第6話 相利共生
「ここに来るのも、随分と久しぶりに感じますね」
「そだね」
「姫の可憐さにはお変わりありませんけどね!」
「う、うん」
いつも通りベルさんとミラさんをお供に、それから一応の警戒として、学園からの帰路の時も護衛してもらった白百合騎士団の騎士さん数人も少し遠巻きに連れて、私はおおよそ一年ぶりにメリーランド農園に来ていた。
以前に此処へ訪れたのは入学から更に数ヶ月前のことだ。本当は王都へ旅立つ寸前にもハングロッテさん……師匠やアヤメとのお別れのために来たかったのだが、入学の準備等でそれどころではなかったのだ。
それはベルさんとミラさんも同じことで、だから此処へ来るのは比喩抜きに久方ぶりだった。そしてここで鮮烈な、ちょっぴり危険な出逢いをしたアヤメは結局、今の今まで師匠に預けっぱなしだった。自分が飼いたいと言い出したのに、本当に無責任なことだ。幸い師匠と彼女はウマが合ったようで、農園の番犬ならぬ番狼として相棒のような関係を築いているらしい。
でも、事実として言い出しっぺなのにすべてを任せてしまっているのには変わりない。普段の飼育を全部他人に任せ、時折愛でに訪れるのを責任持った行動だとはとても言い難かった。
……多少そんな自己嫌悪に駆られながら、記憶にあるものより幾段か寂れたように見える木柵の向こう、メリーランド農園を一瞥した。実質彼女専用の居住地区になっていたはずの場所には、けれどアヤメの姿はなかった。師匠と一緒に小屋にでもいるのだろうか。最後に見た時には既に十分に人に慣れた様子だったが、今頃はどうなっているだろう。
……いや、それより。
「やっぱり、ここも」
「……そうですね」
重々しく悲哀を伴って、ベルさんとミラさんは頷いた。初めて此処に来た時とは明らかに、成熟している農作物の数が少ない。その成熟しているものにしたって葉は萎れ、元気がない。間違いなくマリアーナにも、不作の波が押し寄せていた。
いや、そもそも初めて来た時にしたって、その前年よりも窮していたのが実情だったのかもしれない。私が前年までを知らないためにそれを通常だと認識してしまっていただけというのは、十分に考えられることだった。
改めて自分の視野の足りなさに歯噛みする思いだ。あの時に気付けていれば……いや、そんなたらればを悔やんでも仕方がない。どの道、今以上に知見がなく、またルナのような大きな繋がりもない当時の私にそれほどのことは出来なかっただろう。むしろ、変に中途半端な干渉をして悪影響を及ぼしていた可能性すらある。所詮その時に見えていることしか出来ないのが人間というものだ。
私は確かに前世の記憶というイレギュラーで以て多少有効な策を講ずることくらいは出来なくもないが、それでも未来のすべてを見通して最善を取れるような天才ではない。こうなってしまっているのならば、これ以上悪くならないように今できる自分の全力を尽くせばいいのである。
「でも、どうして」
そうだ、それにしても、ずっと疑問に思っていることがある。それは或いは愚問で、けれど誰しもが抱くもののはずだ。今更そんなことを考えている暇があるなら現状の対応策を探す方がよっぽど建設的だろう。でもしかし、である。
――――そもそもどうして、ここまでの凶作が起きているのだろう。
「……どうして、ですか?」
「うん。わたしがうまれるまえも、こんなことはあったの?」
「それは……」
なんでもない質問に当然と返そうとして、しかしベルさんは答えに詰まった。その“当然”が、見つからなかったのだ。勿論あったはずという何処から生まれたのかもわからぬ、いわば積み重ねた時間への信頼とでもいうべきその根拠が、しかし否を突き付けたのだ。確かめるように視線を隣へ移すと、ミラさんも同じような表情をしていた。
「いえ……――――ありません、ね」
「ない……?」
