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第37話 ドラゴンが如く


 「メグ、時間が無い…大まかでいいからあの『竜殺しの剣(デカブツ)』の情報を教えてくれ!!」


「はいライラさん、『竜殺しの剣(バルムンク)』は遥か昔、人間とドラゴンの関係が特に険悪になった時代に人間側が武力でドラゴンに対抗する為に造り上げた魔導武装です…

 数百人単位の魔導士によってドラゴンを殺害する事に特化した呪詛が込められていて、ドラゴンが放つ魔法はおろか彼らには直に触れる事すら敵わない…と、この文献には記されていますね…」


『何だってそんな物騒な代物が…』


「まあ人間とドラゴンには当時から色々と誤解や軋轢があったんだろうさ…とかく人間は自分より強かったり優秀だったりするものに対して恐怖感や劣等感、嫉妬心を抱くからな…」


 ライラの言う通りだな…同じ人間同士やドラゴン同士でもいざこざが絶えないのだ、種族が違えばその対立構造はより鮮明に表れる事だろう。

 特にドラゴンは自分たちこそが絶対、唯一無二の最高最強種族であるという自負を抱いている者が多い…人間を見下し、奴隷や食料としか見ていない者も少なからず存在する。


 これは俺の推測も多分に含まれているが、ドラゴンは種族を上げて何時ぞや俺が遭遇した漆黒の化け物から世界を守ってやっているという傲慢さからそういう思想に陥っているのではと思っている。

 

 今思うと俺達がまだリューノスにいた頃、ティアマト母さんが俺達に地上に降りてからの活動について口を濁していたのは俺達にそのドラゴン特有の悪しき時代錯誤の思想に染まって欲しくないからだったのではないかと…。

 

 そう考えると俺達の世話をしてくれていたエミリーたち侍女は、人間が一方的にティアマト母さんに貢いだものであり、すでに行き場の無い彼女たちを保護していたのだろう。

 きっと母さんは、彼女たちをそのまま元の社会に戻せばリアンヌが受けた様な悲劇が起きる事を知っていたんだ。

 それなのに俺と来たら…まったくそこまで思考が及んでいなかった。


 おっとこんな物思いにふけっている場合ではないな…すぐにでも対策を立てなければ。


『うわぁっ……!!』


 俺の目の前にリュウイチが吹き飛んで来た。

 リュウイチはドラゴの相手をして俺にミコトの救出の時間を稼いでくれていたんだったな。


『大丈夫か!? リュウイチ!!』


『ああ、大丈夫…でも流石に魔法抜きで取っ組み合いをするには相手が悪かったよ…』


 リュウイチの魔法は炎属性…この樹木が鬱蒼と茂る森の中では無闇に使う事は出来ない。

 対してドラゴは俺達の中では二回りも身体が大きくてパワフルなのだ。

 アイツを相手に格闘戦なんて、兄貴には酷な役回りを押し付けてしまったな。


『おいドラゴ!! 今は緊急事態だ…ここは一旦休戦にしてお前もあの空に浮かぶ剣を排除するのを手伝え!!』


『断る!!』


 ドラゴから俺が全く予想していなかった答えが返って来た…漫画やアニメなら強敵同士が戦っている時に共通の敵が現れたり障害が起こった時には共闘するのが筋ってモンだろうが!!お約束を破るんじゃあない!!


『はあ!? お前…あれがここに落ちてきたらみんな死ぬんだぞ!? 勿論お前も!!』


『何で(にっく)きお前らの言いう事を聞かなければならないんだ!!

そんな事、俺様のプライドが許さん!! あんな玩具おもちゃの破壊なんぞ俺様ひとりで十分よ!!』


 そう言うとドラゴは『竜殺しの剣(バルムンク)』目がけて羽ばたいて行ってしまった。


『バカヤロウ!! そんな事を言っている場合じゃないんだぞ!!』


 ここはみんなで協力して事に当たった方が良いと思うんだが…あの頑固者め。


『『圧壊岩石弾プレッシャーロックバスター』!!』


 ドラゴの大きく開いた口の中から岩が発射され、それはどんどんと大きくなって『竜殺しの剣(バルムンク)』へと目がけて進んでいく。


 さっきのメグの話だと『竜殺しの剣(バルムンク)』に込められている強力な呪詛のせいで俺達ドラゴンの魔法は通じないと聞く。

 果たしてどうなる?

 こうなった以上、ドラゴには情報分析のために協力してもらっていると思うしかないな。

 成長しきった巨大な岩石が今まさに『竜殺しの剣(バルムンク)』に接触する…いや、接触しない…!? 

