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夏詩の旅人

ジョーカー(夏詩の旅人 「風に吹かれて…篇」3話)

作者: Tanaka-KOZO

 1987年、6月中旬


僕の、元バンドメンバーだったマサシとハチ率いる、ビジュアル系ロックバンド、“ベルサイユ・ローゼス”が、6月3週目の週末に、新宿JIMで行われた2DAYSライブを無事終了させた。


いよいよ来週末には、東京圏外へ初進出の名古屋ライブを行うマサシとハチ。

彼らは、名古屋遠征の前にタワレコが発行している音楽情報フリーペーパーマガジン「バウンス誌」から取材を受ける事になった。



 タワレコ本社 バウンス編集部内

※現在の編集部は、渋谷店の最上階9Fにあるが、当時はまだタワレコ渋谷店は、東急ハンズ近くのサイゼリアの上にあった。



「いやあ~キミタチ、いいねぇ~♪、オモシロイよぉ~!、ビジュアル系ロック!、サイコーだねぇ~♪」

バウンスの取材担当者が、マサシとハチをおだてる様に、持ち上げる。


「ビジュアル系ロックは、日本独自のスタイルですけど、イギリスでは既に、デヴィット・ボウイを始め、ニューウェイヴのバンドらが始めてますね。カルチャークラブなんかが、代表的だと思います」


マサシが得意げに、取材に答える。


「ところでキミタチさぁ~、レコードデビューとか、してみない?」(バウンス編集者)


「えッ!?」と驚く、マサシとハチ。


「まぁ…、正確に言えば、CDデビューなんだけどさぁ…、でも、ソノシートやカセットテープなんかじゃないよ、ちゃんとレコーディングして、全国にプレス販売するんだよ」(バウンス編集者)


「僕らにレコード会社から、誘いが来てるんですか!?」(前のめりのマサシ)


「いや、違うよ…。今度、タワレコで、独自のレーベルを立ち上げる事になったんだよ。名付けて、“バウンス・レーベル”って、言うんだけどさ…」


「インディーズで活躍してる期待の新人を発掘して、そのアーティストのCDを全国で販売するんだよ」


バウンス編集者が、彼ら2人に言う。


「全国デビューですかぁ…!?」

目を輝かせて言うハチ。


「でも、タワレコだけの独占販売になるけどね…。だけど全国デビューには変わりないよ♪」(バウンス編集者)


「おお…、お願いしますッ!、ぜひッ!」

そう言ってマサシとハチは、編集者に深々と頭を下げた。


「ところでさぁ…、キミタチ2人は、どこで知り合ったの?、どういう経緯で2人は、バンドを始めたのかな…?」(バウンス編集者)


「僕らは小学生からの幼馴染なんです。僕らは小5の時に、同じ空手道場に通ってまして、そこで知り合ったんです」(マサシ)


「へぇ…、そうなんだぁ?」(バウンス編集者)


「小学校までは別々の学校でしたが、中学生になると同じ学校になりまして、そこで当時、音楽に興味が出て来た僕らは、バンドでも始めようか?、みたいなノリで、やり出したのがきっかけなんです♪」(ハチ)


「へぇ…、キミタチは空手も出来るんだぁ?」、ならバンド狩りに襲われても、キミらなら安心だね?」(バウンス編集者)


「バンド狩り…?」と、マサシとハチが言う。


「ほらぁ…!、最近、東京や、名古屋で多発してるじゃない?バンド狩りが…。結構、問題になってるみたいじゃない…?」(バウンス編集者)


「あ~あ!、バンド狩りねぇ~!」

マサシが、大きく頷き、思い出すかの様に言う。


「そんなやつらにビビッてたら、ロックなんてやってけませんよ♪」(ハチ)


「大体、僕ら、そんなやつらに出会った事なんて、ありませんよぉ…」(マサシ)


「俺たちに、ビビッてんのかなぁ…?(笑)」(ハチ)


「ははは…、そうかも…?、俺とハチのコンビネーションで戦えば、そんなバンド狩りしてるダセェやつらなんかには、負けませんよ!(笑)」(マサシ)


「おっ♪、カッコイイねぇ~キミタチ…(笑)、“カラテ・ミュージシャン最強伝説!”なんて売り出し方しちゃったらどうかな…?、ははは…(笑)」(バウンス編集者)


「来るなら来やがれッ!(笑)」

そう言って、笑顔で突きのポーズを取るマサシ。


「あ!、そのポーズ良いよぉ♪、ちょっと写真撮らせて…はい、2人寄って、そのまま…、はい、ファイティングポーズ取ってぇ…、はい、チーズッ!」


編集者はそう言って、カメラのシャッターを押した。


カシャッ!


