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第17話 私にドラゴンが舞い降りた


 コソ泥少女とそれを追いかける男達は思いのほか足が速く、俺は速攻で見失ってしまった。

 だが進行方向なら分かる…普通に道を追いかけるより上から見下ろした方が見付け易いかもしれないな…俺は近くの塀にひょいと飛び乗ると、抜群の平衡感覚で片足の幅しかない塀の上を軽々と走り出した。

 人間形態のまま背中からドラゴンの羽根を出して空を飛ぶと言う芸当も出来るのだが流石に人目に付く村の中では目立ちすぎる、今はこれが精一杯だ。

 少し進むとやや遠くの路地に彼らを見付けた…少女は袋小路に入り込んでしまい、男たちに追い詰められてしまった。

 これはマズい…急がなければあの少女が暴力に晒されてしまう。


「このクソガキ!!俺の店から物を盗むとはいい度胸じゃあないか!!」


「………」


 少女は無言のまま男を睨み返す…大した度胸だ。

 背中まで伸びた黒髪に意志の強そうな赤い瞳…しかし少女からは年相応のあどけなさと可愛らしさが見て取れる。


「生意気な目で俺を見てんじゃあね~!!」


 男に肩を乱暴に引っ張っぱられ、体勢を崩した少女は顔面から石畳に叩き付けられた…その拍子に抱えていた果物を全て地面に落としてしまい、派手に弾んだり転がったりした。


「………」


 頬に擦り傷が出来、血が滲んでいるが少女は声を上げるどころか涙さえ流さない…下唇を固く噛み耐えている様だ。

 

「何だぁ?お前しゃべれないのか?そうかそうか、じゃあここで多少キツイお仕置きをしても誰にも聞こえねえって訳だ」


 もう一人の筋肉質の大男が指をポキポキ鳴らしながらゆっくりと地面に突っ伏す少女に歩み寄る…そして思い切り少女の腹に蹴りを入れたではないか。


「コハッ…!!」


 乾いた悲鳴を上げ、まるでサッカーボールの様に軽々と蹴り上げられる少女…行き止まりの煉瓦の壁に背中から激しくぶつかった。

 男はそれだけでは飽き足らず少女の胸ぐらを掴み上げると高だかと持ち上げる。


「人様の物を盗んだらどうなるか教えてやるぜ!!」


 空いた方の手で少女の頬を平手で叩く…そして反す手の甲で今度は反対の頬を叩く…往復ビンタを延々と繰り返す大男は口元に下卑た笑みを浮かべていた。

 腫れあがる少女の顔が目に入り、俺の中の何かがキレた。


「大の大人が女の子相手にそれは無いんじゃないの?おっさん達…」


 俺は男たちの背後から声を掛けた。


「何だテメェ…?関係ない奴は引っ込んでてもらおうか!!」


「いやいやいや、いくらその嬢ちゃんが盗みを働いたからってそれはやり過ぎじゃないか?」


 なるべく落ち着いた口調で話し掛ける俺、自制しないと力の加減を忘れてこの男たちをどうにかしてしまいそうだったからだ。


「このガキはな、泥棒の常習犯なんだよ!!被害に遭ってる店はウチだけじゃない…被害から比べたらこれでもまだ足りないくらいだぜ!!」


「…そうかい…」


 そりゃあ盗みを働くのは悪い事だ…しかし相手は子供、ここまで肉体的苦痛を与えるのはあまりにやり過ぎだ。

 見た所彼女はみすぼらしいボロボロの服を着ている、経済的に貧しい家の出なのだろう…いや、もしかしたらストリートチルドレンなのかも知れない。

 そういった事情も鑑みず一方的に断罪するのは俺が目指す『優しい世界』にはあってはならない。

 そういうことで、こいつらは俺がもっとも忌み嫌うタイプの人間の様だな…そっちがそういう持論を振りかざすなら俺にも考えがある。

 こいつらは気付いているだろうか…俺の立っている位置を…。

 反対側は袋小路の壁だ、俺が路地を塞いで立っている以上こいつらに逃げ場はないという事に…。


「まあまあ落ち着いて下さいよ…ここは俺に免じて、ね」


 俺はポンっと手前の男の肩に手を置いた。


「はぁ…?何で見ず知らずのあんたの顔を立てなきゃならないん…ひっ!?」


 男は自分の身体を抱きしめる様にして屈みこみガクガクと震え始める…

 顔面は蒼白、歯はガチガチと鳴り、目の焦点が合っていない。


「おい…どうしちまったんだよ…?」


 少女を掴み上げていた大男が彼女から手を放し、震えている男に駆け寄る。


「おいお前!!こいつに何をした!?」


「いや、別に何もしてないよ、ただ触っただけだ…ほら、俺って生まれつき体温が低くてさ…俺の手が冷たかったんじゃないの?」


 当然嘘である…『温度操作(サーマルコントロール)』の魔法を使って一時的に男の体温を5度ほど下げさせてもらったのだ。

 流石に長時間それが続くと低体温症で死んでしまうから本当に一瞬だけだが、男の身体の自由を奪うにはそれで十分だ。


「この野郎!!ふざけやがって!!」


 案の定、大男が殴りかかって来た…俺はその拳をひらりとかわすと大男の顔に触れる。


(『浮遊式水泡フローティングアクアバブル』…)


