第13話 シャーロットの夏休み
12話編集しました。
誤字脱字報告ありがとうございます!
『完成したわよ』
メッセージと共に小さな瓶に入った錠剤が届いた。
液体かと思ったけど、固形タイプなのね。ラムネみたいだわ。
白い薬に赤や緑といった色とりどりな固形物が混ざっている。
『お願いしたい相手に願い事を言う前に飲ませればいいわ。あなたの場合はお父さまと婚約者、もしくは婚約者のご両親に飲ませればいいわね』
え?お父さまに飲ませるの?それってかなりハードル高いわ。
シャーロットは普段父親と会わない。年に数回食事をする時に会うだけだ。
どうしようかしら。
夏休みに入ってから婚約者や友達とも会わなくなった。婚約者のクリスは領地に戻ると言っていたため、飲ませるためには会いにいかなければならない。帰ってきてすぐに婚約破棄されたら怪しまれるだろう。それに、こちらの方が立場は上だ。まずは父親に飲ませ、その後で婚約者の家に行く方が良い。
まずはお父さまに飲ませないと。
シャーロットは父親に薬を飲ませるタイミングを推し量っていたが、機会がないまま夏休みも後半に近づいてきた。
せっかくの夏休みなのに、結局何もできなかったわ。薬を飲ませるためにずっと家にいたのだけれど、それもできていないし。前回結婚したのは19歳の時だったわね。あと5年あるんだし、それまでに飲ませれば良いわよね。
シャーロットは立ち上がり、一人で頷いた。
そうよ。何も貴重な夏休みを潰さなくてもいいじゃない。このままだと、休み明けにリリィたちに話せることがなくなってしまうわ。
そう考え、シャーロットは近くに控えていた侍女アンへ宣言した。
「今からエスメラルダへ行くわ。準備して頂戴」
「かしこまりました」
アンは何の疑問も口に出さず、すぐに準備に取り掛かった。
本当に優秀な侍女だわ。
アンは数少ないシャーロットが心から信頼できる人物の一人だ。
前々世ではお嫁に行ってからほとんど会えなかったけど、また一緒に過ごせて嬉しい。
「お嬢さま。すべての準備が整いました。2時間後に出発する汽車へお乗りください」
アンはシャーロットが指示してから10分ほどで戻ってきた。
早すぎない?
見ると、馬車にはすでにたくさんのトランクが積まれ、護衛の準備も終わっていた。
「…ありがとう。行ってくるわね」
何日行くという指示もしなかったが、荷物の量を考えると残り全ての休み期間を過ごせそうだ。シャーロットの言葉にアンはとびきりの笑顔を向けた。
「はい!どうぞ楽しんでいらしてくださいませ!お土産話をお待ちしておりますわ」
こうしてシャーロットは隣国の保養地へ向かった。
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「少し焼けたかしら?」
ビーチベッドに寝そべりながらシャーロットは呟いた。ここエスメラルダは暑いが空気が乾いており、綺麗な海と陽気な人々が人気となっている。シャーロットがいるのはブラックウェル侯爵家が保有する別荘の内の一つだ。プライベートビーチのため、シャーロット以外に人はいない。
「う~ん。そうだわ、お前たちも海で遊んでいいわよ」
シャーロットは護衛と侍女たちに声をかけた。
「ですが、私たちは警護をしないといけませんので」
「ここはプライベートビーチだから、別荘の管理人に任せておけばいいわ。それよりも、一人でこうしているのも退屈なのよ。賑やかな方が落ち着くわ」
シャーロットの言葉に、護衛は悩んでいる様子だった。
「オリバー、あなたもよ」
我関せずといった顔で佇んでいたオリバーにも声をかけた。
「…承知いたしました」
シャーロットがじっと見つめると、オリバーは観念したかのように首を縦に振った。専属護衛の様子を見て、悩んでいた他の人たちも抵抗を諦めた。
ふふ。ここまで来て見ているだけだなんて、可哀想だものね。これこそ夏、という感じだわ。
シャーロットは海ではしゃぐ人たちを見て、満足そうに微笑んだ。
それにしても、皆筋肉がすごいわ。騎士だけじゃなくて侍女の腹筋も割れてるなんて。
シャーロットは自分のお腹を見た。すべすべの柔らかそうなお腹だ。
私も筋肉付けようかしら。
後日使用人たちのトレーニングルームへ行ったところ、全力で止められてしまった。
「貴族女性のお腹が筋肉でバキバキだったら残念に思われてしまいますよ!」
というのが彼らの言い分だ。
シャーロットは残念に思いつつも、壁に貼られた『1日腹筋30セット、腕立て300回、背筋500回、スクワット300回、素振り1000回』という目標と片手で80キロのダンベルを持ち上げている騎士を見て、潔く諦めることができた。