「なんか、面白そうな記事が書けそうだよぉ~♪」(バウンス編集者)


「バンバン、宣伝しちゃって下さいッ!(笑)」(ハチ)


「その本、いつ出るんですかぁ…?」(マサシ)


「バウンスは隔週発行だから、7月の頭には、店頭に並んでるよ(笑)」(バウンス編集者)


「そっかぁ…、来週の名古屋遠征の事は、間に合わないか…」(マサシ)


「でも、遠征から帰って来たら、CDデビューの事は書くから話題になると思うよ…」(バウンス編集者)


「しょうがないか…?」

そう言って、マサシに言うハチ。


「東京へ戻ってからの凱旋ライブは、もう決まってるの?」(バウンス編集者)


「はい!」(マサシとハチ)


「また、“尾根裏”で?」(バウンス編集者)


「いえ…、次は“エッグメン”です!」(ハチ)


「ほぉ…、ハコの大きさをアップするんだねぇ…?、よし、その事も、インタビュー記事に書こう!」(バウンス編集者)


「宜しくお願いします!」

マサシとハチは、編集者にそう言う。


こうして、その日のバウンス誌の取材は終わるのであった。



6月下旬

名古屋ライブハウス“GEON”


演奏が突然中断したライブハウス内は、ザワついていた。

それは道化師のメイクをした男たちが、オーディエンスに、「どけぇッ!」と叫んだからである。


その男たちに道を譲るオーディエンス。

道化師たちは、そのままその間を抜けて、ステージ上で演奏を止めているビジュアル系バンドの方に向かい、歩いて行く。


「軟弱な音楽やりよって…」


オールバックの髪型をした、その中のリーダーらしき男が、そうボソッと呟くと、男はそのままステージへ上がった。


「なんだよアンタらは…?」

ステージに立つボーカルが、ビビリながら男に言う。


ドカッ!


「ぐッ…!」

道化師に、腹をイキナリ蹴られたボーカルがうずくまる。


「誰に口聞いてんだらッ、たあけッ!」

そう言ってボーカルの前髪を鷲掴みする男。


「あんなぁ…、オミャーらみてぇな、チャラチャラしたやつ見っと、はらわた煮えくり返るんだぎゃぁッ!」

そう言って、ボーカルの腹にボディーブローを喰わす男。


ドスッ!


「うッ…、うううう…」

腹を押さえて跪くボーカル。


殴った男は、ボーカルを数秒見下ろすと、突然オーディエンスに振り返り、明るい笑顔で叫び出した。


「パンパカパァ~~ン♪、レディス・アンド・ジェントルメン!…、お待っとさんしたぁ~!、これより、断髪式やろまいとおます~!」


男の呼びかけに困惑したオーディエンスは、互いの顔を見合わせ、またもやザワつきだす。


「ほれ!、オミヤーら、正座しろ、正座!、分かっとんな?、せ・い・ざ…、早よ!、早よ!」(リーダーの男)


「いッ…、いやだッ!」


「やめてくれッ!」


悲壮感が漂う声で、ステージのバンドメンバーたちが、口を揃えて言う。


「なら、足腰立てなくなるまで、殴るだけだぎゃぁッ!」


ピエロのリーダーがそう言うと、道化師の集団がバンドメンバーたちへ、一斉に襲い掛かった!


ドカッ!


バシッ!


ビシッ!


「うああああ…ッ!」


「ひぃいいいいッ!」


「やめて…ッ!」


バキッ!


ボカッ!


ドスッ!


「分かったからヤメテくれぇぇ…」(バンドマンA)


「何が分かっとんね?」(道化師リーダー)


「正座するよぉ…、うぅぅ…」


そう言ってバンドマンたちは大人しくなった。

そして彼らはステージ上で、横一列に正座をさせられた。


「ハサミ…」

道化師のリーダーが、仲間に右手を差し出して言う。


ジャキ…


ジャキ、ジャキ、ジャキ…


道化師のリーダーが、目の目で正座するボーカルの髪を、無造作にハサミで切り落とす。


いやぁ~やめてぇ~!


女性客から悲痛な叫び声がする。


「ううぅぅ…」(身体を小刻みに震わせ、悔し泣きのボーカル)


ああ…、チャーリィィ~~!


ボーカルのファンだと思われる女性客たちが、その仕打ちを見て泣く。


「へへへ…」


道化師リーダーは、不適な笑みを浮かべながら、チャーリーと呼ばれたボーカル男性の髪を切り続けるのであった。



 道化師のメイクをした男たちは4名のグループであった。

彼らは名古屋を拠点とするパンクバンド、“JOKER(ジョーカー)”のメンバーである。


リーダーでボーカルの、サジを中心とした過激なライブ活動を展開して来たバンドだったが、余りにも横暴で破壊的なステージパフォーマンスを繰り返す為、やがて彼らは名古屋のライブハウス全てから、締め出しを喰らう事となった。


 そして、その時期と同じくして、昨今ブームとなりつつある、“ビジュアル系”を名乗るロックバンドが、ライブハウスを盛り上げている事に、ジョーカーのサジが腹を立て、それらのバンドをターゲットにした、“バンド狩り”を始めたのであった。



 ジョーカーたちの断髪式が終わった。

先程まで、華やかな衣装でステージに立っていたバンドマンたちは、全員、無残な虎刈り頭にされていた。


「ほれ!、オミャーら、行こめぁー!」

リーダーのサジが仲間にそう言うと、ジョーカーの連中は満足な顔をして、引き上げて行くのであった。



 7月に入った。


渋谷 ダイニング“D”の店内


「こーさん、これ…」

バイト仲間で、ウェイトレスのヤマギシあゆみが、彼に1冊の雑誌を渡す。


「あん…?」

そう言って、ヤマギシから雑誌を受け取る彼。


「今週の“バウンス”…」

ヤマギシが、雑誌を開いて見ている彼の側で言う。


「バウンスって…?」(彼)


