第24話 テオドールの旅
投稿が遅くなり、申し訳ございません。
未知の世界。テオドールが目を開けた時に目の前に広がっているのは想像もつかない世界のはずだった。
「?」
何かがおかしい。
目の前の光景は普段と変わりないように見える。
屋内から屋外へと転移しただけなのだろうか。それならそれですごい技術だが、今テオドールが求めているものではない。
「師匠」
現状を確かめようとジェシーを捜すと、少し離れたところで壁に手をついて寄りかかっていた。具合が悪そうだ。
「どうなりましたか?」
「恐らく失敗じゃろう。聞いていた世界というよりは、ワタシたちが住んでいる世界と思える」
「そうですね。ちょっと確かめてきます」
テオドールが人混みの方へと歩き出そうとすると、ジェシーが腕を掴んだ。
「待て。不用意に出歩いてはならん」
「何か心当たりがあるのですか?」
ジェシーは息を整えるように大きく深呼吸をしてから言った。
「何かが変なのだ。その正体までは分からぬが、慎重に動く方が良いと長年の魔女の勘がいっている」
「魔女の勘ですか。ところで、先ほどから苦しそうですね」
「うむ。それも原因がわからぬ。恐らく、魔法陣による酔いか何かだとは思うのだが、念のためワタシの体調が回復してから動くのが良いだろう」
テオドールとしては早く動きたかったが、ジェシーが立っていられないほど具合が悪くなったため、近くの宿へと移動した。先達の意見を取り入れ、念のためローブの帽子を被ると怪しい人物となってしまったが。
宿に泊まって数日経ってもジェシーの体調は回復しなかった。むしろ、意識がもうろうとし現実と夢とを行き来しているようだ。
仕方ない。このままここにいてもどうにもならないから、少し街中を見てくるか。
「師匠。僕、この近くを歩いて来ます。何かあったら、この魔法石でお知らせください」
魔力を込めたら赤く発光するという、シンプルだが便利な魔法石を枕元に置き、テオドールはローブを着て街へ出かけた。
街に出ると、そこそこの賑わいで女性の一人客も目立った。治安は良いようだ。
テオドールが何気なくあたりをぶらついていると、大通りに見覚えのある馬車が停まっていた。
何度も目にした、ブラックウェル侯爵家の紋用の入った馬車だ。
早鐘を打つ心臓を押さえながら、テオドールはゆっくりと馬車の方に向かった。
遠目からだが、馬車の中には誰もいないようだ。近くに居るのだろうかと周りを見渡していると、裏道から制服を着た騎士が馬車の周りに立っていた騎士に声をかけているのが見えた。
何を話しているのか聞こえない。もう少し近づこう。
テオドールが近づこうと一歩踏み出したところで、女性の悲鳴のような声が聞こえた。
「きゃーっ!強盗よ!誰か捕まえて!!」
柄の悪そうな男がひったくったと思われるカバンを抱え、大通りを走り抜けている。テオドールは男とぶつかりそうになり、とっさに避けた。他の人も同じように避け、犯人は開いた人混みを素早く通り抜けた。そのまま先ほど騎士が出てきた裏道へと入っていく。
「きゃっ」
ぶつかったような音と、少女の驚いた声が重なる。
あの声はまさか、シャーロット様?
テオドールが慌てて裏道を覗くと、倒れた少女と起こそうと手を伸ばしている青年の姿が目に入った。
カールした身なりの良い黒髪の少女は間違いなくシャーロット様だ。もう一人の手を伸ばしている青年は、簡素な平民の服を着た父親だった。
父さんとシャーロット様?
二人の出会いを聞いたことはなかったが、お互いに知らない様子だ。これが初めての出会いなのだろうか、と考えを巡らせていると、懐にしまっていた魔法石が点滅した。邪魔なので光を消そうとしたところ、点滅する速度が上がり魔法陣が広がった。
次の瞬間、テオドールは宿に戻っていた。
こんな機能はないはずだけど。師匠が何か仕込んでいたんだな。
テオドールは文句を言おうとジェシーがいるであろう方向へ目を向けた。
そこには、苦悶の表情を浮かべ床を転がりまわっている魔女ジェシーの姿があった。
「・・・師匠、何しているんですか?」
あまりに酷い表情のため、文句も忘れて尋ねてしまった。
「はぁ、はぁ。何かやってくる。ぐぇっ、内臓を、握りつぶされているようじゃ。はぁっ、来たぞ」
僕は何も感じなかったが、ジェシーは何か感じているようだ。苦しそうにしながらも、部屋の中央を指さした。宿の床に魔法陣が広がる。
「ワ―ハッハ、ワタシが怨嗟の魔女、ジェシーなのだぞっ!?」
現れたのは、とんがり帽子に膝丈まである黒いビロードのドレス、背丈よりも長い杖を持ったツインテールの女の子だった。姿や声、口調までもが倒れているジェシーと全く同じだった。ジェシーと瓜二つの女の子は、倒れているジェシーに気づき驚いたように語尾を跳ね上げた。
立っている少女に浮かんだ表情は、生理的な嫌悪感。その言葉が合うように顔が歪んだ。
一方の倒れているジェシーは、自分とそっくりの魔女を見たことで体調が治ったようだ。苦しそうな表情が消え、立ち上がった。
「オマエ、なぜワタシと同じ顔をしている?」
魔法陣から現れた少女が発した言葉には魔力が込められていた。また、殺気のようにピリッと魔力が現象化している。
「フフ、ハハハハ。わかったぞ。私の本能が告げている。お前を殺せば先ほどの苦しみから逃れられるだろうと!」
こちらも同じく瞳孔を開き、殺気をまき散らしている。
僕は戦闘が始まる気配を感じ、二人の魔女を人のいなそうな草原へとワープさせた。
僕一人の力では対象だけをワープさせることが出来ないため、僕自身も一緒にワープすることになってしまったが。
「フン、それはこっちのセリフじゃ!オマエはここに存在してはいけないと、私の本能が告げている」
どちらともなく歩き出し、必殺の呪詛魔法を放ち始めた。魔法のあたった部分の草が毒により溶けだしている。枯れるのではなく溶けていることから、二人が放っているのは触れた部分を腐らせる魔法だろう。
さて、僕はどうしようか。結果を見届けた方が良いのだろうか。正直、先ほどの場所に戻ってシャーロット様の様子をみたいが、ここに三人をワープさせたことで僕の魔力はほとんど残っていない。むしろ、ジェシーが魔法石に組み込んだワープを応用したことでマイナスとなっている。
戻るのに2年くらいかかりそうだ。
僕が考えを巡らせている間にも、二人の戦いは過激になり、植物どころか空間までも灰色になり始めている。
怨嗟の魔女と言うだけあって、呪詛に関する魔法は得意なようだ。未来から来たジェシーの方が有利かと思われたが、強さは同じくらいのようだ。
魔力のない僕がこの場に立っているのは危険だな。仕方がない、歩いて移動しよう。
テオドールは気づかれないようにそっとその場を離れた。




