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第2話 エイミー・チャン

リリィたちの通っている学園は全王朝時代のお城を改築しているため、広くて豪華な造りとなっている。


この広さの建物から特定の人を見つけるのは難しいけど、学年ごとに使っている棟が違うからまだマシね。


リリィは教室を出て中庭の方へと走った。


いた!あの後ろ姿、間違いなくエイミー・チャンだ。


「すみませーん!茶髪の人、待ってください!」


リリィの呼びかけに談笑していたエイミーは驚いた顔をして振り返った。


「私ですか?」


「はぁ、はぁ。良かった、これ、落とされましたよ」


エイミーはリリィが差し出した本を受け取り、口に手を当てた。


「えっ!ほんとうだ、私の本!わざわざありがとうございます」


「いえ、なくさなくて良かったです。お料理、お好きなんですか?」


エイミーが落としたのは料理をテーマにした小説だった。

怪訝そうな顔をしたエイミーに対し、リリィは取り繕うように言い訳した。


「すみません、拾った時にページが開いていたものですから…」


「いえ、疑ったわけではないです。料理はできないのですが、美味しそうなので本で読んでいるだけです」


エイミーが頬を赤らめたのを見て、リリィは明るく微笑んだ。


「そうなんですね!私、料理が得意なので、良かったら教えますよ!」


「えぇ、そんな」


エイミーは一呼吸置き、じっとリリィの顔を眺めた。


「あなたもしかして、リリィ・アップルさんですか?クリスさんとよくいる」


「私のこと、ご存知なんですか?」


知っているでしょうね、シャーロットの悪口を広めたのはこの人だから。その時に私とクリスが恋人関係だって加えていたし。


「えぇと、はい。クリスさんって女生徒の間で有名なので、一緒にいるリリィさんのこともよく聞きます」


ふーん?クリスって有名なんだ。何て言われているんだろう。


リリィは好奇心からエイミーに尋ねた。


「えっ。噂の内容ですか。クリスさんってめっちゃイケメンじゃないですか。王家と同じ金髪、甘い顔立ち、身だしなみにもいつも気を使ってオシャレですよね。それに侯爵家の跡取りでもありますし、リリィさんもご存知かもしれませんが、ほぼ毎日告白されているそうですよ」


「へー、そうなんだ」


あのクリスが?


「あっ、リリィさんに言うことじゃないですよね。クリスさんとお付き合いされていますものね」


んん?私とクリスが付き合ってる?


「いえ、私たちは別に付き合ってませんよ」


「そうですよね、ブラックウェル侯爵家と婚約されているので他の人には言えませんよね。でも、私はリリィさんを応援していますから!あ、予鈴が鳴ったので失礼しますね」


リリィが訂正する前にエイミーは去って行ってしまった。


てっきりシャーロットを貶めるために私とクリスが付き合っているという噂を流したのだと思ったのだけれど、エイミーは本当に私たちが付き合っていると思っているようだわ。


何はともあれ、きっかけは出来たからこれから仲良くなっていけばいいよね。


リリィも踵を返し、自分の教室へと戻っていった。



**********


エイミーとは顔を合わす度に挨拶するようになり、だいぶ距離も縮まった。


今も一緒に温室の花を眺めている。


「そろそろ夏休みだけど、エイミーは何か予定を立てているの?」


「私は実家のある男爵領に帰るつもりよ。リリィはどうするの?」


「私は王都の伯爵家にいるつもり。クリスは一度帰るとか言っていたけど」


リリィの返事にエイミーはクスクスと笑った。


「あなたたちって本当に仲がいいわよね。ほんとうに付き合ってないの?」


「付き合ってないってば。まあ、王都の実家も領地も隣同士だから、小さいときからずっと一緒なのよね。お互いの両親の仲も良いし」


「へえぇ」


「何よ?」


エイミーが意味深に目を細めた。


「別にぃ。ただ、レディ・シャーロット・ブラックウェルがいなかったら、あなたたちは付き合っていたんじゃないかなって思っただけよ」


「…私は、シャーロット以上に美人でお金持ちな人を見たことがないわ」


エイミーは肩をすくめた。


「その点は私も同意するわ。でも、クリスさんはレディ・シャーロット・ブラックウェルなんて眼中にないじゃない。リリィはかわいい系なんだし、クリスさんとお似合いだと思うんだけどな~」


「エイミーはシャーロットが好きじゃないみたいね。何か理由があるの?」


リリィはちらりと横目でエイミーを見た。


「はあ、わかる?実はね、私の婚約者がレディ・シャーロット・ブラックウェルの話ばっかりするの。まあ、私の一方的な嫉妬なんだけどね。私って地味な感じだし、彼女と比べられるとイラッとしちゃうのよね」


なるほど。自分に対するコンプレックスと、婚約者が原因だったのね。


「人と比べるなんて最低だわ。大丈夫、男は胃袋を掴めって言うじゃない?お昼を作って持っていけばイチコロよ。シャーロットの話もしなくなるわ」


リリィがにこやかに言うと、エイミーは胡散臭そうにリリィを見た。



「リリィ、あなたって天才ね!本当にハロルドがレディ・シャーロット・ブラックウェルの話をしなくなったわ!私のことを見てくれるようになったの」


2週間後、エイミーが嬉しそうに報告してきた。ハロルドはエイミーの婚約者だ。


「ふふ、料理を頑張ったかいがあるわね!おめでとう」


「ええ、ほんとうに。リリィが料理を教えてくれたおかげだわ。ありがとう」


良かった。これでエイミーがシャーロットを呪い殺すことはなくなったかな。


エイミーの嬉しそうな表情を見て、リリィも嬉しく思った。

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