「タワレコが、月に2回発行してる音楽情報誌…」(ヤマギシ)


「ほぉ…」

彼はそう言って、そのモノクロのフリーペーパーをパラパラとめくる。


※発行当初のバウンスは、モノクロであった。オールカラーになるのは、1994年頃だっと思う。


「何か、気が付かない?」(ヤマギシ)


「何かって…?」(彼)


「ほら!、この、“ベルサイユ・ローゼス”ってバンド!、この、カラテポーズ取って写ってる2人って、この前、店に来てた、こーさんのバンドメンバーだったコたちじゃない?」(ヤマギシ)


「え!、ウソッ!?…、マジ!?」

彼がそう言って、バウンス誌を食い入る様に見る。


「ホントだ!、マサシとハチだ!」

“ベルサイユ・ローゼス”の記事を見て彼が言う。


「あいつら、何でタワレコの雑誌に出てんだぁッ!?」(彼)


「タワレコ限定で、CDデビューするからじゃないの?…、ほら、そこに書いてあるでしょ?」(ヤマギシ)


「ホントだぁ…、すげえなアイツら…」(記事を読む彼)


「ちょっと早すぎない?」(ヤマギシ)


「早い…?」(彼)


「こーさんのバンドを辞めたいって、この店に現れたのが5月で、6月には、もうライブやって、名古屋に遠征したり、雑誌の取材受けたり、CD出したりと、おかしいと思わないの…?」(ヤマギシ)


「あいつらの目指してた音楽スタイルの、“ビジュアル系”ってやつが、狙い通りに当たったって事かぁ~?」

そう言って感心する彼に、ヤマギシあゆみは「ダメだこりゃ…」と、崩れるのであった。



 翌日

新宿、音楽スタジオ“P”


「へぇ…、マサシとハチがCDデビューかぁ…」

スタジオ内で、彼から渡されたバウンス誌を見る、ギタリストのカズが言った。


この日は新宿のスタジオで、カズの高校時代の後輩2名を入れて、彼らはバンド練習をしていた。

※後輩は、ベースとドラムをそれぞれ担当


「見せて♪、見せて♪」

自分にも見せろと、ジュンがカズからバウンスを奪う。

そして彼女は、マサシとハチが出ている記事を読み始める。


「あいつらスゲェよなぁ?」

彼が、バウンスを読んだカズに笑顔でそう言う。


「まったく…、お前はオメデタイやつだよな…」

カズが彼に呆れ気味に言った。


「何が…?」(彼)


「5月にバンド抜けたやつらが、何で新しいバンド組んで、スグにCD出せるんだよ!?」

「つまり、あいつらは俺たちとバンドを組んでた時には、既に別のバンドで活動してたって事だろ!?、俺たちを股にかけてて、活動してたってことだろぉッ!?」


ピンと来ない彼に、イラつき気味のカズが言う。


「それが、どうした?」(彼)


「はぁーッ!?、お前、二股掛けられてて、頭来ないのかぁ!?」(カズ)


「別にぃ…」(どうした?という感じの彼)


「かぁーッ!、信じらんねぇッ!」(天井を仰ぐカズ)


「お前だって、この前、二股掛けようとしてたじゃんか!、たまたま未遂に終わっただけで…、今度ヨリコ(※カノジョ)に会ったらバラすぞ!」(彼)


「ヒィ~~~~ッ!、待てッ!、それは困るッ!」(うろたえるカズ)


「なぁカズよ…、他人(ひと)の成功を素直に喜べない様なやつじゃ、自分が幸せになんか成れねぇぞ」(彼)


「お前は悔しくないのかよ!?」(カズ)


「俺は何とも思わないね…。俺は、他人(ひと)が、どんな車に乗ってても、どんなブランド着ようと、金持ちに成ろうと…、俺は、まったく気になんないよ…」(彼)


「俺は、お前と違ってハングリーだから、そういう風には考えられないね!」(カズ)


「俺は別に、ハングリー精神は否定しないよ。俺が言いたいのは、他人(ひと)の成功を自分の立場と、いちいち比べて、ねたんだり、ひがんだりしてたら、いつか己が成功したとしても、心が貧しいままだから、幸せの実感を味わえなくなるぜって事さ…」(彼)


「ふぅ~~ん…」

カズが彼の話を、不承不承と聞く。


「お話し中、ごめんなさい…、こーくん、この記事ちゃんと全部読んだの!?」

ジュンが突然、2人の中に割って入って来た。


「さらっと、目を通しただけだけど…」(ジュンに答える彼)


「ここを見て!…、ほら、マサシとハチがバンド狩りをしてるやつらを挑発してるのよ!」

ジュンがその箇所を指して言う。


「ホントだぁ!、『来るなら来やがれ!、俺たちはカラテ・ミュージシャンだ!』だってよ…」

カズが記事を読み上げて言った。


「大丈夫なの!?、こんな事、言っちゃって…ッ!」

不安な表情のジュン。


「まずいな…、サドンデスの連中に、この記事のこと気づかれないと良いけどな…」

マサシとハチの挑発行為に、彼もジュンと同じく、不安を抱くのであった。



 バンド練習後の帰り道

彼は、帰りが同じ方向のジュンと2人で、西武新宿駅に向かって歩いていた。


(マサシの次のライブが渋谷のエッグメンなら、やつらの襲撃に合う可能性があるな…)

