
「なるほど………動力源を破壊して、城の警備を切り抜けるつもりか。ラヴィ。ペルセスを向かわせろ。彼奴は非番だったはずだ」
「はぁ………もうしたわよ」
「ご苦労。こ奴等と合流されたら、面倒だから出来れば捕まえたいが………別に逃がしても構わない」
ラヴィの頭の上からトラオアは覗き込むように状況を把握する。ラヴィも気にせずに慣れた手つきでモニターを操作し、トラオアに見るように指を刺す。
「機械兵による種族の情報よ。貴方が逃したくない気持ちもわかるわ」
「ふん、やはりか。『泡沫の福音』などと言う2つ名を持つ者が何人もいるわけないからな。そもそも召喚時点で感じ取れた強さの基準。30人のうち、当たりは奴ら含めて5人だけだ」
「はあ……なのに、追放したのね。悪い人。宝石を捨てて、石ころ抱えてどうするの」
「奴らに接触させる。ここで捉えても良し。逃しても囮とする。それだけだ」
拡大されたのは拳を飛ばす、海の如き深い蒼の髪のショートカットの少女。
「清水鈴雨いや、『泡沫の福音』レイン・サージェスとなると、奴等のどちらかが………」
「はぁ………悪い顔してるわよ。捕まえる気がないなら、もう少し戦力抑えたりするけど?」
「いや、これでいい。今回は奴らの実力を測る以上、既存より投入しても構わん。サージェスがいる以上、奴等はあの国に行く事は確定だ。そこで捕えればいい」
「はあ………一応、分断はしておくわよ。捕まるなら捕まえるわね」
ラヴィが数値を入力すると、画面の中で競り上がった壁が奏、鈴雨と礼央を分断する。
『やばいよ、分断された!』
『鈴雨! その道を右、左、右、右、左だ! そこで合流できる! 覚えたか!?』
『分かった! 無事に後で合流しよう!』
どうやら彼らは各自で合流を図るようだが、戦力が落ちたことに変わりはない。ペルセスに指示を下し、動力室に向かう方を止めるように依頼する。
「はあ………これでいい?」
「ああ。それと」
トラオアは憮然とした態度で、ここに宣言する。
「ラヴィ。『Xノイズ』を集合させろ」
「はぁ………忙しくなるわね。リーダー?」
科学の力で世界を支配する事を。
*
「くっそ! 一時退却だ!」
兵士たちや閉じた扉に追われ、辿り着いたのは厳重そうな電子ロックがかけられて無骨な扉。ゲームの記憶が正しければ……
「これは……確か動力室じゃねえか?」
ここならば脱出の糸口があるかもしれないと電波をいじくりまわし、電子ロックを強制的に解除。体を滑り込ませ、扉を閉める。
「すっげぇ……廊下のパイプラインってこっから繋がってたのか。これ全部が動力源に繋がってやがる…ゲームで見るのと体験するのはやっぱ大違いだな」
声を漏らすのも仕方ない。扉の先に広がっていたのは壁を複雑怪奇に走る無数のパイプとそれが繋がる動力源。
それは巨大な半径5メートルは超える円筒状の強化ガラス。その中には並々と注がれた毒々しい色の保存液と──
「ハッ、ゲームと違って、随分と悪趣味じゃねえか」
──美しい肢体を持った女が胎児のように蹲って浮いていた。
ゲームの設定では何らかの動力体つかエネルギー体だった筈だが、それがこれとはあからさまにゲームと違う。
つまり、奴らはゲームに似せてるだけで別………俺たちはゲームの世界に来たんじゃない。
ゲームに似た世界に来ただけだ。
「ハッ、これこそが奴らの仮面の下の素顔なんだろうよ。科学で世界を変えるっていうキャッチコピーはあながち間違っちゃいねえわけだ」
作られたからこその彫刻的な美貌を持つその存在は此方に一切の反応を示さず、眠っているようで。
短く斬られた白い髪の隙間からは水を思わす青い目が覗いている。
「綺麗な人形だな………」
目鼻立ちも整っていて、肌の色は黄金とも形容できそうな淡い褐色で、窓から溢れる月の光に艶めいていた。
「とはいえ動力源ならぶち壊せばそれで終いだ」
ここの動力源こそが国中の電力を賄うとされているエネルギーの核とも言えるべきものだ。
これを潰せば確かに、警備は緩くなり脱出も可能だろう。
だが普通に考えりゃあ、重要な施設ほど警備はかてぇ。こんな所まですいすい来れたのがおかしいんだ。
むしろ、誘導されていたならば、まだ分かる。その場合、敵の狙いは。
「精鋭による遊撃!」
動力室に繋がる扉が蹴破られ、鋼鉄製の扉が吹き飛んでくる。
それを光線で焼き切ると、其奴は姿を現した。
「誰だテメェ!!」
身長の高い男だ、年齢は二十台前半くらいの男だ。
「そう連れない態度を取らないで下さい」
優男、その言葉が何より似合う細身で長身、涼しげて清潔感のある、整った顔立ちの青年で、病的に白い肌が薄暗い部屋の中でもはっきりと目立つ。
「テメェみてえな奴と話してる時間はねえんだよ」
細い黒縁の眼鏡から覗く切れ長の瞳には深い知性を感じさせ、雑兵とはまるで違う、雰囲気を醸し出している。
見たことがある人物だ。恐らくはゲーム内でのネームドキャラクター。
十中八九、科学側の尖兵、恐らくは──
「テメェ、Xノイズだな?」
「やはり気付きますか。素晴らしい洞察力に機械兵を歯牙にかけない力。貴方が味方ならばその力を教えて欲しいところでしたが………」
「見抜いてみろや、道化野郎」
空気を締め直すように俺の声が鼓膜を揺らし、男の体からただならぬ圧が発せられる。
「………駄目じゃないですか、異世界人風情が自分達、Xノイズに逆らうなんて」
そしてゲーム上でも珍しいとされる黒い髪の持ち主。背を越して腰まで届く長い髪を編むように束ねて、指先でその先端を弄んでいる。
「自分の名はペルセス・ヴェランドール。XノイズのNo.8。ゲームをクリアしたならば知ってる筈ですよね?」
脳味噌が直接危険信号をならすような声が薄い唇から漏れ出し、彼の仕草が本能に退くべきだと訴える。
ペルセス。科学の国を守護する武闘派組織Xノイズの1人。ゲーム内では軍師的な立ち位置で、主人公をライバルとして見る存在の筈。
「ハッ、いかれ野郎が何しに来やがった?」
だが今の彼はその種族、魔族の中でも特例中の特例たる──
「そんな事、決まっていますよ」
──『死神』という名に能わず、冷たい殺意を振りかざすに相応しい存在だった。
俺は手元の懐中電灯の光を剣へと変えて、迫っていたペルセスの掌底を受け止めた。
「俺に勝つつもりかよ」
「舐められたものですね。僕はこう見えてもXノイズの端くれ。貴方達とは格が違うという事を教えて差し上げます」
「ごたごたうるせえよっ!」
勝たなきゃやばいのは百も承知。異世界での初戦闘だ、気合い入れていくぞ!
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