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第3話 シャーロット・ブラックウェル

エイミー・チャンの件は片付いた。あとは、シャーロットのお兄さんを見つけるだけね。


リリィは自宅の厨房でチョコレート生地を型に流しながら考えていた。


シャーロットはお兄さんのこと知っているのかな?一度も聞いたことないけど。


シャーロットと初めて会ったのは12歳の時だった。1周目から換算すると14年の付き合いとなる。


知っている様子はなかったけど、私のことを婚約者の恋人と思っているから、知っていても言わないよね。となると、侯爵家に忍び込むしかないのかな。


貴族の家だろうと鍵をかけている家はなかった。リリィの住んでいる伯爵家も例に漏れずいつでも開いているため、裏口から入れば誰にも気づかれずに侵入することが可能だ。侯爵家のクリスの家でさえも戸締りはしていない。


でも、同じ侯爵家でもシャーロットの家は大金持ちだから警備が厳しいかも。


リリィはクリスにくっついていくブラックウェル侯爵家のお茶会を思い浮かべた。


お茶会で行くのは裏庭と1階の応接室だから、構造がわからないなぁ。やっぱり、侵入は危険度が大きいわね。


オーブンで生地が膨らんでいくのが見える。


そうだ、これだわ!



**********


「おはよう、クリス!これ、この前言っていたガトーショコラ」


昨日焼いたお菓子を渡すと、クリスは驚いた顔をした。


「えっ、リリィの手作り?ありがとう!どうしよう、食べるべきか飾っておくべきか迷うな」


「じゃあ、私行くところあるから!」


クリスの言葉を最後まで聞かずリリィは急いで教室を出た。


はやくしないと休み時間が終わってしまうわ。


リリィが教室を覗くと、片肘をついて窓の外を眺めているシャーロットの姿があった。陽光がシャーロットの黒髪を輝かせ、儚く見せていた。


「シャーロット!」


リリィが扉の近くから声をかけると、教室がざわついた。


「えっ。リリィさん?レディ・ブラックウェルに話しかけているぞ」

「本当だ。あの二人、会話するのか?」

「リリィちゃん、今日も可愛いなあ」


シャーロットが怪訝な顔をしつつ近づいてきた。


「レディ・アップル?私に何か用?」


「これ、シャーロットに食べてほしくて。味は補償するわよ」


前回の時、リリィとシャーロットは二人で会話したことはなかった。しかし、シャーロットがクリスと結婚してリリィが料理人として新居に居ついた時、シャーロットは嫌そうにしつつもリリィの料理には満足してくれていた。


特に気に入ってくれていた、バナナ味のガトーショコラ。食べてもらえるかわからないけど、きっと気に入ってもらえるはず。シャーロットは甘いものが好きだし、食べ物を粗末にするのが嫌いだからね。


「次の授業が始まるわ!放課後感想を聞きに行くから、食後のデザートにでも食べてね!じゃあね」


「ちょっと!レディ・アップル!」


シャーロットの手に無理やり押し付け、リリィは駆け足で自分の教室へと戻っていった。


人と仲良くなるには食べ物が一番ね!これでシャーロットと仲良くなって、お兄さんのことを聞き出そう。


リリィは手袋をした自分の手を見つめた。


それに私自身シャーロットと仲良くなりたかったし、大きな代償を払ったご褒美にしよう。前回と同じようにする必要はないもんね。



「シャーロット!授業終わった?」


シャーロットが帰ってしまわないようにホームルームが終わるとすぐ、リリィはシャーロットの教室へと向かった。


教室を出て行った人もいたが、シャーロットはまだ帰る準備をしている最中だった。


「そんなに息せき切らなくてもいいんじゃなくて?」


シャーロットは振り向き、呆れたように返事をした。


「だって、気になって仕方なかったんだもの。ねぇ、一緒に帰りましょ」


リリィはシャーロットの帰り支度が終わったのを見ると、多少強引に腕をつかんで引っ張った。シャーロットは手を振り払わずにされるがままだ。


「はあ、仕方ないわね。…ところで、フォード卿と帰らなくていいの?」


「ふふっ。別に私たちずっと一緒にいるわけじゃないから」


リリィの言葉にシャーロットは不思議そうな顔をした。


シャーロットと会う時はいつもクリスと一緒だったから、ずっと一緒にいるイメージなのね。それにしても、前回よりも性格が穏やかになった気がする。やり直してから2か月しか経ってないのに変ね。


シャーロットは考え込んだリリィの顔を見て軽く咳払いをした。


「その、戴いたお菓子、本当に美味しかったわ」


「ほんと?良かった!」


リリィの笑顔にシャーロットは花が咲いたような錯覚を覚えた。


きっと、彼女のような笑顔が人から好かれるのね。いつも無表情の私には難しいわ。


婚約者や周囲から感じる冷たい視線を思い出してシャーロットはため息を吐いた。


「どうしたの?何か悩み事?」


シャーロットの顔を下から覗き込むようにしてリリィが尋ねた。


悩み事と言えばレディ・アップルもその一つなのだけど。どうして私は婚約者の恋人と一緒にいるのかしら?


リリィの薄紫色の瞳を見返しながらシャーロットは考えた。


「レディ・アップル、あなたどうして私にお菓子をくれたの?」


手を握っていたリリィは立ち止まったシャーロットにつられて歩を止めた。


「…シャーロットと仲良くなりたかったからだよ?」


小首を傾げながらリリィが答えた。


わからないわ。何が目的なのかしら?聞いても答えてくれなそうね。


シャーロットはため息を吐いた。


「それじゃあ、私はこっちだから」


「うん、またね」


シャーロットの言葉にリリィは素直に手を離した。

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