「はい。私が知る限り……少なくとも私が生まれてから今までの二十年以上、多少の不作はあれど、ここまでのことは一度も起きていません」
それは……それは一体、どういうことだろう。
不作の裏には、常識的に考えれば何らかの気象的な要因があるはずだ。或いはそれに匹敵する人災的な事象。しかし季節が巡るように、基本的には同じ地であれば毎年同じ時期には同じような環境になるはずである。
勿論、まったくすべてが同じとはいかない。日照りの強さや雨の量なんてものは当然変わるものだろう。けれど、それら条件が偶々すべて悪い方向に重なったとしても、こんな数年間も継続して影響を及ぼすようなことにはならないはずである。
私は別に専門的に学んだわけでもないから詳しいことはわからないが、実際問題ベルさんの言によれば二十年以上は“多少”の差で収まるくらいには安定していたのである。それがここ数年になって何故いきなり育たないようなことになったのか。流石に不自然さを感じざるを得ない。
尤も、こんな疑問はとうに王国の頭脳たる魔導師たちによって研究されているだろう。それで明確な答えが出ていないのだから、やっぱり私が考えたところで仕方がないことではあるのだけど。
「言われてみれば、気になりますね。どうしてこんなことになったのか」
「うん。……ししょーなら、なにかわかるかな」
「確かに、ハングロッテさんに聞いてみるのはいいかもしれませんね。ずっと此処を営んでおられるわけですし」
ミラさんが名案です、と肯定してくれたのに頷いて。ひとまず師匠とアヤメの到着を待つことにした。そこまでしてくれなくても大丈夫だというのに、護衛の騎士さんが農園内を探して呼びに言ってくれているのだ。曰く姫様はごゆっくり逢引きをお楽しみくださいとのこと。騎士の人はみんな貴族の令嬢を姫と呼ぶのだろうか、なんて現実逃避。絶対何か勘違いされてる。
ともかく、彼女が戻ってくるまで私たちは暫し風と陽の匂いに心を浸した。
……うーん、やっぱり変だ。天候はこんなにも心地いい。そしてそれは今日に限った話ではない。
時々間隔が空いたりはするけれど、雨だってきちんと降っている。私の記憶にある限り、王国の天候はずっとそんな穏やかで安定した状態だ。とても危機を引き起こすようには思えなかった。
やはり実際に農作物を生産している師匠に聞いてみなければ――――と、改めて質問を纏めたところで、タイミング良くというか。小屋の方から三つの影が近づいてくるのに気付いた。
その内人の形をした二つは呼びに行ってくれた騎士さんと、師匠のものだろう。そしてその足元、たった一年ほどの間に随分大きくなったように見えるその影は、視認したのか、はたまた匂いで気付いたのか、師匠の制止も聞かずに一目散に私の方へ駆けてくる。
遠く粒のようなその点は瞬く間に狼のシルエットを取った。躾の成果か、きちんと畑は避けて通行用の小道を走りながら、“彼女”は心底嬉しそうにがうっ、と吠えた。
「わうう、がうっ!」
気付けばほんの目と鼻の先にまで迫った金眼の狼が、勢いよく柵を飛び越えて私……ではなく、私の一歩隣に着地した。自分の体格で勢いそのままに飛びつけば私が怪我をすると冷静に判断したのだろう。本当に、この子は賢い。
パタパタと千切れんばかりに揺れる尾に苦笑しながら、じっと私の言葉を待つ彼女の瞳を見た。キラキラと輝くそれは、どこまでも純粋な想いで溢れている。
長い間離れていたのに、毎日世話をしていたわけでもないのに。あの時と変わらず向けてくれるその瞳に、私は思わず破顔した。
「――――あやめっ!」
「わうぅっ!」
がばっ。音にするならそんな風だろうか。そう呼んだのを合図に、私と彼女……アヤメは、示し合わせたかのように飛びついた。
アヤメは私がしゃがんで抱き着こうとするのに重ねるように、体を上げて両前足を私の肩に置いた。私が背中に回した手で引き寄せるように、アヤメも爪を立てぬように、その前足で私の体を引き寄せた。