彼が考え事をしていると、隣を歩くジュンが突然言い出した。


「ねぇ…?、夏休みになったら、バンドのみんなで海に行くんでしょ?」

バンドメンバーが、毎年恒例で行っている海水浴の事を、ジュンが急に言い出した。


「そうだな…?、8月になったら行くんじゃねぇの?」

彼がジュンに、そう応えた。


「私、新しい水着買おうっかなぁ~て、思ってたの♪」(ジュン)


「そうなんだ…?」と彼

ジュンは、今年の1月になってからバンドに参加したので、みんなで海水浴に行くのは初めてになるのだ。


「明日さぁ、バンド練習前に高野に寄るから付き合ってよ♪」

明日もバンド練習を新宿でやる事になっていたので、ジュンは彼にそう言った。


「やだよ…」(彼)


「1人じゃ恥ずかしいのッ!」(ジュン)


「友達と行け…」

彼がぶっきらぼうに断る。


彼の頭の中では、今はそんな事を考える余裕がなかったのであった。




「ヤロウ…ッ、舐めやがってぇぇ…ッ」

仲間から渡されたバウンスを手に、サドンデスの池田ジンは、マサシとハチの記事を見て怒り狂っていた。


池田は力任せにバウンスを引き裂くと、ベッドの横にあるゴミ箱へそれを投げ捨てた。


ピピピピピ…ッ、ピピピピピ…ッ…


その時、池田の部屋の電話機が鳴った。


「おう、俺だ…」(自室の電話に出る池田)


「ジン、やっとかめ…、元気しとったか…?」(※電話の主)


「おおッ!、サジかぁッ!?、久しぶりだなぁッ!」

ジョーカーサジからの電話に、池田が声を弾ます。


サドンデスの池田とジョーカーのサジは、なんと友人であった。


2人は、2年前に東京新宿で開催された「ジャパン・ハードコア・パンクフェスティバル」の出演を機に、親交を深める様になった。


互いに、破壊的でバイオレンスな楽曲と性格が、意気投合したという訳だ。



「そうかぁ…、サジに頼んどけば良かったぜ…」

池田が突然、電話口のサジに言った。


「何だん?、どうした?」(サジ)


「実はな……」


池田がサジに、バンド狩りをおちょくったベルサイユ・ローゼスの事を説明する。



「ほぇ…、怒れる、たあけじゃのぅ…」

池田ジンからの説明を聞き終えたサジが言う。


「こいつら、先週末は名古屋に行ってたんだ。事前に分かってりゃ、サジに襲撃して貰ったんだがな…、クソッ!」(池田)


「のお…、このショッタレ、名古屋のどこで、ライブやっとたんじゃ?」(サジ)


「E.L.L.(エル)って、ハコでやったらしい…」(池田)


「ほっかぁ、E.L.L.(エル)か…、俺、先週末は、GEONに行っとった」(サジ)


「ほぉ…、ライブか…?」(池田)


「ちゃッ、ちゃッ…、バンド狩りじゃん!、こっちも、ナルイ音楽やっとるやつおっての…」(サジ)


「こっちもだ…。一緒だな…?(苦笑)」(池田)


「ジン…、今度そっち行くでな…、東京に用あっての…」(サジ)


「東京へ…?」(池田)


「妹の結婚式があるだもんで…」(サジ)


「ははは…!、お前の口から出るセリフじゃねぇな!(笑)、妹の相手がお前を見たら、破談になるんじゃねぇのか?(笑)」(池田)


「おめ!、ちょーけるなッ!(笑)」(サジ)


「こっち(東京)には、いつ来るんだサジ?」(池田)


「来週末だがや」(サジ)


「そりゃあ丁度良い!、じゃあよ、東京に来たら俺たちと一緒に、このベルサイユ・ローゼスってやつらをシメに行かねぇか?」(池田)


「そいつら、週末にライブやっとんのか?」(サジ)


「そうだ…、渋谷のエッグメンで、午後の4時からワンマンでやるらしい…」(池田)


「ほっか、なら俺もスケるやぁ…、ジョーカーのツレと一緒に、行こまいじゃん!」(サジ)


「ありがてぇ…、それと、ついでに手伝ってもらいてぇ事があるんだ…」(池田)


「何だん?、手伝うって…?」(サジ)


「最近、俺たち(サドンデス)に報復して来るやつが現れた…」(池田)


「サドンデスにか?」(サジ)


「そうだ」(池田)


「大した度胸だに…」(サジ)


「そうなんだが、ウチのニトベと井之上がやられた」(池田)


「ホントかッ!?」(サジ)


「ああ…、不意討ちだが、やられたのは確かだ。敵は木刀を使って来るらしい…」(池田)


「ほんなら、俺らも木刀持っといた方が、ええのお…」(サジ)


「そうだな…、俺たちも今後は、木刀を持参する事にしよう…」(池田)


