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さよならは独りきり


――私は死ぬ瞬間を知っている。

 見開いた視界に飛び込んでくる眩い光、耳に響き渡る悲鳴と激しいクラクション。真っ白な頭を嘲笑うように次の瞬間やってくる一瞬の激痛。意識は真っ黒に塗りつぶされて、全ての感覚を奪われる恐怖を身を持って知っていた。


「ーーフィリリア、どうかしたのか? 顔が真っ青だ。具合が悪いのか?」


 はっと意識を引き戻される。いつの間にか俯いた顔を上げれば、不安そうに眉を寄せ、心配そうに私を見つめるお父様がいた。

 いけない。無意識の内に、またやってしまった。

 自分が馬車で、父親であるフェミリアル公爵と王城に向かっている途中であることを思い出す。

 内心の動揺を押し殺し、お父様を安心させるためににっこりと笑う。


「なんでもありませんわ。これからお目に掛かる事ができる殿下へ思いを馳せておりました。待ち望んだ日を迎え、少し不安になっているのかもしれません」

「心配するなフィリリア。そなたは由緒あるフェミリアル家の娘。何も心配することはない。殿下を愛し、尽くしなさい。殿下は将来のそなたの夫となられる御方。殿下を愛する事がそなたの幸福にも繋がる」

「はい、お父様」


 真っすぐに視線を向けたまま、はっきりと頷けば、お父様は安心したように満足そうに笑う。

 笑い返して車窓の景色を見つめる振りをして、能面のように崩れそうな顔を隠した。間近で見ないと分からない程、薄く窓に映る人形のように整った愛らしい顔は、十という幼い年齢に沿わない冷たさで凍りついていた。

 殿下を愛する事が私の幸せ――そんなわけないじゃない!!

 今後の事を考えるだけで心は凍てつき、気を抜けば白けてしまいそうになる。このロレン国の宰相であり、皇族に絶対の忠誠を誓っている厳格なお父様には絶対に知られてはいけない事実だ。お腹の底から込み上げそうになるため息を堪えながら、私は順を追って今までのことを思い出す事にした。

 まず最初に、私は転生者だ。前世は、生まれも育ちも日本の平凡などこにでもいるОL。趣味は恋愛小説を読み漁る事で、人生で一度も彼氏ができたことがない悲しすぎる程清い身体をした、二次元大好きな女だった。

 だけどある日、大好きな恋愛小説の新作本を買った帰りに信号無視をしたトラックに引かれてあっけなく終わり。いや、ほんと。死ぬ前に一度くらい彼氏が欲しかった。

 そして私はなんと――死んでしまう前に読み切った恋愛小説「白き薔薇は冷血王子の心を溶かす」の世界に転生していた!

 知ったのは二週間前。高熱に寝込んだ時に前世の記憶が蘇ったのがきっかけだった。

 だがそんなことはどうでもいい!

 死んで尚、来世があったのはいい事! 公爵家の一人娘に転生したからには今度こそ薔薇の人生を――そんな私の期待は非情にも冷酷に打ち砕かれた。

 私は「白き薔薇は冷血王子の心を溶かす」の世界の主人公。男爵令嬢ロゼッタを虐めて虐めまくる悪役令嬢、フィリリア・グレル・フェミリアルになってしまったのよ!

 フィリリアは、母は王族出身、父はフェミリアル公爵であり、ロレン国の宰相。高潔な血筋と歴史ある由緒正しい家柄に生まれた正真正銘のお嬢様だ。そして、物語の中で主人公と恋人となるこの国の第一王子、ルーヴァニ・ミレフィスト・ルルリア・ユーリアス・ロレンの生まれながらの婚約者で、だが第一王子には見向きもされず、そんな中ルーヴァニと距離を縮めていくロゼッタに嫉妬して陰湿いんしつで悪質な苛めを繰り返す。それが公の事となり、フィリリアは婚約破棄をされる。愛する家族からも冷たく見放され破門。平民の身へと堕とされるのだ。

 自分の運命を知った時の絶望は計り知れなくて、神様に嫌われているんじゃないかと思った。

 本の世界なんだから、本当は病院にいて夢を見ているんじゃないかと希望に縋った事もあり、何度も頬を抓ったがこの世界から脱出する事はできなかった。仕組みは分からないが、この世界は本物だ。

初めての悪役令嬢転生ものです!よろしくお願い致します!

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