岩石は巨剣に触れる直前で砂の様にさらさらと掻き消えてしまったではないか…。

 まるで剣全体に何か見えない攻撃的魔法障壁が展開されているかのようだ、恐らくあのままでは触れる事も叶わない筈。


『くそーーーっ!!ふざけやがってーーーーー!!!『突貫突進ピアッシングスタンピード』ーーーーー!!!』


 ドラゴの頭上の一本角が見る見る巨大で鋭利になっていく。

 あれは以前俺と戦った時、俺を背後から貫いた攻撃だ。

圧壊岩石弾プレッシャーロックバスター』が効かないと見るや、あろう事かドラゴはそのまま頭から突進したのだ。


『止めろドラゴ!! 俺の考えが間違っていなければ大変な事になるぞ!!』


『うるせえ!! お前の指図は受けん!!』


 まったくあいつはーーー!! 心配していってやっているのに!!

 直後、ドラゴの巨大な角が『竜殺しの剣(バルムンク)』にぶつかる…いや駄目だ、やはり少し手前で阻まれている。


『ガアアアアッ!! くそおおおっーーー!!』


 更に魔力を込め突進を強めるドラゴに異変が起こった…『竜殺しの剣(バルムンク)』の見えない壁に触れている角の先端が先程の岩石と同じ様にさらさらと崩れ始めたのだ。


『ドラゴ!! 今すぐ『竜殺しの剣(それ)』から離れろ!! でないと身体が消滅するぞ!!』


 予想した通りだった…あの『竜殺しの剣(バルムンク)』を覆っている見えない魔力障壁はドラゴンに由来する魔法力やドラゴンそのものを消滅させてしまう効果があるのだ。

 このままでは間違いなくドラゴの身体は灰燼に帰す。


『グワッ…何だ…!? ここから離れる事が出来ん………』


『何だって!?』


 ドラゴが必死に翼を羽ばたかせてそこから離脱しようとするが、角が魔法障壁に強力な接着剤で固められてしまったかのように動けなくなっている。

 

『うわああああっ…!! たっ…助けてくれーーー!!』


 今迄尊大な態度を取っていたドラゴが生まれて初めて情けなく命乞いをした。

 身体の崩れは顔の直前にまで達している。

 いくら憎らしいからと言っても実の弟だ、見捨てる訳にはいかない。

 俺は勢いよく飛び立ちドラゴの元へ向かう。

 しかしやはり兄弟だ、そう考えていたのは俺だけでは無かった…ほぼ同時にリュウジとドラミもドラゴの元へと向かっていたのだ。


『お前たち……』


『さすがに見捨てる訳にはいかないからね……』


『ドラゴに兄弟の有難みを教えてあげましょう!!』


 俺達はドラゴが囚われている場所まで近付いた。


『取り敢えず引っ張ってみましょう!!』


 ドラミがドラゴの背後から胴にしがみ付き『竜殺しの剣(バルムンク)』から引き剥がそうとする…しかし全く微動だにしない。


『あっ!!』


『どうしたドラミ?』


『…私も手が離れなくなっちゃった…』


『あ……』


 しまった…例の呪詛がドラゴを伝ってドラミにまで達してしまったのか。

 これは益々厄介な事に…。


『これならどうだ!? 『火炎放射(ファイアブレス)』!!』


 『竜殺しの剣(バルムンク)』に接触しているドラゴの角の先端部分にリュウイチが放った炎が襲い掛かる。


『あちちちちっ…!! 馬鹿野郎リュウイチ!! 俺様を殺す気か!?』


『あっ…ゴメン…』


 こんな状態でも文句は言うんだなドラゴ…。

 『火炎放射(ファイアブレス)』は『竜殺しの剣(バルムンク)』には一切ダメージを与えずドラゴにだけ猛威を振るった…そして相変わらずドラゴの身体が

巨剣から離れる事は無かった。

 しかし困った事になったな…このままではドラゴは元よりドラミまで消滅してしまう…せめて何か爆発的な力がこの部分に発生させられればいいんだが…。

 爆発…爆発…? そうか!! その手があった!!


『リュウイチ、もう一回『火炎放射(ファイアブレス)』を放ってくれ…俺に考えがある』


『えっ…いいのかい?』


『やっ…止めろ!!』


『ドラゴ、助かりたいなら少し我慢しろ!!さあ!!』


『分かったよ…』


 再びリュウイチが『火炎放射(ファイアブレス)』を放つ、さっきと同じ位置だ。


『あちゃちゃちゃちゃ!!』


『『高速水流(ジェットストリーム)』!!』


 熱がるドラゴを無視し、俺も『火炎放射(ファイアブレス)』が中っている所に水流を放つ…すると程なく大量の蒸気を発し、大爆発が起こった…俗に言う『水蒸気爆発』ってやつだ。


『おわぁっ…!!』


『きゃあああっ…!!』


 ドラゴとドラミが爆発に吹き飛ばされて『竜殺しの剣(バルムンク)』から解放された。

 今だ…すかさず俺はドラゴの身体に飛びつきその場から離れ地上に逃れた。

 体勢を崩し、二人して地面にみっともなく飛行機の胴体着陸よろしく不時着しまったのだ。


『まったく、重いんだよお前は…』


 身体が地面を抉って進み樹にぶつかってやっと止まる事が出来た。

 そうだ、ドラミは無事か? 上空を見上げるとリュウイチが抱き留め、なんとか落下せずに済んだようだ。


『俺の忠告を無視しやがって!! 死ぬ気か!!』



『がっ…かはっ…』


 様子がおかしいドラゴの顔を覗き込むと鼻先と上顎の一部が消滅してしまっていた…これではまともに言葉を発するどころか魔法が唱えられない。


『待ってろ!! いま回復を…『癒しのアクアヒーリング』!!』


 患部に手をかざし回復魔法を唱えたが、ドラゴの傷は一向に回復の兆しを見せない…どういう事だ?