「何か、おもろなって来たの?、楽しみだぎゃ(笑)」(サジ)


「ジョーカーが加われば、鬼に金棒だ!、頼んだぜサジ!」(池田)


「まかしときやぁ…(笑)」(サジ)


こうして、ベルサイユ・ローゼスのエッグメンライブは、池田ジンとサジによって、襲撃される計画が立てられたのである。



翌日

渋谷、ダイニング“D”


「あれ?、今日は、こーさんは…?」

バイト先に出勤して来た、金髪ソフトモヒカンのタカが、同僚ウェイトレスのヤマギシあゆみに言った。


「今日は休みみたいよ…。バンドの練習があるとか…?」

ヤマギシが言う。


「そっか…、ヤスは…?」(タカ)


「ヤスも休み…。K大のDJパーティーが、「KAVE」であるんだって…」(ヤマギシ)


「ふぅん…」

タカは、そう言うと、客のオーダーを取りにホールへと向かった。



 金髪をソフトモヒカンヘアーにしたタカ。(※スキンヘッドにしてた時期もあった)

秋田県出身、中学時代は不良で、別名“大曲の金狼”と恐れ(煙たがら?)られていた(笑)


高校時代は、ラガーメンで、体格は細マッチョ。

左耳にはピアスをし、顔は俳優の三上博史が、少し機嫌悪そうにした時の様な顔。

口数が少なく、たまに笑う時は、ニヒルな笑みを浮かべる。


彼は大学の浪人中でワシダ大の政経を目指していた。

現役でワシダの文学部に合格するも、希望の学部ではなかったので、彼は浪人する事を選んだ。

僕が一浪して大学に合格してるので、彼が現役で大学に行っていれば1コ下の同級生になった訳だ。(※バンドのギタリスト、カズと同い年)


現在、僕は大学2年になったので、彼は二浪に突入しているのだが、そもそも今年の春には受験をしていなかった。

つまり、よくあるパターンで、そのままフリーターになってしまったというやつである。


 タカと初めて出会ったのは、去年の4月であった。

僕より少し遅れて、ダイニング“D”に採用された彼は、当時、私服はDCブランド系のおしゃれな服装をしていた。

現在は金が無いのか?、DCブランドから、ダボッとしたダンサー系のファッションをしている。


人見知り(※愛想が悪いとも言う 笑)な彼は、当初、バイト先では誰とも喋っていなかった。(※周りが怖がっていたという説もある 笑)


一方、僕は彼とは真逆で、誰にでも気軽に話しかけるタイプであった。

当然、タカにも話しかける。

そしたら、意外と喋るやつだった!(笑)


そして外見とは裏腹に、実は孤独を好まない、寂しがり屋なところがある様な気がした。(※集団行動は好まないが…)


意外な面は、他にもあった。

見た目(※失礼!)と違い、勉強からサブカルまで知識が豊富で、頭が切れるやつだった。


見た目(※失礼!)と違い、女には一途で、古風な面もあり、ナンパとか合コンとか、キャバクラ、フーゾクなるものは、一切しない。


見た目(※失礼!)と違い、書面による挨拶文や礼状が、きちんと書けていた。(※まだネットが普及してない時代だから、今みたいに簡単に調べられないのだ)


 彼は僕より年下であったが、いろんな事を教わった。

僕の好んだファッションの、オクトパスアーミー、ケント、ニューヨーカーなんてのは、タカから教えて貰った。


そのうち、どんどんおしゃれになった僕は、オクトパスアーミーや、ケントで買い物をしていると、店員に間違われる程、ファッションセンスが成長した(笑)


夜になるとセンター街には、シルバーアクセの露店が出て来る。

ガイジンさんが売ってるのが多くて、タカの影響で僕もそこで買うようになった。

僕はピアスの穴を開けるが嫌だったので、シルバーのリングや、ハワイアンコナを使った?、ブレスレッドなどを好んで買っていた。


スキンケア化粧品なんかも、彼から教わった。

当時は男は、せいぜいコンビニで売ってるムスクの香水とか、シーブリーズ辺りであった。

だけどタカからレクチャーされた僕は、西武1Fのクラランスとか高い金払って使っていたのだ。

オードトアレもジバンシィとか使ってたな…?(笑) (※現在は、ブルガリ)


お陰で、56歳になろうとしているのに、肌が綺麗で皺が無いと言われる。

母親の買い出しに付き合って行くと、母親の知人から「お孫さん…?」と聞かれる(笑)

やっぱスキンケアは20代までにやらないとダメなんだなぁ…と、今更ながらに、思うのであった。


 お酒や食べ物に興味を持つようになったのも、タカの影響だった。

一体、どういう高校時代を送っていたのか?と、思いたくなるほど、彼は酒に詳しかった。


特に日本酒の知識が豊富で、彼から日本酒専門の居酒屋“祭りばやし”とか、教えて貰った。

鯨肉専門の居酒屋“くじらや”も彼から教わった。

食べログとか無い時代なのに、どうやって見つけたんだろう?

自ら足を運んで、開拓して行ったんだろうね?


