第5話 無気力系主人公の避難訓練
最近この星は災害が多い。
恐ろしいものランキングに「地震・雷・火事・親父」と出ているが、俺の無気力系主人公ライフを送るために様々な障害が付き纏うであろうと予測していた。
しかし、意外にもそこまでの障害は現れなかった。
昨日も、暇だったからとかいう理由で、この星を侵略しにやって来た野菜とかなんとかいう星人を交渉により追い返すと同時に、再発が起きない様にその星人の住まい(何とかという惑星だったが、デリートしたものを一々覚えていない)ごと消滅させる程度だったし、1週間前は、この星の民が「神」とか「ゴッド」とか呼んでいる権力者が怒りのあまりに大地震を起こすというので、それを宥め別の大陸の方に矛先を向けたり、10日前は世界滅亡を目論む組織が海底で新しい兵器の実験をして「津波」という災害が来るというので、こちらからも同じ分の威力の波を起こして相殺したりしてみたが、その程度のことで済んでいる。
それにしたって、俺の無気力系主人公ライフに影響の及ばない程度の災害ならば日常茶飯で起きているわけだ。
そんなこともあって今日の学校でのイベントは・・・
「あー、いいか。今日の避難訓練は、強い地震の影響で1階東側の調理室から出火したという想定で訓練を行う。小学校の時から習っているとは思うが『お・か・し』又は『お・は・し』(押さない・駆けない⦅走らない⦆・喋らない)を心掛けてやってくれ」
お箸?お菓子?いや、これは秘密の暗号だ。
この担任、生徒を相手に暗号を送るとはなかなか出来る奴ではないか。因みに担任の名前は『|杉田 現実』何がどう過ぎた(杉田)のかよくわからないが、現実とは得てして色々と過ぎるものである。知らんけど。
さて、周囲の生徒を見れば仄かに昔を思い出し少し懐かしそうな表情をしている。
隣に座る篠宮さんもその一人だ。
「お・か・し、かぁ。久しぶりに聞いたなぁ。懐かしいね、田中君」
篠宮さんから突然言葉を振られて怯んだが、俺は無気力系主人公。全てを知る者っぽい雰囲気が大事、悟りきった感じが重要だ。
「あー、そうだな。随分と懐かしい暗号だったな」
「??暗号?」
「・・・こっちの話だ」
澄ました顔してやり過ごした。が、なんだ今の反応は?暗号ではないのか?え?違うのか!?では、何なんだ!?おかしとは?おはしとは何だというのだ!?
この世界の辞書に避難訓練に於けるお菓子やお箸は掲載されていなかった。こんなことなら職員室のデータベースを洗っておくんだった。
とはいえ悔やんでも仕方がない。この際暗号だろうが韻を踏んでいようが何でも良い。
防災や避難訓練に関する「おかし・おはし」の謎を解くだけの事だ。天才の俺ならやれる!ジッチャンの名に懸けて!
まずは、この言葉を数字に置き換えてみよう。仮に五十音順なら5・6・12。5・26・12。これを一ケタにして5・6・3と5・8・3。差は2だ。そして、これを足したり引いたりかけたり割ったり乗じたり・・・・・・
「弥勒の降臨が56億7千万年後、アミターナス・アミターユスとの符号を確認。地球の球体の地軸が予想よりも大幅にずれ始めていることから推測できる災害が多数。根拠は自然環境の大幅な変化による。その訓練ともならば多次元移動も考察しての記号若しくは暗号――――――」
そうか。・・・つまりこれは、お菓子・お箸という身近なものを使った子供たちに対する避難訓練を通した人生への訓戒!
「ねぇねぇ、広美~。お・か・しって何だったっけ~?もう昔のこと過ぎて忘れちゃったよ~」
前の席の女子が振り返って、俺の隣に座るクラスメイト篠原 広美に問うている。
ふっ、こんな大事な救いの原理を忘れてしまうとは、人類というのは本当に愚かしいものだな。
「あのなぁ・・・」
言いかけて思い止まる。俺は無気力系主人公。
事もあろうに人類の救いの法力とも言える、ミロクメシアの源法たる術式が隠された言霊をつらつらと語るなどあってはならない事。
まずは、この世界に出回っている聖書から話をせねばなるまいが、無気力系男子が聖書などを持ち歩いたり語ったりするなんてこと考えられようか?否!それでは再びタイトル詐欺ではないか。次回から「布教系主人公のように生きているとラノベのような事件ばかりを起こしがちだから最早モブじゃない!」に変更しなくてはならないようなクレームが来てしまう。
「忘れちゃうよね?あんまりそんなの思い出さないし。押さない・駆けない・喋らない、要するに静かにっていう意味で教える学校もあるみたいだよ」
・・・は?
「そうだったそうだった!さっすが広美!ありがとねん♪」
いえいえ、とにこやかに手を振る篠宮さんを横目に俺は戦慄する。
なんだそれは?
押さない・駆けない・喋らないだと!?
幼稚園か!?いや、確かに小さい子供の時分に習うことだったと言っていたではないか!
そうこうしているうちに、校内放送が始まる。
ウー!ウー!というサイレン的な音の後にけたたましく非常ベルが鳴り響き皆で身の安全を守る動作をする。何てことは無い、鞄で頭と首を守る動作と言われるが、鞄を頭に載せただけだ。窓は開いているから、別段ほかの行動もする必要が無い。
そして、のそのそと避難場所という設定で校庭に向かい、あっけなく訓練は終了した。
いや、ほら、ここで、毎度毎度「本物の」事件とか災害が起きちゃったりするじゃないですか!?ラノベだったらさ!
・・・・・・勿論、そんな願いも虚しく、なんにも起きなかった。
今日も、何にも起きずに、一日が終わってしまうのだった・・・。