ちょっぴり固くかさついた毛先が鼻を擽る。きゅうん、くーんと堪えていた寂しさを吐露するように甘えるアヤメ。
……ごめんね。どうしてか溢れてくる涙を止めようともせずに頬に伝わせ、たっぷり温もりを確かめてから一度体を離す。しゃがんだ姿勢のまま視線を合わせて、同じ金色を見つめた。アヤメは、何も言わずに見つめ返してくれた。
「ごめんね、ごめんね」
「……わう」
言葉の理由も曖昧なまま、きっと彼女の堪えていた寂しさに謝る私を彼女はただ、じっと。それから優しげにひとつ鳴くと、ぽふん、と私の頭に前足を置いた。
慰めてくれている、大丈夫だよ、と受け入れてくれているのだ。余計に熱くなる目頭を隠すように、私は再びアヤメの首元に顔を埋めた。
「はは、先を越されちまったな」
「えっと、その……これは?」
ベルさんたちに見守られながら感動の再会を果たす私たちに遅れてやって来たのは、師匠と騎士さんの声。見れば師匠を呼んできてくれた彼女だけではなく、護衛に付いてくれている騎士さんたちがすぐ傍までやって来ていた。その手が腰の剣にかけられている。
……そっか、彼女たちはアヤメのことを知らないんだった。護衛対象である私に大きな金狼が一目散に飛びついていけば、慌てもするだろう。
それで駆けよってみれば何やら仲睦まじげに抱き合い始めたのだから、彼女たちが戸惑いの表情を浮かべるのも当然のことだ。
たぶん、師匠は駆けだした騎士さんを追いかけるので手一杯で説明する暇もなかったに違いない。それでもそれほど息を切らした様子がないのは流石師匠といったところか。
三人が事情を説明してくれるのを横に、私はひたすらアヤメと戯れた。説明が終わる頃にはベルさんが、ゴロゴロ草原を転がりまわってじゃれ合う私たちを困った顔で眺めていた。
もしもベルさんがステラさんだったらきっと、はしたないですよと咎められていたことだろう。ごめんなさい。
「……こほん」
「わう」
何とも言えない視線が集まり始めたのにようやく気付いて、私とアヤメは大人しく立ち上がる。すぐさまベルさんが服を払ってくれた。ミラさんは何故か号泣していた。当の私たち以上に感動したらしい。
「……よう、久しぶりだな。嬢ちゃん。おかえり……でいいのか?」
「……うん。ただいま、ししょー、あやめ」
「相変わらずその呼び方なんだな」
変わんねえな、と快活に笑う師匠。とりあえず中に入るか、との提案に有難く乗って、私たちは小屋へと向かった。師匠にとっては二度手間だろう。そんなことを気にした様子はなかったが、ちょっぴりバツが悪かった。
「すまねえ、貴族さまに出せるようなもんも、まともな椅子もねえんですが……」
「だいじょうぶっ」
師匠がそれを言い切る前に、私はぽすりとその場に座った。耐寒用だろうか、木材そのままの床に敷かれた藁は、存外心地好かった。いや、まあ、あのコロニーの冷たい床に比べればなんだって良いものになる。すっかり貴族としての暮らしに慣れてしまってはいるけれど、それでもそんな初心を忘れるつもりはなかった。
呆気にとられた師匠に、てへ、と笑みを零す。嬢ちゃんはそういう娘だったな、と苦笑した彼はどすりと対面に座った。それに続いて、私を囲うようにアヤメが腰を下ろした。護衛の騎士さんたちは小屋の外で待ってくれるようだった。親衛騎士のミラさんもいるし、何より私たちの親しげな様子に危険はないと判断したらしい。そんなミラさんはベルさんと一緒に、私の一歩後ろに立って控えたままだ。私は二人をじっと見上げて、ぽんぽんと隣へ座るよう促した。ちょっぴり迷ったようにした二人はけれど、見つめ続ける私の瞳に折れたように座ってくれた。
そうして全員が落ち着いたのを見て、師匠が話を切り出した。
「んで……なんでも、聞きたいことがあるとか?」