「あの…一つ宜しいでしょうか…?」


 おどおどとメグが俺を上目遣いで見ながら話し掛けてきた。

 ただまだ俺の事が怖いらしく、目線が行ったり来たり泳いでいる。


『何だい?』


 なるべく彼女の恐怖心を和らげるように優しく問いかける。


「恐らくですが…『竜殺しの剣(バルムンク)』にドラゴンが傷つけられた場合は回復は不可能なはずです…これも先程説明した呪詛の影響です…」


 メグは申し訳なさそうに目を伏せた。


『何だって!!』


『はがっ…!? はががっ……』


 ドラゴの呻きから落胆の意思がくみ取れる…もう一生魔法が使えないとなるとドラゴンもただの知能が高いだけの大きなトカゲと変わらない…こんなみじめで屈辱的な事があるだろうか。

 改めて空を見上げると『竜殺しの剣(バルムンク)』は先程より更に大きく見えていた…確実に地上に近付いている。


「ククク…言ったでしょう?私たちはここで共に滅びる運命なのですよ…」


 いまだ魔法の輪に拘束されたまま地面に転がっているダフラが薄ら笑いを浮かべてこちらを見ている…奴の目には俺達のあがきがさぞ滑稽に映っているだろうな。

 だが俺にはダフラに関して一つ気に掛かる事があった。


『ダフラ…お前は本当にこれでいいのか?』


「何の事です? 今更何を言っても状況は覆りませんよ?」


『マーニャの事だ…』


 俺がその名を口にした途端、ダフラの表情が豹変する…明らかに動揺している焦りの顔…しかしすぐにいつもの無表情に戻った。


「なっ…何を言ってるんです? 心当たりがありませんね…」


 ポーカーフェイスを装っている様だが大量の冷や汗が滲み出ているのでバレバレだ。


『そうかい、後悔するなよ?』


 しかしどうしたものか…『竜殺しの剣(バルムンク)』のドラゴン対策は俺の想像の遥か上を言っていた…一体こんな代物、どう対処したらいいんだ。


『くそっ…!! 俺達ドラゴンにはやはり『竜殺しの剣(バルムンク)』を破壊するのは無理なのか…!?』


 俺は力一杯地面を叩いた…周りのリュウイチとドラミも落胆を隠せない。


「諦めんなよ!!それでもお前らは地上最強の生物ドラゴンか!?」


『何だとっ…!?』


 大声にした方を振り向くと、ライラが物凄い鋭い目つきで俺を睨みつけていた。

 何たる眼力…俺は一瞬心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥った。

 人間の癖に何て眼力をしているんだ。


「今回のこともそうだがアンタは何でも一人で背負い過ぎなんだよ!!

自分が出来ないからはい、諦めました…そんなんで周りが納得するかよ!!」


『…だがもう実際、万策尽きているだろう!?これ以上どうしろって言うんだ!?』


「ドラゴンの力でどうにもできないならアタイが手を貸してやるよ!!

リュウジ!! アタイを背中に載せて『竜殺しの剣(バルムンク)』の所まで連れて行ってくれ!! アタイとメグで何とかやってみようじゃないか!!」


「えっ!? 私もですか!?」


「ったりめーじゃないか!! そうだメグはリュウイチが載せてやってくれないか?」


「ああ、分かったよライラさん…あなたには敵いませんね」


 苦笑いするリュウイチ。


 確かに『竜殺しの剣(バルムンク)』に掛けられているのはドラゴンに対してのみ効力を発揮する呪い…もしかしたら人間の力なら何とかなるかも…。


『分かった…ここまで来たら試せる手は何でも試してやろうじゃないか!!

宜しく頼む!!』

 

「おうよ!! 面白くなって来たじゃないかリュウジ!!」


 不敵な笑みを浮かべるライラ…彼女はまるでこの状況すらも楽しんでいる様だ。


「ドラミ、これから何が起こるか分からない…みんなを守ってやってくれないか?」


「いいよ、でも私も戦いたかったな」


「済まないないつも無理を言って…」


「いいっていいって!!必ず何とかしてくれるんでしょう?」


「ああ、任せておけ」


 ドラミに対してサムズアップで答える。


「パパ!!」


「ミコト、ドラミおばさんの言う事をよく聞くんだぞ」


 後ろで「お姉さんね!!」という声がするがこの際無視する事にする。


「うん、気を付けてね…」


「ああ…じゃあいってくる!!」


 こうしてライラを載せた俺と、メグを載せたリュウイチは再び『竜殺しの剣(バルムンク)』に向けて飛び立った。


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