大学生なんて普通は、安くてハラにたまれば何でも良い世代である。

よって炭水化物系のつまみが多い。

だけど彼は、そういった食べ物も、あくまで酒のつまみとしてこだわっていた。


たたみいわし、トコブシ、めばる、太刀魚、知らんがなそんなもん!(笑)、みんな彼から教わった。


僕の好きなミュージシャン、THE BOOMも彼から教わった。

当時、肌を黒く焼くのが流行り出したときも、初めて日サロに連れて行ってくれたのもタカであった。


彼は、三軒茶屋の安いアパートに住んでおり、そこは玄関も、炊事場もトイレも共同で、当然、風呂などない。


タカは毎日、10分100円?とかの、コインシャワーを浴びてからバイト先に出勤していた。(銭湯がまだ開いてないので)


そこで、夜の風呂代わりに、2人でセンター街の日サロによってから、その後、一緒に酒を飲むという生活が続いた。


三茶にある彼のアパートに泊まった事も数回あった。

でも狭くて寝る場所がないので、外へ飲みに出かけた。


飲みに行く場所は、三角地帯と呼ばれる、三茶の有名な飲み屋街で、良い雰囲気で惣菜が美味い店があって、そこへよく彼と2人で飲みに行った。


その店は、ジャニーズタレントがお忍びで利用していた様で、深夜に行くと、よく彼らと相席になったりした。

特にギターのYチャンなんかは、行く度にお会いして、男闘呼組のベースのTさんも会った事があった。


 とにかく、タカは見た目(失礼!※こればっか 笑)と違って、律儀で古風で、そしてキレたら怖いやつであった。


タカがキレたで思い出したが、以前、居酒屋へ飲みに行った時、エレベーターを降りたら、どっかの大学生の団体が、入口前に50人くらい居たんだよね。


「あ~、この人数が先に待ってたんじゃ、この店には入れないなぁ…」なんて、タカと話してたら、突然、その中の1人がタカに「ドン!」って、ぶつかったのだった。


その学生は仲間とはしゃぎまわっていて、タカにぶつかったのに、そのまま仲間とはしゃぎ続けてたんだよね。(現在でも良くいますよね?、そういうおバカさん)


そしたらタカがキレちゃって、「テメェッ!」と、おバカさんの胸倉つかんで怒っちゃった。

だけど、そのおバカは、自分らは50人も居るもんだから、挑発的な口調で、「ごめんねぇぇ…、ごめんねぇぇ…」と、からかってくるワケよ。


そこで、そのおバカさんに見かねた僕が、「キミ、ぶつかっておきながら、その態度は失礼ではありませんか?」という意味を伝えましたら、その学生さんたちは、まるで僕らの事を、“悪くてアブナイ人たち”を見るような目で、急いで頭下げて、その場から消えてしまうのでした。


僕とタカは、「ああ良かった♪、居酒屋に待たずに入れたね!?(笑)」といって、その店で、飲んだのでした。(めでたし…、めでたし… ?)


タカの事を事細かく書いてみたが、こうして考えてみると、彼がいかに僕の人生において、影響力が強かったのかと、改めて思い知らせれる次第である。



 長くなったが、場面は再び渋谷のダイニング“D”


PM10:00


「お先に失礼しまぁ~す♪…、お疲れ様でしたぁ…」

今日の勤務シフトが終わったヤマギシあゆみが、バイト仲間に挨拶をした。


「ヤマギシ…」

するとタカがヤマギシに小声で言う。


「何?タカさん?」(ヤマギシ)


「今日、軽く行かないか?」

タカが御猪口を口に運ぶジェスチャーをしながら、ヤマギシを飲みに誘う。

今日は、彼とヤスが居ないバイト日だったので、タカはヤマギシを誘ったのだ。


「ごめ~ん…、これからミッチー(※カレシ)と、会う約束してるんだ」

申し訳なさそうにヤマギシが言う。


「そっか…」

タカはそう言うと、“うんうん…”と無言で頷き、その場を後にした。


その後ろ姿を見つめるヤマギシ。

彼女は、タカの背中に向かって声を掛ける。


「ミッチーが一緒でも良い?」(ヤマギシ)


「あん…?」(振り返るタカ)


「ミッチーが一緒に、飲みに連れてっても良い?」(ヤマギシ)


「いいよそんな…、ワリィよ…」(タカが困惑する)


「いいよ気にしないで…、いつも2人だから、たまには違う人も混ぜて飲んでみたいの♪」(ヤマギシ)


「俺は構わないけど…、ホントに良いのか…?」(タカ)


「うん…、その代わり“HUB”はダメだよ。私、ご飯食べたいから…(笑)」(ヤマギシ)


「分かった!、とっておきの店を2人に教えてやるよ!(笑)」(タカ)


「ほんと~!、楽しみぃ~♪」

ヤマギシが笑顔でそう言うと、その後、2人はセンター街へと向かうのであった。



PM10:18

タカとヤマギシは、センター街を歩いていた。


「じゃあ、ちょっとミッチーを迎えに言って来るから、タカさんはここで待ってて!」

笑顔のヤマギシはそう言うと、カレシと約束してる待ち合わせ場所へと向かって行った。



待ち合わせ場所に着いたヤマギシあゆみ。

だが、そこにはカレシの姿が無かった。


「おかしいな…?」

ヤマギシはそう言って、辺りをキョロキョロする。


「あ!、いた!」


すぐ近くでカレシを見つけたヤマギシが、駆け寄ろうとした。

だが彼女はすぐに足を止めた。


ベースケースを肩に掛けた、カレシのミッチーの様子が変だと感じたヤマギシ。

それは、ミッチーを取り囲む様に、パンクスの男たちが居たからである。


(誰…?、あいつら…?)

