第6話 クリスとのお出かけ
「リリィ。お誕生日おめでとう」
ブラックウェル侯爵家のお茶会翌日、クリスがアップル伯爵家を訪ねてきた。今日は月曜だが学校は休みだ。
「本当は昨日渡したかったんだけど、疲れていたみたいだから」
昨日は帰ったあとすぐに眠ってしまった。近くで爆音を聞いたことで疲れてしまったのだ。
殺されるかと思ったけど、シャーロットに悪気はなかったみたい。むしろ誕生日パーティを開いてくれるなんて、好意があるってことじゃない?
「ありがとう!開けても良い?」
クリスがくれた箱は掌に乗る大きさで軽かった。
何が入ってるかな?
昨日程はドキドキせずリリィは箱を開けた。
「かわいい!」
入っていたのは1通の手紙と、紫水晶を使った金細工の髪飾りだった。バレッタとバックカチューシャの2種類だ。
さりげなく自分の色を入れちゃうところはどうかと思うけど、センスはいいわね。
「バレッタは学園でも使えると思うよ。せっかくだから付けてほしいな」
そう言ってクリスがバックカチューシャを手に取った。
付けてくれるのかな?
「お願いするわ」
リリィが後ろを向くと、クリスは迷う様子もなく付けてくれた。
「できたよ。とってもよく似合ってる!」
鏡で確認すると、リリィの白金の髪に金のチェーンが彩りを与え、中央の紫色の宝石が引き立っている。
「ありがとう。特別な時に付けるね」
クリスを振り向きリリィはいつもより声を高めて言った。嬉しさが声ににじみ出るようだった。
「ねぇ、今から街に行こうよ。服も持ってきたんだ」
髪型はそのままでと言い、クリスは服を置いて客室から出て行った。
何で服を持っているのとか、何で私のサイズを知っているのとか聞いても無駄だよね。クリスだもん。なぜか私の全てを知っている気がする。もしかしたら、私の秘密も…。
リリィはそこまで考えて頭を振った。
せっかく可愛い髪飾りを貰ったんだし、今日は楽しいことを考えよう。クリスとも最近遊んでいなかったしね。
リリィは笑顔を浮かべ、クリスがくれたシンプルな白いワンピースに着替えた。
「お待たせ、クリス!」
リリィがクリスへと駆け寄ると、クリスは嬉しそうに微笑んだ。
「行こうか」
クリスの差し出した手を取り、リリィはフォード侯爵家の馬車へと乗った。
馬車に揺れながら、リリィは向かいに座っているクリスを見た。クリスは左肘を窓枠に置き、窓の外を見ている。太陽光がクリスの金髪を輝かせ、同じく金色のまつげに影を落としていた。黒い半袖のシャツに白いパンツとシンプルな格好だが、所作と雰囲気から育ちの良さが漂っている。
この人が将来、シャーロットを殺すようになるなんて信じられない。それに、私がクリスを殺すことになるなんて。
暗い気持ちがリリィを支配した。
ダメだ、今日は楽しいことを考えようと思ったのに。
それでもリリィは葛藤に勝てず、口を開いた。
「…ねぇ、クリス」
リリィの声にクリスがこちらを見た。
「どうしたの?リリィ」
クリスの金色の瞳は優しげに細まった。
何を聞く?シャーロットのことが好きか?それとも私のことをどう思っているか?ううん、これじゃあまるで私がクリスのことを好きみたい。ところで、私ってクリスのことをどう思っているんだろう。
生じた疑問にリリィは蓋をした。
クリスはエイミーの言う通り、幼なじみの私から見てもイケメンだわ!
「私やっぱり、夏休みに領地へ行くことにしたわ」
リリィは質問の代わりに違うことを口にした。
本当はシャーロットのお兄さんを探すために王都へ残ろうと思ったんだけど、やっぱりおじいちゃんたちには挨拶しておかないとね。
「そっか。俺は夏休みのほとんどを領地で過ごすから、来るときは連絡を入れてね」
「もちろん」
クリスは嬉しそうに笑った。夏休み中はリリィと会えないと思っていたからだ。
その日のお出かけは久々にクリスと二人だけで過ごす、特別な一日となった。
クリスは美容やファッションに気を遣っているみたい。幼なじみだけど、知らなかった一面を知ることができたな。