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『七行詩集』

七行詩 101.~120.

作者: s.h.n

『七行詩』



101.


隣町 大きな庭の ある家で


君はこんなに 大きくなった


凛として 教養も良く 強かで


君はこんなに 綺麗になった


その花は 手折られることは ないだろう


もたげる首に 鈴を着けよう 一つだけ


風に揺れては すぐに居場所が分かるように



102.


僕はただ 幸せな時を 閉じ込めて


かごの中へと 愛情を注いだ


君は そんな小鳥を見つけたら


迷わず逃がしてしまうような


自由を愛する人だった


だから ほら 君もまたすぐに


飛び立っていくような 気がしてたんだ



103.


重力は 空に手を伸ばす 僕たちを


泥濘の地に 磔にするためじゃなく


風船のごとく 貴方が飛んでいかないよう


その髪が 真っ直ぐ流れて 伸びるよう


尊い絵画を 現実に繋ぎ留めている


涙が溜まるばかりでは 互いの顔も見えない


だから流れるままに今 頬を伝わせ 光らせて



104.


悲しさも 切なささえも 脈打って


時に激しさのように 胸を埋め尽くす針の雨


温もりも 安らぎさえも 波打って


時に空しさのように 体温を奪う 燐寸(マッチ)の灯


正しさも 誠実ささえも はがれ落ち


全てを捨てて 歩み寄ろうと


あなたにしては 全くもって意味がない



105.


恋い慕い 癒えぬ病を 抱えては


そのよろこびに 涙した


この場所で見た 輝かしいあの幻を


今は小さな手の中で


あたためておくだけなのか


さあ 僕の日々に戻ろうか、と


この席を立つのにだって 勇気が要るんだ



106.


六月は ひんやり 風を湿らせて


雨は 青葉を茂らせて


アジサイの花を寄せ集め


決して孤独には負けぬように、と


傘も雨音も 傍にいた


空に似て 晴れない胸の 気怠ささえ


心地よい 僕の生まれた季節



107.


空と海 半分の月が 昇る頃


波打ち際の 漂うしらべに


包まれ 頬を撫でる風


時に全てを奪い去る 母なる大地の揺籠へ


波に運ばれ たどり着く


ビンに詰められた便りには


誰かに宛てた言ノ葉と 歳月が紙に染みていた



108.


ある日々に 新しい色を 探すとき


君は外へと 飛び出してゆく


僕は絵の中に 見つけられるよう


この場所で 深く根を張る


だから 君が会いに来てくれたときは


空さえも 塗り変わるような


鮮烈な その輝きに 気づいたよ



109.


散歩道 夜風に誘われ 出てみれば


木を根本から 見上げるのは


しばらくなかったことのようで


同じように 真っ直ぐ空に手を伸ばし


静かに呼吸をしてみては


自分もまた 野にさらされても 倒れずに


誰かを見守り続けたいと そう思った



110.


テーブルに グラスは一つ 今日の日は


ここに料理と 感謝を並べ


重ねる年を 味わおう


独り言や ため息の数も 変わらない


これから先も こんな調子で


しわを増やしていくんだと


笑ってみれば やはりあの頃と 変わらない



111.


この針が 二つ真上を 指したとき


主役を君に受け渡し


ロウソクに 再び灯りは 点される


ここまで一緒に歳を重ね


今ではこちらが ガキみたいだと


思いながらも この先も


生き続け 同じ冗談を 繰り返そう



112.


繰り返し 重ね見てきた お互いに


輝くような 魅力もあれば


少しも直らない 悪い癖


それをただ 手放しで目を つぶるのと


受け入れ 許すのは 違うから


僕らがこれからすべきことは


きちんと分かり合うことなんだよ



113.


月夜には 窓辺に額を 身を預け


静かな闇に 埋もれるのは


私だけではないのなら


涙よ あのお方のもとへ


心の花を 潤しておくれ


沸き上がり 夜風が冷ます 熱さえも


斯くも愛しく 傍を離れない



114.


人は迷った時にこそ


最も多くの道を抱える


選び抜き 或いは選べぬ時にこそ


貴方のための 道は延び


ことの解決へ 導くだろう


進めないなら 迎えればいい


答えとは 一つの結果に過ぎないのだから



115.


一回り 遠いあの頃の 夢を見た


勝ち負け 賭けた 徒競走


僕が追い越したあの日々が


遅れて会いに来たんだね


トラックのゴールは 出発点


眠りの淵で いつか必ず


円を描き あの日 あの場所へ還るだろう



116.

 

見せられぬ 枕に埋めた 僕は今


どんな顔をしているのだろう


弾む心臓 この部屋に一つ 携えて


聞こえる鼓動は 僕のもの


揺れる心情を 刻み続ける 僕の時計


あなたにも 聞こえるでしょうか この音が


絶えずこの胸を 埋め尽くすのが



117.


読みもせず 僕の手紙を 破いては


“ここでもう一度 言ってみなさい”と


本心は 君が吐き出した 悪態の中


見失ってしまいそうだけど


声を震わせる感情は 確かに僕にも伝わって


後はそう 分かり合うための言葉だけ


ほんの少しの言葉だけ



118.


生きるという 生涯の夢は 大変だけど


大事なことは 心ゆくまで確かめて


また一つ 大人になってゆく


あなたの姿は 美しい


叶えたい 守りたい絵を 描きながら


胸に持ち 誰より深く 息を吸うんだ


空へと伸びる ビルの真下で



119.


たとえ話にも 僕らが一から 苗を植え


育てる時間は もう無い、と


始まりさえも 貴方は認めず 打ち切った


これからは 僕が水やりを 引き継ごう


夏の日に やがて大きな木になれば


忘れても 傍に在り続け


午後には僕を 陰に宿らせてくれるでしょう



120.


愛しくも 強い苦しみに 囚われて


細く いぢらしい 小さな手に


僕は外から 鍵をかけられ


扉が開き 君が現れた 時にだけ


部屋に光は 差し込むよう


微笑みに 君が湛える 輝きもまた


眩しく 目にしみ 涙が出る



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― 新着の感想 ―
[良い点] 静かに紡がれる言葉にそっと乗せられた感情が、ほんのりとかすかな希望を感じさせてくれるところが良かったです。
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