ヤマギシは不安な表情で、その状況を見つめる。


「だからテメェも、ビジュアル系ってやつなんだろぉッ!?」


パンクスグループのリーダーらしき男が、ミッチーにそう言った。

その男は、背が低く小太りで、丸刈りヘアーをしていた。


「うるせぇな…」

ミッチーが睨みながら、ボソッと丸刈りに言う。


「んだと、コラァッ!」

丸デブが怒鳴った!


(どうしよう…ッ!?、どうしよう…ッ!?)


ソワソワし出すヤマギシ。

彼女は、ミッチーがやつらに因縁をつけられてるのだと理解した。


「ちょっとツラかせよぉッ!」

丸デブはそう言って、ミッチーの腕を掴み、彼をどこかへ連れて行く


慌てて駆け寄るヤマギシに、ミッチーが気が付く。

ヤマギシの足が止まる。


それは彼が、気づかれない様に、アイコンタクトで『こっちに来ちゃダメだ!』と伝えたからである。


ヤマギシは、胸の中がざわざわし出す。

彼女はやつらに勘づかれない様に、尾行する。


するとヤマギシは気付くのだった。やつらがサドンデスだと…!


やつらの黒革ジャンの背中の刺繍…。

そこには、“Sad On Death”(※サドンデス)という字が、あったのだ!



〝建設予定地 立入禁止”と、杭で打ち付けられた看板のある、ちょっとした更地へ、ミッチーは連れ込まれた。

そこは奇しくも、前回、サドンデスの井之上がヤラレた空き地であった!


(そうだッ!、待っててミッチーッ!)

ヤマギシあゆみは、そう思うと急いでタカの元へ走り出した!




「タカさん助けてッ!、ミッチーがぁ!」

ヤマギシあゆみは、タカのところまで戻って来るなりそう叫ぶ。


「どうした!?」

尋常じゃない彼女の慌てぶりに、タカが聞く。


「サドンデスッ!、サドンデスの連中にミッチーがッ!」(ヤマギシ)


「何でお前のカレが、やつらにッ!?」(タカ)


「分かんないッ!、分かんないようッ!、とにかくミッチーが絡まれて、この先の狭い空き地に連れ込まれたのッ!」(ヤマギシ)


「空き地…ッ!?、もしかして、○○の近くの、あそこかッ!?」(タカ)


「うん、そこ…ッ!」(ヤマギシ)


「分かったッ!、俺は先に行ってるぞッ!」

タカはそう言うと、ミッチーが拉致られた空き地に向かって走り出す!


(クソッ…!、よりによって、こーさんたちが居ない日にサドンデスとは…ッ!)


タカが人混みをかわしながら、走り続ける。

ラガーマンだったタカは足が速い。瞬く間に現場に到着した!



(アレだな…ッ?)


タカはミッチーと面識は無かったが、ミッチー以外は全員パンクスだったので、すぐにヤマギシのカレが分かった。


「テメェら…、ここで何やってんだよぉ…?」

タカの低音でドスの利いた声が、やつらに向けられた。


「何だよ、お前…?」

パンクスの中の1人が、タカに恐る恐る言う。

絡まれていたミッチーも、状況が分からず、あたふたする。


彼らからしてみたら、いきなり金髪にガングロで、アスリート体形の男が目の前に現れたから驚いたのだ。

その得体の知れない男は目つきが悪く、見るからに狂暴そうな顔をしていたから尚更である。


「お…、お前よぉ…、俺たちはサドンデスって言ってなぁ…」(パンクA)


「知るかッ!」(タカ)


ガンッ!


「ぐッ!」(パンクA)


パンクスの1人が言いかけてる途中で、タカがいきなりやつの顔面に強烈な右ストレート!


「なんだぁッ!?」

イッパツでのされた仲間を見て、丸デブが驚く!


「うわぁぁ…、木刀ッ!、木刀ッ…!」

残りのチンピラ3人が、慌てて袋から武器を取り出そうとするが、タカの攻撃の方が早かった!


ドスッ!(腹に蹴り)


「うッ!」(パンクB)


ガンッ!(顔面パンチ)


「ぶッ!」(パンクC)


ゴツッ!(顔面に頭突き)


「あがぁッ!」(パンクD)


タカがザコを瞬く間に沈める。


「つぅ~~~……」

タカにやられたザコたちは、痛みで全員がしゃがみ込んでしまった。


その頃、ヤマギシも現場に到着した。

ヤマギシは、タカがやつらを、あっという間ぶちのめした光景を見て、安堵するのだった。


「クリヤさん…、こいつヤバイっす…、ずらかりましょう…」

倒された中の1人が、丸デブに言う。


「クリヤ…?、テメエがクリヤって言うのか…!?」

タカが恫喝すると、クリヤの顔が蒼ざめる。


「……ッ!」

タカが無言でクリヤに近づく。


クリヤはミッチーを掴んでいた手を放し、タカを睨み返す!(※形式上、仕方なく)


