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第9話 ドラゴンのリベンジ


 「てめえ!!よくも俺達の事を先公にチクってくれたな!!」

 

 ここは学校から少し離れた河原。

不良グループリーダー格の男子生徒が俺の学ランの胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす。

 後ろには数人の手下と言うか取り巻きがおり、ある者はリーダーと同じく鋭い目つきで睨み付け、又ある者はニタニタと薄ら笑いを浮かべながらこちらの様子を見ていた。


「全部本当の事だろう、今時いじめが見過ごされると思ったら大間違いだ」


 俺は特に格闘技などもやっておらず、力も強くない。

 しかし俺の親友が自ら命を絶つ切っ掛けを作ったこいつらを許す事は出来なかった。

 親友はいじめられている事を悟られまいと、俺の前でだけはその素振りを見せない様にしていた事に今更ながら気付く…そう、本当に今更に…。

 ただ、それを彼の生前に知っていたとして俺に何が出来ただろうか。

 前述の通り俺は身体能力が高くなく、どちらかと言うと同世代の平均以下だと自覚している。

 そんな俺がこの不良グループに今みたいに喧嘩を売れたかは甚だ疑問だ…いや、きっと出来なかっただろう。

 今のこの状況を生んだ教師へのチクリだって親友が死に追いやられた事で怒りが臨界点を越えたからできた事だ…情けない事に…。

 だから、冒頭の会話一つにしたって足が震え、今すぐこの場から逃げ出したい気持ちを堪え、精一杯のやせ我慢で何とか踏み止まっているのだ。


「へへっ、正義の味方面するのもいいけどよ…俺にいじめの事を確認に来た教師が何て言ったか教えてやろうか?」


「なっ…何だって言うんだ…」


 掴んでいた胸ぐらから手を放し俺を解放した不良リーダーは、先程の剣幕とは打って変わって口角を釣り上げ、下卑た笑いを浮かべだした…そこに俺は一抹の不安を覚える。


「「いじめは無かったんだな?」って聞いて来たからよ、「無ぇぜ」っていったら「そうかって」ってその先公、さっさと帰っていきやがったんだぜ?」


「なっ…何だって?」


「先公なんて、学校なんてそんなもんだろうよ!!生徒の自殺の原因がいじめでしたって世間にしれたら世間体が悪くなるもんな!!」


「そんな…」


「そういうことでいじめは無かった…今回は大目に見てやるが、お前もあまり俺達を怒らせない事だな、ハハハ…!!」


 見下した様な、蔑む様な不良リーダーの視線が俺を容赦なく貫く。

 俺一人じゃどうにも出来ないからと大人を頼ったのに…これでは却って親友の自殺の真相がもみ消され闇に葬られてしまうだけじゃないか。

 所詮人間は自分に直接被害が及ばなければ全て他人事…自身の保身と体裁の維持の為なら平気で真実を歪曲、または隠蔽してなかった事にしてしまう。

 俺の感情は怒りを通り越してどうしようもなく深い情けなさが支配していた。

 くそっ、一生懸命人に迷惑を射かけず真面目に生きている者が虐げられ、自分勝手で道徳に反する事をやっている者達がのほほんと楽し気に暮らしているこの世界は何なんだ?

 やはり神なんてものは存在しないんだな…これほどの理不尽を許すこんな世界が存在していること自体がその証明だ。

 そっちがその気なら俺も好きにやらせてもらおうじゃないか!!


「うわああああっ!!この野郎!!」


 俺は渾身の力を込めて右の拳を繰り出す…不良リーダーは俺が手を出してくるとは思っていなかったらしく、拳は大きな音を立てて奴の左の頬にめり込んでいった。


「ぐはっ…!!」


 奴の口から血が飛び散る…それを見て俺は先程までの頭に血が上った燃えるように熱い体温から打って変わって、急に背中に冷たいものが走った気がした。

 これまでの人生、俺は今迄人を殴った事が無かった…そもそも一般的な思考の持ち主である俺に人を傷つける事を良しとしない倫理観が備わっている…今迄どんなに怒ったとしてもなんとか自制して来た…だからか柄にもない事をしたことで身体が無意識に怖気づいてしまったのだろうか?


「てめえ!!何してくれてんだ!!」


 取り巻き達が一斉に俺に向かって押し寄せてきた。

 完全に周りを囲まれしまった。

 乱暴に掴んで引き倒され、あらゆる方向から拳と蹴りが飛んでくる。

 痛い…!!何とか身体を縮こませて腕で顔を守るが、容赦ない攻撃に身体が軋む。


「おいお前ら、そいつを川に落とせ…」


 口元から流れる血を腕で拭いながらリーダーが言い放つ。

 その声のトーンは低く、聞く者にどこか薄ら寒さを感じさせた。


「ちょっ…リーダー、それはやり過ぎじゃ…」


 その命令に対して一瞬手下どもの手が止まる…それはそうだ、いくら喧嘩上等な彼等だって人殺しの片棒は担ぎたくない筈だ。


「いいからやれ!!てめえら俺の言う事が聞けねぇってのか!!」


 動揺する手下を大声で怒鳴り付ける。 そのあまりの剣幕に手下の一人が俺を掴んで来た…それを皮切りに次々と他の手下が俺を持ち上げ方の高さ辺りまで担ぎ上げた。

 おいおい、こいつら…本気か!?


