人の優しさを知った魔王は転生して世界に平和を求める。
小説家になろうでの投稿は初めてです。
是非宜しくお願い致します。
ーーーークソ...なんて事だ...!こうなってしまうとは...
俺の名前は魔王、ルクル・エクターゼ。
ちょうど今日で俺がこの世界に誕生して500年、といったところだろうか。
今日は人間の村を視察しに来ていたが、ちょうどその時運悪く伝説の勇者がその村に滞在しており、俺は戦いを強いられた。
俺と勇者は3日に及ぶ激闘の末、俺はあと、1歩のところで敗北してしまった。ほんと、あと1歩。嘘ではない。
そして俺は、勇者の一瞬の隙を見て逃げ出した。
その時にはもはや城までの帰還魔法を使う力すら残っていなかった。
「ハァ...クソ...こんな所では終わらんぞ...人間...」
俺は人間への復讐心を巡らせながらも、森を歩いていく。
そして少し開けたところへ出た時だった。
「待ってください!」
そう言って俺の目の前へ飛び出してきた少女はとても幼く、そして恐怖で震えていた。
ーーーー追っ手だろうか...ならば殺すしかあるまい。
だが、今の俺には歩くので精一杯。
魔法を使う時に使用する力、魔力はもう残っていない。
ーーーー魔王と恐れられた俺もここまでか...
「まぁ、退屈な人生だったな」
震えた足でゆっくりと歩み寄ってくる少女に対し、俺は死を覚悟して少し笑みを浮かべる。
「う、動かないでください...!」
ーーーー動かないで...か。どうやら1度で仕留めるつもりのようだ。他にも捕虜にするなど様々な使い道があるはずだが。
ーーーーまぁ、どうせ考えてもしょうがない。
「そ、それでは、行きます...!!」
そう言うと少女は魔法の詠唱を始める。
詠唱か。懐かしい。私は生まれて2歳の時には詠唱無しで魔法は出せるようになった。
「我を見守る者よ...今、我の目の前にいる者の傷を...」
懐かしい。彼女を見ていると幼い時の自分を思い出してしま...う?この呪文は攻撃系というよりもその逆の...
「この者の傷を、癒したまえ!!」
その瞬間、少女の手から緑色の光る球体が無数に現れ、それは俺の傷が酷い所に、重点的に注ぎ込まれていく。
少女の魔法はまだ未完成で、完全回復...とまではいかなかったが俺が城へ戻る位の魔力は回復した。
「...一体どうして俺を助けた。俺は魔王だ。人間を滅ぼす。そしてお前のせいで村の者が皆死んでしまうのだぞ?」
俺には少女にそう問う。自分がした事の重大さを知らしめるためだ。
しかし、少女はにっこりと微笑み、俺を優しく抱きしめる。
「良いんです。傷ついて悲しんでいる所を助けてあげる事は、人も魔物も、そして魔王も関係ありませんから」
......驚いた。まさかこの歳にして立派な志をしているとは。
「......すまないな。」
俺は動こうとすると、少女は「待ってください!」と俺にしがみついたまま離れない。
「どうしたのだ?」
俺はたずねると少女は「あとひとつだけ」と言って顔にめいいっぱい笑顔を咲かせる。
「身体が傷ついた時は心も傷ついてしまうものです。そういう時はですね、笑う事が1番なんですよ」
「......そうなのか?」
「えぇ。人も魔物も、そういうものです」
この時、俺は自分の頬を水が滴るのを感じた。
俺はすぐに少女から目を離し、一言。
「ありがとう」
と呟くと、すぐに帰還魔法を使い城へと戻った。
この時には俺の中に、人間への復讐心はとっくに消滅していた。