「うん。……あのね、まりあーなが、しょみんのひとたちがいまどんなかんじなのか。それと、どうしてこんな“ふさく”がおこっているのか、なにかきづいたことがあったらおしえてほしいんです」
私は出来るだけ伝わりやすい言葉で、拙い舌回りをじれったく思いながらもそれを尋ねた。
元々の目的、師匠の、つまり一庶民の視点から見たマリアーナ、そして庶民の人々の現状。加えてついさっき聞きたいことに追加された、そもそもの不作の原因だ。
師匠は少し驚いたようにベルさんとミラさんに確認の目線を送ったが、二人から頷きが返されるとやがて語り始めた。
「……まず俺たちがどんな感じかってのだが、こいつは飢餓やらの影響の話ってことで間違いないか?」
「うん」
飢餓やら、と暈して含められたそれも当然理解しつつ、続きを促す。貴族である私の手前、具体的に反体制運動と口にするのは憚られたのだろう。
しかし、そういった風向きこそ聞きたいのだ。そんな言葉を視線に乗せて、伝わったのかどうか、師匠は続けた。
「そうだな……さっき、農園を見ただろう。何処もあんな……いや、俺のとこなんかは実ってるのがある分、マシな方だ。収穫量はどんどん酷くなってる。どこの家も、なけなしの貯蓄すら尽きだした頃だ。暗い話ばかりで嫌になっちまう」
「……うん」
農園の様子を見て感じた通り、かなり酷い状況だ。クロリナさんに聞いたものと合わせれば、改めてその危機的現実がよりはっきりと見えてくる。
私は身分上、どうしても認識が甘い面があるけれど、こうして身内とでも呼ぶべき間柄の人が苦しみを伴って話す姿を見れば、しっかりと現実を認識出来た。
やはり、もう限界なのだ。彼らは。
「だが、他は知らねえが、少なくともここでは貴族への反感みてえなのはあんまり聞かないな」
続く内容も、やはりクロリナさんに聞いたものと同じだった。やはり、父は相当みんなから支持されているようだ。違う立場の二人から同じことを聞けたのに確信を深めた。
大方を話し終えた師匠にありがとう、と一つ述べて、次の話に入る。
不作の、そもそもの原因についてだ。
「不作の原因は……すまん嬢ちゃん、俺にもわからねえんだ。別に、例年に比べて天気が酷いってわけでもねえ。なのに、どうも上手く育ってくれないんだ」
「……そっか」
返ってきたのは、私と同じ結論だった。
気候に大きな変化があったわけでもないのに、何故だか作物だけが育たない。みんな、行き着く先は同じらしい。わからないのだ。
……まあ、これは元より明確な答えを欲して質問したわけではない。もし何か気付いたことがあったら、ということで何となしに聞いてみただけなのだ。
申し訳なさそうに頬を掻いた師匠に大丈夫、と感謝しようとして……ふと。
「ん……ししょー、あれは、なあに?」
ふと、ある物が目に入った。それは何というか、そう、“じょうろ”のような形をしていた。
けれど不思議なことに、水を入れて貯めておく部分がなかった。取っ手の先が、そのまま水の出口になっているような、ほぼ棒状の形なのだ。
中心部にあるはずのタンクはそこになく、ほんのちょっと出っ張っただけのそれはとても水を入れておけるような構造には見えなかった。
師匠は私の視線を追って、ああ、これはな、とその謎の道具を手に取ると、何処か懐かし気に言った。
「こりゃあな、散水器ってんだ。名前の通り水を撒ける魔法具でな。ちょっと前までは農家は本当にみーんなこれを使ったんだが……あの帝国との戦争の後“魔石”が出回らなくなって、今ではめっきり誰も使わなくなっちまった」
「むかしから、つかわれてた、の?」
「ああ。昔も昔だ。買った時に商人に聞いた話だが、こいつが使われ始めたのはもう百年以上も前のことだそうだ」
便利だったんだがなぁ、と表面をなぞりながら話す師匠。そうなんだ、と納得を零そうとして、しかし。私の意識が、何かを捉えた。何だ、何か。何か今、重要な……
「……――――ませ、き?」
ぎゅっ、と。思考が急速に集中した。ぼやけているその“何か”に、ピントが合わされていく。
