第17話 ジョシュアとリリィ
ジョシュアが入学して3か月が経った。
学園生活も悪くないな。
ジョシュアが学園に通うのは初めてのことだった。同じ年頃の子供が集まって勉強するのは中々興味深く、滅多に体験できないことだ。
あいつらがいたらどうだっただろうか?
ジョシュアはかつての仲間を思い出した。
ふっ。トニーとヘンリーは勉強ができないだろうな。逆にユージンとレオはうまくやるだろう。
トニーは怒りっぽく、筋肉で何でも解決する男だ。スキンヘッドのヘンリーは寡黙で頭が良さそうに見えるが決断が遅く、周りに流されるところがある。黙っていれば賢そうに見えるが、頭を使うことは苦手だから学園には馴染めないだろう。ユージンは最年少で幹部になった少年だ。要領が良く頭の回転も速いため勉強も要領よくこなすだろう。そしてレオはチャラついて見えるが影で努力するタイプだから、勉強もやってないように見えて実はやってくるやつだな。
懐かしい顔を思い出し、ジョシュアは微笑した。
「見て、あの人。転入生だよ!」
「顔小っさ!」
「色白っ!」
「てゆうか、笑顔の破壊力パないっ!」
またあいつらに会えたらな。
考え込んでいたジョシュアは周囲の視線に気づかなかったが、一人の少女が近づいてくる気配を感じ、顔を上げた。
「あ、あの、ジョシュア様」
「うん?」
顔の両サイドで濃い茶髪を緩くカールさせたメガネの少女がおずおずと手に持っていたものを差し出した。
「私、アメリアと申します。ぜひ私とお付き合いしていただけないでしょうか!?」
内気そうな見た目とは裏腹に、庭中に響き渡るような大声で叫んだ。差し出されたのはピンク色の封筒だ。
「え?あの子、めっちゃ度胸あるね」
「うん。ジョシュア様に告白するだなんて、天罰が下るわよ」
「へ?違うわよ、怖いわね。そうじゃなくて、ジョシュア様は誰とも付き合わないことで有名なのに、振られに行ったって言ってるの」
「ふん!私たちのジョシュア様なんだから、当たり前でしょう!」
「ええ?って、いつの間にそんな横断幕作ったの?」
突然の告白に、周りからざわめき声が聞こえる。
「え~っと、お気持ちはありがたいのですが、まだ学校のことに手一杯でして…」
ジョシュアがやんわりと断ろうとするも、アメリアの勢いは止まらない。
「でしたら、私がジョシュア様をサポートいたしますわ!わからないことは私にお聞きくだされば問題ありませんよね!?」
くそっ。レオだったら上手く断るのだろうが、俺はこういったことに慣れていないんだよな。
ジョシュアは困った顔をしてみたが、アメリアは全く気付かないままむしろ身を乗り出してきた。
「私とお付き合いしてくださるということでよろしいですよね!?」
いちいち声が大きいな。頭がガンガンする。うーん、別に付き合うのが嫌だというわけではないが、この子はダメな気がする。
どうしようかと考えていると、ちょうど後ろを通り過ぎようとした少女が見えた。
!俺の勘が言っている。この子にしとけと。
ジョシュアは咄嗟に少女の肩をつかみ、自分の方へ引き寄せた。
「いや~、実は僕付き合っている人がいるんです。まだ付き合い始めたばかりだから内緒にしておきたかったのですが…」
そう言いつつ、抱き寄せた少女を覗き込んだ。身長差のせいで上から覗き込むようになったが、少女の薄紫色の目と目が合った。
うん?この目、どこかで見たことがある気が…。
ジョシュアが記憶を探るより先に、この世の終わりのような絶叫が聞こえた。
「そ、そんな。まさかお付き合いしている人がいるだなんて」
地面に座り込んだのは、アメリアの後ろに立っていた少女だ。
「おいっ!リリィを放せ!」
絶叫で我に返ったのか、少女の隣に立っていた男がジョシュアの腕を掴んだ。
ふむ。そこまで強くはなさそうだな。
ジョシュアは金髪の少年を見て場違いなことを思った。
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シャーロットのお兄さんが転入してきて3か月。リリィは上機嫌だった。
これで私の役割はひとまず終わったわね。
お兄さんが来てくれたから、もうじきクリスとシャーロットの婚約が破棄されるはず。あとは、あの時アジトに行ったやつだとバレないように会わなきゃいいもの。
そんなことを考えつつクリスと談笑していると、庭に黒髪の男が立っているのが見えた。
嫌な予感。気づかないふりして通り過ぎよう。
リリィは顔を背けながら歩いたが、突然肩を掴まれた。
ん?
「いや~、実は僕付き合っている人がいるんです。まだ付き合い始めたばかりだから内緒にしておきたかったのですが…」
どういうこと?なんか、とっても近くで声がするんですけど。
リリィは真後ろに立っている人物を見ようと、顔を上げた。すると、同じように自分を覗き込む男と目が合った。
黒髪に紫色の目を持つ人物。
お兄さんんん!?
リリィが思考を停止していると、いつの間にかクリスがジョシュアの腕を掴んでいた。
え?クリス??何しているの?
リリィがクリスに声をかけるより先に、クリスが口を開いた。
「リリィと付き合っているだなんて、どうしてそんな嘘を吐くんだ?」
「嘘?どうしてそう思うんですか?」
「っ!嘘に決まっているだろう!俺はずっとリリィと一緒にいたんだから」
ジョシュアの余裕そうな態度に、クリスは腕を掴む手を強めた。
「嘘じゃありませんよ。リリィからクリスさんのことも聞いていますから」
なあ、リリィ?
耳元で囁かれた言葉にリリィはぞわっとした。
どういうこと?なんか、ヘンだわ。
リリィの態度にクリスは焦った。まるでジョシュアの言葉を肯定しているかのようだったからだ。
「リリィ・アップルの名誉を守るため、クリス・フォードはジョシュア・ブラックウェルに決闘を挑む」
クリスは手袋を外し、ジョシュアに投げつけた。ジョシュアは無言で拾い、決闘を受ける意思を示した。
「決闘は明日のこの時間、練武場で行う!行こう、リリィ」
クリスは一方的に言いつけリリィの手を引いて去っていった。