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第29話 ドラゴンとクエストと…


 最近、ここマテリオン王国の南に位置するカリフの森にブルードラゴンが住まう様になったと言う。

 

 元々この森はライデンと名乗るスパークドラゴンが根城にしていた土地で、ライデンは人間を脅かし、度々人間の娘を生贄に要求していた。

 一番森に近い位置にあったゲトー村は一番割を食う形で生贄を提供する羽目になったが、いつしかドラゴン信仰が高まり、さもそれが当然の様に行われ、異を唱える者は背信者として処刑されるなど、村全体が狂信者の集団と化していったという。


 そんなゲトー村が滅んだのが約二年前…ブルードラゴンが森に現れたのとほぼ同時期であった…目撃者がいたわけではないがそれはブルードラゴンの仕業ではとの噂が広がる。

 ただ村一つ滅ぼすほどのドラゴンを何の確証も無く討伐の対象にするのはリスクが高いとされ判断保留のまま時は流れる。


 そしてそれから暫くはブルードラゴンが人間に関わる様な事案は起らなかったのだがごく最近、猟師の一団が襲撃を受けたのだ。

 しかもその時、ブルードラゴンは人間に化けていたらしい。


 極めて好戦的なブルードラゴンを放置しておくのは王国の存亡に係る…速やかに討伐すべきだ。

 討伐隊を組織するべく世界中にお触れが出され腕に覚えのある屈強な戦士や冒険者がマテリオン王宮の闘技場に集められたのだ。


 このアタイ、ライラもその内の一人だ。

 手前みそだが数々の困難な冒険、強力なモンスターの討伐をこなして来た自分の実力は自覚しているし誇りさえ持っている。

 人々の中にはアタイを『救国の女傑』だとか『女英雄』だとか呼ぶ者もいる…それに関しては恥ずかしいから正直止めて欲しいとは思っている。

 昔、マテリオンに魔物の群れが来襲した時、少しばかり人より活躍しただけなのだから。


「あっ…いたいた、どこ行ってたんですかライラさん!!」


 全身をフルプレートの鎧で包み、頭もフルフェイスの兜を被った男が私に声を掛けてきた。

 この男はイーロンと言い、二年前からアタイと冒険を共にしている仲間だ。

 そもそもアタイはソロの冒険者で誰とも組むつもりは無かった…しかし出会った頃の彼は冒険者に成り立てらしく、あまりに頼りなかったので少し面倒を見てやることにしたのだ。