「やんのか…?、テメェ…」


タカがクリヤにガンを飛ばして言った。

するとクリヤの表情が突然和らいだ…。


「ふっ…、ははは…、お前、何マジになってんだよ?、こんな都会のど真ん中でよ…」

そう言ってるクリヤを、タカは無言で睨みつけている。


「こんなとこでケンカしたら、オマワリに連れて行かれちまう…」

「いいぜ…、今日のとこは、これでカンベンしといてやるよ…」


薄笑いを浮かべたクリヤはそう言うと、タカに背を向けて、スタスタとその場から歩き出した。


「“池乃めだか”かぁテメェはぁ~ッ!?、待てコルァーーッ!」(タカ)


「うわぁぁ~~ッ!」(逃げるクリヤ)


走り出したタカが、クリヤのボディにタックルを決めた!

ドスン!と、仰向けに倒れたクリヤ。


タカはマウントポジションを取ると、クリヤの顔面に容赦なくパンチを叩きこむ!


バキッ!


バシッ!


ガシッ!


「ひぃぃ…ッ!、やめッ…、やめてッ…!」

完全に戦意喪失したクリヤが言う。


「おいッ!、どうしよう!?、お前止めて来いよッ!」(パンクA)


「やだよッ!、なんで俺がッ!」(パンクB)


「このままじゃ、クリヤさん殺されちまうぞッ!」(パンクA)


「じゃあお前、行けよッ!」(パンクC)


「無理だろぉッ!」(パンクA)


やつらが、そう言ってる間にも、クリヤは殴られ続け、顔がボロボロになって行く。


「まずいってッ!、このまま見殺しにしたら、ジンさんに、今度は俺たちがヤキ入れられちまうッ!」(パンクD)


「来週の、“エッグメン”襲撃に、クリヤさんが行けなくなっちまうよぉ~ッ!」(パンクC)


(えッ!?、来週の“エッグメン”襲撃って…ッ!、もしかして、ベルサイユ・ローゼスの事ッ!?)

その会話が聴こえたヤマギシは、そう思った!


「あゆ…、こいつらバウンスに載ってた、ベルサイユ・ローゼスのライブを襲撃する気なんだッ!?」

ミッチーがヤマギシの側に来て、彼女に言う。


「あゆ…、あの人、知り合い…?」

マウントでクリヤを殴り続けるタカを指差して、ミッチーが引きつりながら彼女に聞く。


「同じバイトのタカさん…、“大曲の金狼”…(笑)、強いでしょ?」

そう言ってヤマギシは、ミッチーに微笑んだ。


「ああ…、なんとかしなきゃぁ…」

頭を抱えたやつらの1人が言う。


「おいッ!、あれだッ!、あれを使うぞッ!」


別のやつがそう言って差した方向には、宅配便の軽トラが停まっていた。

まさに運送業者が、車に乗り込もうとしている時であった。


やつらが軽トラに向かって走り出す!


「おいッ!、てめぇ、どけッ!」

そう言って、パンクスたちは軽トラから運転手を引きずり降ろした。


エンジンをかけるサドンデスの1人。

そして、やつはアクセルを踏み込むと、その軽トラをタカ目がけて発進した!


ガーーーーーッ!(車)


「タカさぁぁんんッ!、危なぁぁ~~~いぃぃッ!」

それに気づいたヤマギシが、タカに向かって絶叫する!


クリヤの胸倉を掴んで引き起こしていたタカが、軽トラに気づきギョッとする!


ガーーーーーッ!(車)


「タカさぁぁぁんんッッ!!」(ヤマギシ)


「マジかぁッ!?、テメェらぁ、ツラ覚えとくぞぉぉッッ!!」

クリヤから手を放し、仁王立ちのタカ。


ガンッッ!!


「きゃぁぁぁぁぁーーーーッ!」


空き地では、ヤマギシの悲鳴が響くのであった。




 ピピピピピ……ッ、ピピピピピ……ッ(コードレスホンの呼び出し音)


「はい…、もしもし…」


「こーさんッ!、こーさんッ!」(泣きながら叫ぶヤマギシ)


「何だ?、ヤマギシか?、どうした?、こんな時間に慌てて…?」


「タカさんがぁッ、タカさんがぁッ…!」(ヤマギシ)


「タカがどうした?」(彼)


「サドンデスにタカさんが…ッ」(ヤマギシ)


「タカがサドンデスに…?、そんなワケねぇだろ?、だって、あいつが1番強いんだぜ…」

彼がそう言うが、電話口のヤマギシは、泣き続けていた。


「お前、今、どっから掛けてるッ!?」

状況を理解した彼が彼女に聞く。


「青山病院…、今、救急車で運ばれて、精密検査受けてる…」

ヤマギシが彼に泣きながら説明する。


「分かった。今からタクシー飛ばして、すぐ向かうッ!」

彼はそう言って電話を切ると、タカが搬送された青山病院に向かった。


(おい…、タカよ…。どうしちまったんだよ?、お前がヤラレるなんてはずねぇだろ…?)


彼は胸騒ぎを感じながら、タクシーに乗り込むのであった。


…… to be continued.


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