……或いは、荒唐無稽な考えかもしれなかった。でも、一笑に捨て去るには筋が通り過ぎている話だった。
―――そう、魔石。“魔石”だ。この魔法具は、魔石を利用して使うのだと師匠は言った。少し前までは一般的に使用されていたものだとも。そして、魔石とはなんだ。魔石とは即ち魔力の塊だ。では魔力とは何か。
「せいめい、りょく」
そうだ、魔力とは生命力。エネルギーだ。はっきりとそう習ったわけではないが、学園での授業を聞く限り、魔力をそう定義することに矛盾はなさそうだったし、私は魔力を感覚的にそういったものであると認知出来ていた。
ならば、ならば、だ。魔力が生命力であるのなら、魔石というのがその塊であるのなら。そこから生み出された水も、また生命力の塊ではないのか。
――――その生命力はつまり、農作物たちにとって重要な養分であったのではないか。
「ませき。りゅうつう、せいげん。……おうさま」
「アリス様……?」
それを裏付けるのが、不作と魔石の流通制限のタイミングだった。昨今のこの連続した不作は、私が四歳の頃に始まったという。
魔石の流通が酷く制限されているというのは、いつかベルさんと館の厨房を散策した時にも聞いたことだ。そしてその、流通が厳しく制限されるようになった時期……それは師匠の言った通り、帝国戦争後……つまり、時期的には父がここの領主となり、母と結ばれて間もなくのことだった。
ここで、母の記憶が更に詳細な時間軸の情報をくれた。その記憶を追っていくと、具体的に魔石の流通制限が実行されたのは今から七年前。私が生まれる一年ほど前のことだ。そこから段階的に市場での流通が減っていったらしい。
私の出産間近の頃には、もうほとんど新規の出品が出回ることはなかった。勿論マリアーナでも同じ動きがあり、王国全土と同じように庶民たちによる買い占めが起きた。そこから彼らは少しずつ、ほんの少しずつ、大事に貯蓄した魔石を使って来たらしい。けれど消費の一方では、当然いつか底をつく。
そして私は“それ”の信憑性を確かめるために、師匠に質問を重ねた。
「ませきが……みんなのませきがなくなったのは、さんすいきがつかわれなくなったのはいつぐらい?」
「ど、どうした嬢ちゃん。それは……ええと、そうだな。大体三年くらい前か」
「さんねん……」
「あ、ああ。それが、どうかしたのか?」
……ああ、ああ。そうだ。なら、きっと、そういうことだ。
もしも、散水器、即ち魔石によって創り出された水に含まれる魔力が、農作物にとってかけがえのない栄養分だったのだとしたら。或いは農作物たちが、百年以上もそれを注がれ続けてきたことによって、魔力を重要な栄養源とするように適応、進化していたのだとしたら。
唐突にそれが注がれなくなったら、途切れてしまったら、どうなるだろうか。
魔石の流通制限によって散水器が使われなくなったのが三年前。ここ数年に渡る大凶作の最初の年、目に見えて不作が起こり始めたのが二年前。
……私には、この二つに全く関連性がないようにはとても思えなかったのだ。
だが、まだ確信とするには早いだろう。迅速に父や祖父、ラブリッドさんたちに話し、確かめなければならない。そしてこれはもしかすれば、王国の飢餓を解決する起死回生の一手となるかもしれないのだ。
「ああ……、ありがと……っ!」
「ぐわっ!?」
だから。
「ありがと、ししょーっ!」
「じょ、嬢ちゃん、待て、やめてくれ! ノクスベルさんが凄い顔になって――――ひいぃ!?」
……だから、私が感極まって師匠に抱き着いてしまったのは、仕方のないことだったのだ。
歴戦のハンターだという師匠を怯えさせるほどのナニカを、ベルさんに滲み出させることになってしまったのだとしても。
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