 それがいつの間にか懐かれてしまって今に至る訳だ。

 ただ二年も一緒にいる割にはアタイは彼の素顔を見た事が無い…いや彼自身が意図的にひた隠しにしている節さえある。

 まあ人間、隠し事の一つや二つあるものさ…大方、顔に見られたくない傷でもあるんだろう、だから敢えて詮索はしない。


「あんな殺気と男臭さが充満した会場にいられないよ…」


 アタイは集会場に使われている闘技場の、数ある出入り口の一つから出て外側の廊下に居た…イーロンは会場中を私を探して駆けずり回ったらしく肩で大きく息をしている。

 そんなに重そうな鎧を着込んでいるからだ、まだ戦闘中じゃないんだから外して来ればよいものを。


「…でも説明を聞いておいた方がいいのでは?」


「大丈夫、情報は全て頭の中に入れてある…それにメグの奴がちゃんと聞いててくれるさ」


 メグと言うのは魔導士の少女で、紫のローブと同色の頭の尖った帽子をかぶっており、如何にも魔女な見た目をしている。

 彼女もイーロン同様頼りなく、そのままだと命を落としそうだったのでパーティーに引き入れたのだ。

 どうやらアタイはこの手の頼りないコたちを見ていると放っておけない損な性格らしい。

 まあいいさ、パーティーになってからの彼らはメキメキと実力を付けて来ており、いまやアタイの頼れる仲間だからな。


「二人共こんな所にいた…酷いですよ私にだけあんな所に置いて行って…」


「やあメグ、ゴメンゴメン…僕もライラさんを探すに動き回ってたんだよ…それで説明会は終わった?」


「ええ終わりましたよ…今日は準備と休息に使って明日出発だそうです」


「ご苦労さんメグ、じゃあアタイ達は酒場に行って腹ごしらえといこうか」


 アタイが二人を引き連れて闘技場を出ると、建物前の広場である集団に出くわした。


「これはこれは『救国の女傑』ライラさんではないですか…会場ではお見受けしなかったと思うのですが…」


 紺色のローブを頭から被った集団…彼らは『竜滅隊』というドラゴンを専門に狩る事を生業にしている連中だ。

 その中の一人、隊長のダフラが話しかけてきたのだ。


「あ~~~結構端っこにいたからな~~~たまたま見えなかったんじゃねぇの?」


「そういう事にしておきましょうか…」


 ニヤリと不気味な笑みを浮かべるダフラ。

 アタイは正直言ってこいつらが嫌いだ…見るからに陰気臭いし、何よりドラゴン討伐に用いる手段が卑怯なのだと噂には聞いている。


「でもね、ドラゴン退治にはあなたのような不真面目な人には参加して欲しくないんですよ私達は…ドラゴン退治は遊びじゃない…精々我々の邪魔にならない様にしてくださいね…」


 こいつ、口調は丁寧だが急に睨みをきかせて来やがった、凍てつく様な冷たい視線だ…さっきの薄ら笑いを浮かべていた男とは同一人物とは思えない怒りと殺気が籠った眼差しだ。

 何が彼らをここまで駆り立てて居るのか…アタイには分からないが、ドラゴンに深い恨みがあるのだけは感じ取った。


「はいはい、分かったよ…」


「理解いただけて助かります、ではまた明日会いましょう…失礼しますよ…」


 ダフラがお辞儀をすると、竜滅隊の連中は音も立てずにスーッと立ち去った。

 どこまでも不気味な連中だ。




 日はとっぷりと暮れ、アタイ達三人は酒場で夕食を楽しんでいた。


「僕はね、どうしてもブルードラゴンが悪いモンスターには思えないんですよ!!」


 イーロンがジョッキのエールを一気に飲み干してから語気を強めてそう言った。

彼が酒の力を借りてまで本心を主張するのはとても珍しい事だ。


「しっ…イーロンさん、誰かに聞かれてしまいますよ…」


 メグが周りをキョロキョロしながら囁く様にイーロンを諌める…

確かに他の冒険者に聞かれでもしたら絡まれかねない内容だ。


「何でそう思うんだ…イーロン?」


 アタイも声のトーンを少し落とす。


「考えてもみてください、ブルードラゴンは確かに二年前ゲトー村を滅ぼしたかもしれない…でもそれって完全に人間と敵対する意思を表したとは僕には到底思えないんですよ…だってその後は他の街や村を襲うでもなく沈黙を守っていたじゃないですか」


「そうだな、だからこそ国も冒険者ギルドも猶予を儲けて様子を見ていた…しかしブルードラゴンは再び人間を傷つけた…」


「それは、そうですが…今回も人間の方に非があったとは考えられませんか?」


「イーロン、お前…?」


 一部では度を超えた因習に囚われたゲトーの民がブルードラゴンを激怒させ粛清を受けたという説を唱えるものも確かにいる…しかしそんな事は誰にも確かめられないのだ。


「ライラさん、イーロンさんの言っている事はあながち的外れではないかもしれませんよ…」


「メグ…今度はあんたかい…二人共今日はどうしちまったんだい…?」


「ギルドに被害報告をしてきた狩猟団体からはあまりいいい噂を聞きません…何でも狩場の獲物を容赦なく狩りつくし、そのせいで食材を調達できなくなった店や個人に高く売りつけるとか…そんな人たちです、もしかしたらその人たちがドラゴンに襲われるような何かを森でしでかしたのかもしれません」


 メグの情報収集能力は大したものだ…実際、この狩猟団体は街の上流階級に深い繋がりを持ち、安く食材を提供する代わりに大口の卸し先を斡旋してもらうなど共生関係にあるのは一部には知られているのだ。

 ただ知らなくてもいい事を知ってしまうのは、場合によっては自らの命を縮める事に繋がると知ってほしい。


「二人がそんなに言うんならアタイ達は他の討伐隊とは別行動を取ろうか…」


「「えっ?」」


 二人は同時に目を丸くする。


「あんたらがアタイの期待を裏切った行動や言動をしたことは一度も無いからね…信じてみたくなったんだよ、そのブルードラゴンを…」


「そうですか…ありがとうございます」


 イーロンが頭を下げる、しかし何故コイツがここまでドラゴンの肩を持つのかには疑問が残るが、まあそこまで深刻な話ではないだろう…イーロンは優しい奴だからな。


「そういうことで明日は早いからな、今日は早めに寝るんだぞ?」


「「はい!!」」


 明日は討伐隊に先んじて森に潜入する事になる…アタイたちは酒盛りもそこそこに床に就いたのであった。

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