第20話 ジョシュアとクリス2
「ご婚約、おめでとうございます!」
リリィの言葉は静まり返った練武場に響き渡った。
永遠にも感じられる静寂の後、ドサッと崩れる音と甲高い悲鳴があちこちで上がった。
「手紙を確認しても良いかな?」
ジョシュアはリリィから受け取った手紙を開封し、黙読をした後静かに微笑んだ。
ゆっくりと手紙を封筒に戻し、少し考えた後クリスに向かって言った。
「実は僕、レディ・アップルとはお付き合いをしていないんです。なので、今日の決闘はなかったことにしてもらえますか」
「ではどうして昨日は付き合っているといったんだ?」
クリスはジョシュアを訝しげに見て尋ねた。
「この手紙を…、レディ・マクベスとの取次を彼女に任せていたのですが、レディ・アップルと付き合っていることにした方が何かと都合が良かったので」
ジョシュアはリリィの方を見て、これで良いのかというように目配せをした。
クリスは尚も疑わしそうにジョシュアを見ていたが、リリィはクリスが口を開く前に少し大きな声で尋ねた。
「あら、バラしたということは、レディ・マクベスとは上手くいったのですか?」
ざわついていた練武場も、リリィの言葉を聞き再び静まり返った。皆ジョシュアの答えを聞こうと耳をそばだてている。
ジョシュアは周りの人に聞こえるよう、ゆっくりと答えた。
「ああ、先ほど君が言ってくれたように、レディ・ルーラン・マクベスとの婚約が決まったよ」
ジョシュアの言葉に、最後の希望を持っていた女子生徒が倒れた。近くにいた男子生徒は助け起こそうと大変そうだ。もう誰も決闘がどうなるかを気にしている者はいなかった。
「ふふ、お役に立てて良かったです。ね、クリス。私たち付き合っているわけじゃないの。あなたが決闘を言い出した時は本当にびっくりしたんだから!」
クリスはリリィを見て、納得がいかなそうにしながらも頷いた。
「俺の早とちりだったみたいだ。決闘は取り消す」
決闘の取り消しは不名誉なことだが、クリスはリリィの顔を立てるためにためらいなく取り消しを宣言した。
「双方決闘の取り消しに異議がなさそうなので、これにて終了とする」
審判役をしてくれていた生徒が終了を宣告し、解散となった。
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学園からの帰り道、斜め後ろを歩いていたクリスがぽつりと呟いた。
「…言ってくれれば良かったのに」
恥かいたことを拗ねているのだろうか。
「私がお兄さんとレディ・マクベスとの橋渡しをしていたこと?」
リリィが前を向いたまま尋ねると小さく返事が聞こえた。
「はぁ、…ねぇ、クリス。もしもシャーロットが他の人と付き合っているかもしれないと思ったら、同じように決闘を申し込んだ?」
リリィは立ち止まり斜め後ろを歩いているクリスを振り返った。リリィの白金の髪が夕日に照らされ金色に染まっている。いつもの微笑ではなく、かといって怒っている様子でもない、感情の読めない顔でリリィはクリスを見上げた。
「さあね。…きっと申し込まなかったと思うよ」
言った後にクリスは自分の言葉の意味を脳内で繰り返した。そうだ、きっと自分は婚約者であるシャーロット・ブラックウェルが誰かと付き合っていたとしても気に留めないだろう。
「そう。あのね、私たちただの友達なんだよ」
そう言ったリリィは少し寂しそうな顔をしていた。
それは俺がシャーロットであれば決闘を申し込まないと言ったからなのか、それとも俺たちが友達だからなのか、とクリスは考えたが聞かなかった。ただ一言、そうだね、と返事をしただけにした。
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