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第7話 来週から夏休み

夏休みまで残り1週間。


休暇前の試験も終わり、校内は天国と地獄に分かれていた。


「俺、夏休みはリゾート地へ行くんだ!」

「私はバーベキューをするわ」

「私、おじいちゃまとおばあちゃまに会いに行くの」


「うわああ!俺、赤点取っちゃった…」

「俺も。夏休みは補習決定だ」

「私もよ。演劇のチケット取れてたのに…」


あちこちから浮かれた声や絶望の声が聞こえていた。


「ねぇ、見た?試験の順位!シャーロット様とクリス君が同率1位だったの」


「本当?」


隣を歩いていたエイミーの言葉にリリィは足を止めた。


「まだ見てなかったのね。ちなみにリリィは8位だったわ。順位は平民のクラスと合わせて発表されるから、貴族の中でリリィは3位よ」


リリィたちの通う学園では貴族のクラスと平民のクラスが存在しており、平民は限られた人しか入学できない。普段は使っている棟が違うため会うことはないが、試験の時だけ競い合うために同じになる。ちなみに試験で1位になると学費が無料になったり、食堂を1年間無料で食べられたりと特典がついてくる。


「平民を押さえて1位だなんて、あの二人どれだけ勉強してるのよ」


「いや、リリィもかなり上位だからね。私なんて50位よ」


平民のクラスと合わせて1学年80人だから、50位は平均より少し下の方だ。平民のがり勉クラスを除けば真ん中くらいだろうか。


「まあ、成績はあんまり関係ないからね。宮廷に仕える人くらいじゃない?関係あるのは」


「もう、そういうのは出来る人だから言えるんだわ」


困ったようにエイミーが肩をすくめた。


「一応、親からはそれなりの成績を取っておいた方が良いって言われているのよね。ねぇリリィ、今度私に勉強を教えてくれない?」


「いいけど、シャーロットに聞いた方がいいんじゃない?学年1位だし」


リリィの言葉にエイミーは身震いした。


「ううん、リリィがいいの。学年1位の勉強法はきっと私には無理よ。それに、シャーロット様は厳しそうだわ。結果が出なかったと想像したら怖いの」


リリィはシャーロットを思い浮かべた。


『あら?この点数は何なの?私が教えたのにこんな点数だなんてありえないわ。上位にいくまで勉強しましょうか』


悪い順位を取ったら笑顔で凄みそうだ。


「…わかった。夏休みが明けたら放課後勉強しよっか」


「お願いします」


エイミーはぺこりとお辞儀をし、去っていった。



フォード侯爵家でリリィは夕飯を作っていた。今夜は牛ほほ肉の赤ワイン煮とサーモンの塩漬けを使ったブルスケッタだ。どちらも事前に仕込んでいたため、調理時間は少なく済む。


結局、シャーロットのお兄さんの居場所はわからなかった。シャーロットにそれとなく探りを入れたのだが、全く反応がなかったため存在を知らないと思われる。


でも、侍女の方は反応していたわ。


わずかだが、兄弟の話しをした時に側に仕えていた侍女の肩が揺れた。


彼女だったら知っているんだろうけど、問い詰めるわけにはいかないし。シャーロットが知らないとなると、生まれる前か記憶に残る前にいなくなった可能性が高いかな。


前回の時、シャーロットの兄は私生児だと雑誌に書かれていた。しかし、シャーロットの葬式で見た彼は私生児にしてはあまりにもシャーロットに似すぎていた。しかも、ブラックウェル侯爵は目の色が黒だ。紫色の目を持つ人物は滅多にいないため、シャーロットの実の兄だと推測される。


やっぱり忍び込むしかないのかなぁ。


「あら、美味しそうな匂いね」


リリィが味を整えているとクリスの母、フォード侯爵夫人が入ってきた。


「お邪魔しています」


リリィが挨拶すると、侯爵夫人は優しく微笑んだ。


「あら、いいのよ。こちらこそお夕食を作ってもらっちゃって悪いわね。今日も美味しそうだわぁ」


「ふふ、味見しますか?」


「あら!いいの?」


リリィが尋ねると、侯爵夫人はいたずらっぽく笑った。リリィが渡した味見用のお皿から上品に口へ流し込んだ。


「うん、とってもおいしい」


侯爵夫人の笑みにリリィも笑顔になる。


「よかったです」


フォード侯爵夫人は今年39歳になる貴婦人だ。アッシュグレーの髪に緑色の目を持っているが、クリスとそっくりな顔立ちをしている。高価ではないが上品なドレスを身にまとい、落ち着いていて品のある貴族だ。


フォード侯爵もフォード侯爵夫人も決して贅沢をする性質ではない。お金目当ての婚約と言われているが、少なくともリリィはフォード侯爵夫妻がブラックウェル侯爵家のお金を使い込んでいるところを見たことがなかった。


じゃあ、どうしてフォード侯爵家はブラックウェル侯爵家と婚約させたのかな?


「はぁ、リリィちゃんみたいな子がお嫁さんになってくれたら良かったんだけどねぇ」


侯爵夫人は残念そうにため息を吐いた。


「仕方ありませんよ。私の家は貴族と言えるか怪しいくらいですから」


「あら、アップル伯爵家は由緒あるお家よ。ただ、私も息子には楽に生きてもらいたいから」


侯爵夫人は後ろめたそうに言った。


やっぱりお金なのかな?


「小耳に挟んだんですけど、ブラックウェル侯爵家から結構な額を提示されたそうですね」


赤子の時から交流があるため、リリィはストレートに聞くことにした。


「うーん、リリィちゃんにだから言うけど、目ん玉が飛び出るかと思ったわ!そうねぇ、王宮が建てられるんじゃないかっていうくらいの金額だったわねぇ」


侯爵夫人は大げさな身振りをしながら、普段は使わないような言葉で金額を表現した。


それだけの金額となると、ブラックウェル侯爵家も苦労したはずよね。そうまでしてフォード侯爵家と婚約させたかった何かがあるんだわ。


「それはびっくりですね。侯爵夫人はそのお金を何に使いたいですか?」


暗に使わないのかと聞くと、夫人は困ったように首を傾けた。


「まぁ。結婚するのはクリスだもの。私たちは使えないわ。でもそうねぇ、私だったら料理の上手なシェフを雇うかしら」


ぱちりと片目をウインクして侯爵夫人が答えた。


大人の返しをされてしまったわ。


「ふふ、ありがとうございます。ところで、シャーロットにはお兄さんがいらっしゃるようですけど、何か聞いたことはありますか?」


リリィの言葉に、侯爵夫人は息を呑んだ。


「あら、そう。どこで聞いたのかしら?いえ、そうねぇ。そういうのはあなたのお母様の方が詳しいのじゃないかしらね?」


「私の母ですか?」


リリィは首を傾げた。


「だって、あなたのお母様は亡くなったブラックウェル侯爵夫人と異母姉妹じゃない」

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