「やめろ!!こんな事して後でどうなっても知らないぞ!!」


 俺は言葉で奴らを制止しようとするが、恐怖で支配された集団心理が働いた彼らには響かない…もがこうにも先程の暴行のせいで身体に力が入らない。

 そうこうしている内に奴らに担がれた俺は護岸の為にコンクリートブロックで整備されている川岸まで運ばれてしまった。

 そしてあろうことかそのまま俺を川に投げ込んだではないか。

 大きな水音と水しぶきがたつ。


「ガボッ…!!ガハッ!!助けて…!!ゴボッ!!」


 息が苦しい…口から肺へと怒涛の勢いで水が入り込む…助けを呼ぶ声も段々上げられなくなっていく。

 必死で助けを呼んでも川岸で呆然と立ち尽くしてこちらを見ているだけの不良グループ。

 中には自分達のしでかした事に気付き逃げて行く者も見えた。

 この川の流れは速い…水中でもがく俺を容赦なく川下へと押し流していった。


(くそっ…俺の人生もここまでか…もし生まれ変わるならいじめの無い平和な世界がいいな…それかいじめられている弱い者を守れる強い身体が欲しい…せめて川でおぼれ死なない程度の強い身体が…)


 川底に沈んで行きながらそんな事を考えていた…ああ…意識が遠のく…。




「はっ…!?」


「あっ!!目を覚ました!!リュウイチ兄さん、リュウジ兄さんが目を覚ましたよ!!」


「本当かい!?」


 この声はドラミとリュウイチか?

 …という事は今迄見ていた光景はまたしても前世の記憶…それも俺の忌の際?

 そしてこの二人がいるという事は俺はまだこの世界に居る…生きているらしい。


「目覚めたばかりで悪いんだけどまだドラゴが暴れていてね…君も手を貸してくれないか?」


 何だって?じゃあ俺は頭に岩を喰らって気絶してから時間が立っていないってのか?

 それじゃああの長い前世の記憶を見ていた時間はほんの一瞬だったって事か。

 改めて状況を確認すると、リュウイチがドラゴが次々と放つ岩を炎のブレスで相殺している…そしてドラミが介抱し守る形で俺を自身の身体で庇ってくれている。

 どうやら二人は俺が気絶したのを見て加勢に入ってくれたんだな。


「済まない二人共…巻き込んじまったな…」


「いいよ、わたしたち兄妹じゃない…」


「そうさ、それよりリュウジ、この状況どうにかならないかい?」


 俺は身体を起こしドラゴの方に向き直る…相変わらず強力な大地の魔法を乱発してこちらに岩を放ってくる。

 かたや、こちらはリュイチのファイアーブレスで辛うじて岩を撃ち落としているがやや押され気味だ。

 確かにリュウイチのファイアブレスはキャンプの着火器よりはかなり強力になっている…しかしこれはリュウイチの魔法が弱いわけではない…彼は順当に成長しているだけで、どちらかというとドラゴの魔法の方が短期間で上達し過ぎているのが問題なのだ。

 こんな時俺も魔法を使えればいいのだが…俺はまだ属性と魔法を獲得していないのだ。

 だがこんな時こそこの土壇場で能力が目覚めなければ嘘だろう…死の間際に俺が求めた力はドラゴンに生まれ変わった事だけなのか?

 そんな筈はない…俺は弱い者が傷つかない世界を望んだんだ…こんな苦境を乗り越えられないでどうするよ。

 そうで無ければそこで倒れているスーに申し訳が立たない。


「何だ…!?」


 そう心の中で憤っていると俺の身体を蒼い光が包み始める…その途端俺の頭の中にある閃きがあった。


「川でおぼれない程度の力…へへっそう言う事かよ…」


 俺は左手を後方へ大きく振りかぶった…手の平、爪に青白い魔法力そのものが纏わさっていく。

 そして思い切り宙を切る様に左腕を前方に振るった。


「唸れ水刃すいじん!!『水流斬ハイドロカッター』!!」


 爪の数と同じ三本の水の刃が目にも留まらぬ速さでドラゴ目がけて突き進む。

 それは途中のあった岩石を物ともせず切断し突き進み、遂にはドラゴの右目にヒットしたのだ。


「グワアアアアアアッ…!!!」


 右目を手で押さえドラゴが悶絶する…右目からはおびただしい量の血液が流れ出ていた。


「リュウジ~~~~!!!貴様ぁ~~~~~!!!」


 自分の血を見た事で激昂したけり狂うドラゴ。

 そして何やら魔法を唱える動作を取ろうとしている…まさか、まだ何か隠していたのか?更に強力な魔法だと今の俺達には防ぎ切れないかもしれないぞ。


『一体何事です!?争いを止めなさい!!』


 フィールドに上空から突風が吹き付ける…見上げるとそこにはティアマト母さんが宙に羽ばたいていた。

 助かった…これでこんな不毛な戦いが終わる。


「もう俺がここに留まる必要は無い……しかしリュウジ……憶えていろよ!!貴様にはこの右目の礼は必ずしてやるからな~~~!!…『避難通路《エスケープロード』!!」


 その魔法を唱えた途端、ドラゴの立っている地面が円形に口を開き、そのままドラゴはその穴へと落下していった。

 俺達はすぐさまその穴の淵まで駆けつけたが既にドラゴの姿は無かった。

 ただそこには真っ白な雲海が見え、時折光が差し込んでいた。

 まさか…ここリューノスは空に浮かんいるのか?


 しかし、初めての兄弟喧嘩がとんでもない事に発展してしまった…。

 あまりに失ったものが多い…。

 得られたものと言えば、俺の属性が『水』であったという事だけだった。

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