 大男の顔が水の球に包まれた。


「ガボッ…!!ゴボッ…!!何だ!?」


 突然の事に大男はパニックを起こしている…まさかこんな所でおぼれる事になるとは夢にも思うまい。


「ゴボアっ………」


 白目を向く大男…おっと!!このままでは溺死してしまうな…俺が指をパチンと鳴らすと顔を覆っていた水は跡形もなく消え失せた。


「大丈夫かい?」


「………」


 地面に伏せている少女を抱き起す…これはひどい有様だ、右目の目蓋はこぶになり、唇と頬は晴れあがって血が滲んでいる。

 こんな状態だと言うのに少女は何も言わない…もしかして本当にしゃべる事が出来ないのか?


「ちょっといいか?おっと、動かないで痛くしないから…」


 俺が手を顔に近づけようとすると少女は身体を強張らせた…また殴られると思ったのか?

 少女の顔に直接触れないくらいの間隔で両手で彼女の顔を挟む…そして『癒しの水(アクアヒーリング)』を唱えた。

 見る見る腫れが引いていく…あっという間に少女は元の可愛らしい顔に戻っていった。


「………!!」


 相変わらず言葉を発しないが、彼女は頻りに自分の顔を触りながら驚いた顔をしている。


「良かったな…今の内にどこかに逃げなよ」


 少女の頭をわしわしと撫でてその場を後にしようと振り返った瞬間…俺の太腿に彼女が抱きついて来たではないか。


「おい…!!」


「………!!」


 引き離そうとしても少女はイヤイヤと首を振りしがみ付いた俺の脚から離れようとしない。


「参ったな…どうすんだこれ…」


「うっ…う~~~ん…」


「あっ…!!」


 俺が弱り果てて頭を掻いていると、二人の男たちが目を覚まし始めたではないか。

 これはマズい…いくら俺が自分の正義に則って彼らを捌いたとはいえこれが表沙汰になるとかなり面倒な事になる…下手をするとこの村に二度と顔を出せなくなるかも…。


「一緒に来て!!」


 俺は少女を抱え上げると脱兎のごとくその場を後にした。


 取り敢えず売るために持って来た果物籠を回収せねば…。

 何人かに顔を見られてしまった、ほとぼりが冷めるまでこの村には暫く顔を出せないな。

 さっき商売をしようとしていた場所まで戻って来た…するとあろう事か籠に詰められるだけ詰めてきた果物や山菜が空っぽになっているではないか。


「やられた…」


 緊急事態だったとはいえ売り物から目を放すべきでは無かった…恐らく俺に腕を折られたチンピラとその仲間たちがその腹いせとショバ代わりに売り物を持っていったに違いない。

 これぞ『骨折り損のくたびれ儲け』…。


 そしていま俺の側にはあの少女が居る…流石にここに置き去りにする訳にはいかない、またあの男たちに見つかったら何をされるか分かったものでは無いからな。

 仕方ない、リアンヌには何を言われるか分からないが、一度俺の家に連れて帰ろう。

 この子の扱いを考えるのは取り敢えず後回しだ。




「…よく帰ってこれたものね、それもこんなに遅く…覚悟は出来ているのかしら?それでその女の子は何?」


 少女を驚かせないために人間形態のまま家に帰って来たのですっかり夜が更けてしまった。

 リアンヌは怒鳴っている訳ではないが物凄く怒っているのが伝わってくる…

 まず目が怖い…あれはドラゴンをスレイする気満々の目だ。

 女に会うと言うのを否定しておきながら少女を連れ帰って来てしまったのだからな…しかも年端もいかないロリ少女をだ。


「いや、これには深~~~い訳があってですね?」


 少女は正面から俺の腰に抱き着く様に捕まっている…しかし彼女が振り向いた瞬間、リアンヌのが目を見開いた。


「マ…マーニャ…?マーニャなの!?」


「………?………!!」


 マーニャ?まさかリアンヌが夜な夜な寝言で呼んでいた名前か!?

 名前を呼ばれた少女は俺を跳ね除け、リアンヌの元へと駆け出す。


「マーニャ!!会いたかった…!!よく無事で…!!」


「うえっ…うええええっ…!!」


 二人は抱き合い大粒の涙を流した。

 俺には二人の関係は分からないが、二人が本当に嬉しそうで何よりだ…今日の骨折り損が一転して徳に生じた奇跡に感謝した。

 

 ただ、気になるのはこのマーニャという少女…泥棒をして俺の前を走り抜けていった時点で服がかなり汚れてボロボロだった。

 以前リアンヌから聞いた情報だと生贄の育成施設はとても快適で、着るものや食べ物など何不自由なく暮らせていたと言っていた。

 もしこのマーニャもそこに住んでいたのなら服がそんな状態の訳はないし、食べ物を盗む必要は無い筈なのだ…これは確実に何かある。


 これは何が起きているのか探る必要があるな…弱者が、年端もいかぬ少女が理不尽に虐げられる事はあってはならないのだから。


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